第10章 レース前夜 語り合うふたり"謝罪と理解"
静かな森の夜。
焚き火のぱちぱちという音だけが、ふたりの間に流れていた。
うさぎが小さく息を吐いた。
目は焚き火ではなく、地面の一点を見つめている。
「……あのとき、レースが終わって、お前に言ったこと。ほんとに……ごめん」
かめは顔を上げて、うさぎを見つめた。
「“お前のせいで退屈だった”って。あれ、嘘だよ。というか……ほんとは、自分でもよくわからなかったんだ。負けたのが、ただ……悔しくてさ」
うさぎの声は、少し震えていた。
「オレ、負けたのが恥ずかしくて、悔しくて、誰かのせいにしたかった。自分が眠っただけなのに、“お前が遅すぎたからだ”なんて言って……最低だった」
かめは焚き火に目を落とし、静かに言った。
「……僕も、声をかけなかったこと、ずっと引っかかってた。うさぎが寝てたのは、たしかにびっくりしたけど、もしかして具合が悪いんじゃないかって思った。でも……勝ちたい気持ちが先に来て、足を止められなかった」
うさぎは顔を上げ、驚いたようにかめを見つめた。
「……お前も、悩んでたのか」
「うん。ねずみに責められたときも、何も言えなかった。僕は“正しいことをした”って思い込もうとしてた。でも、心のどこかで、そうじゃないってわかってた」
うさぎは焚き火の炎をじっと見つめた。
その瞳の奥に、ようやく曇りが晴れていくような、やわらかな光が宿っていた。
「……明日、ちゃんと走るよ。今度は、お前のことも、オレ自身のことも、ちゃんと信じて」
「僕もだよ。うさぎと、ちゃんと向き合って走りたい」
ふたりは、静かに焚き火を見つめたまま、ゆっくりと目を閉じた。
その夜、森のどこかで風が優しく吹いた。




