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第2話「対異能特殊部隊:第1課」



 2007年4月23日


 爆ぜた肉片が、地面に湿った音を立てて落ちる。

 焦げた空気が鼻を突き、風に乗って血の匂いが流れた。

「クロヱ!そっち行ったぞ!!!」

 鋭い声が飛ぶ。呼ばれた少女、『沙花叉クロヱ』は即座に反応する。

 沙花叉の視線の先、瓦礫を飛び越え鋭い牙を剥いた魔獣が突進していた。

「『暗殺術』………」

 短く呟き、沙花叉は両手のナイフを逆手に構える。

 目線はぶれない。


 ――――『影葬(えいそう)』――――


 刹那、沙花叉の姿が霞み、魔獣の首が宙に浮いた。

 首なしの巨体は慣性のまま3歩進み、そこで崩れ落ちた。

 頭上。もう一体の魔獣が影のように降りかかる。

 沙花叉が防御を取るよりも速く、風を裂く鋭い音が空気を断ち切った。

「『飛斬(かまいたち)』!!!」

 銀の軌道が斜めに走る。次の瞬間、魔獣の胴が真っ二つに裂けて地に叩きつけられた。

 斬撃の主、『ギルツ・レナーテ』は片刃の剣を構えたまま、すぐに周囲を確認する。

「三体、北東……いろはの方だ!」

 ギルツの声に反応するように、別の方向へ目を向けると刀を持った少女の姿があった。

 少女は金髪に柔らかく透明感のあるエメラルドグリーン色の瞳を持っていた。

『風真いろは』、その瞳は迷いも恐れもなかった。

「『風真流』………」

 腰を落とし、刀を両手で握り直す。

 空気が震える。

 

 ――――『風ノ太刀(かぜのたち)白嶺(はくれい)』――――


 踏み込みと同時に、三体の魔獣が一斉に倒れた。

 切り裂かれた音すら、誰の耳にも届かない。

「こよちゃん!飛行型が街の方向行った!だいたい十体くらい!!!」

 インカム越しの報告に、ビルの屋上にいた白衣の少女が目を細める。

「了解!こよにお任せ〜♪」

『博衣こより』の背後には、ミサイルのような小型兵器がずらりち並んでいた。

「ふっふっふっ……この新作ちゃん達をとくとご覧あれ!『こんこよミサイル』発射!!!」

 こよりがスイッチを押した瞬間、噴射音とともに十発のミサイルが次々と飛び立つ。

 飛行型の魔獣にロックオンし、追尾するように空を駆ける。

 次の瞬間、空が火の花を咲かせた。

 爆煙の向こう、魔獣たちは影を残さず消えた。

「……街方面、制圧完了〜。あとは3課の人たちに任せて、帰還といきますか!」

 こよりの声に、ギルツたちは静かに頷いた。


――――――――――――――――――


「たっだいま〜!」

 沙花叉が勢いよくドアを開けた。

 戦闘を終えて直後とは思えない軽やかさ。

 ほんの少し、得意気な笑みまで浮かべている。

「あれ、ずいぶん早かったじゃないの」

 緩く声をかけ4人を出迎えるのは『アイン・ザムカイト』。

 その見た目は純白とした髪に明るい黄緑の瞳をしていた。

 外見は儚げ、だがその奥にあるのは強靭な精神と異能の才。

「そいつはこっちのセリフだぜアイン、お前もルイと出てたじゃねーか」

 ギルツが椅子に剣を立てかけ、冷えた水を口に運びながらそう返す。

「ルイ姉と私が合わされば一瞬よ〜!」

 アインが得意気に胸を張った、直後

「こら、『任務』を勝ち負けで語るなって何度言った?」

 パシン、と乾いた音が響く。

 ルイが手にしたファイルでアインの頭を軽くはたいていた。

 落ち着いた声だが、背筋を伸ばさせるものがある。

「はーい……」

 苦笑しながら頭をさするアインを見て、沙花叉がくすりを笑う。

 そんな他愛のないやりとりを眺めながら、ギルツは立ち上がった。

 対異能特殊部隊、4年前の事件をきっかけに設立された異能を専門とする組織。

 『野々村洸哉』を中心に拡大していき第1課から第5課まで結成される。

 第1課は『野々村洸哉』を始めとし『ラプラス・ダークネス』、『鷹嶺ルイ』、『博衣こより』、『沙花叉クロヱ』、『風真いろは』、『アイン・ザムカイト』、『ギルツ・レナーテ』、『中井和玄(なかいかずはる)』の計9名の構成になっている。


「ほぉれぇ〜〜集まれぇガキどもぉ〜〜!」

 野々村は今日もまたふぜけたテンションで入ってきたように見えるも、目だけは鋭かった。

「おっ、なんか重要な話っぽい?」

 

「次の任務だァ……今回は第1課、全員出撃とする」

 空気が変わる。

 冗談めいた口調の中に、明確な緊張が走った。

「え、全員って……」

 野々村の言葉に中井が困惑する。

「そんなの吾輩一人で十分でしょ!」

 ラプラスの言葉に否定するものはいなかった。

 むしろ当然だという空気すらある。

「ラプラス……お前の弱点は一人しかいないってことだ」

 そういうと野々村がホワイトボードを持ってくる。そのホワイトボードにはいくつかの写真が貼ってあった。 

「今回扱う件は……『東鷹会(とうようかい)』、まぁ暴力団……ヤクザってやつだ」

『ヤクザ』という言葉にギルツたちが唾を飲む。

 野々村が淡々と説明を始める。

「東鷹会の構成員は約380人、準構成員も入れると約600人だ。表向きじゃあ『鷹栄興業』っつー企業を運営してる。今回は第1課、第2課、第3課の編成だ。うちに声がかかったのは薄々気づいてるとは思うが異能使いが数名いるのが理由だ」

「数名の異能使いじゃ警察でも事足りるんじゃ?異能使いもいるし」

 するとルイが指摘する。

「まぁ下手な異能使いならそうだが東鷹会の異能使いはそうもいかねぇ、元々は大手の『黒龍会(こくりゅうかい)』の一派だったこともあり凶悪って話だ。そして拠点が幾つかあるからそのうちの一つ……ラプちゃん、頼めるか」

「任せろぉい!………つーかラプちゃんやめろっつってんだろ!!!」

 飛びかかろうとするラプラスをこよりが止める。

「事務所の中に入るんだろうけどこよりはどうするんだ?継続戦を室内でだと結構きついだろ」

「そこは大丈夫よんギルツちゃん♪小型の戦闘アイテムもありますからぁ〜。それに、一応こよも獣人種だからね」

「そういうわけだ。っつー事で作戦と構成員の能力を説明すっから鼻と耳の穴かっぽじってよ〜く聞けよぉ」

 野々村達はいつも以上に真剣になって話し合いを進めていった。


――――――――――――――――――


「ちょっと一つ聞いていいか?」

 会議を終えた後、ギルツが野々村に個人的に質問をする。

「ラプラスについてだが……正直、あいつの実力と能力なら1人でも片付くと思うんだが」

「…………………………俺ァ優しいからな」

 野々村は少し黙り込んだ後、そう言い流す。

 野々村の様子にギルツが少し違和感を覚える。


 

――――――――――――――――――


 2007年4月29日


 快晴。空は抜けるような青。

 だが、その下に立つ者たちの表情は、ひとつとして晴れやかではなかった。


 目の前には東鷹会の事務所があり、重厚な門の前に数台のパトカーと各課の隊員が集結していた。

「……今日は天気が良いでござるなぁ」

 空を見上げながら、いろはは独りごちる。

「雲ひとつない快晴となると……流石に日差しがきついわね……かず、日焼け止め持ってないの?」

「俺がそんなの持ってると思います?ギルツさんからも何か言ってくださいよぉ」

 中井が手持ちの扇風機をアインに向けながらギルツに助けを求める。

 ギルツは事務所の玄関周りに人気がしない事を気にしていた。

「何ぃ?ギルツ〜、緊張してんの?」

 ギルツの隣に立つ沙花叉がからかうように声をかける。

 ギルツは視線を外さす応じる。

「いーや?それより沙花叉、ルイがいねぇんだからヘマすんなよ?」

「ちょっと沙花叉を何だと思ってるのさ……!」

 唇を尖らせる沙花叉を軽く無視してギルツはポケットから端末を取り出す。

 通話先は野々村と表記されていた。

「おいおいギルツ〜俺が恋しくて電話なんてよこして来やがったなぁ?」

「おいおい酔ってんのか?」

「生憎、俺が酔ってんのは自分だけだぜ」

 野々村の冗談話にギルツは静かにため息を吐く。

「……本題だ。事務所の玄関周りから人の気配がしねぇんだ、そっちの様子が聞きたい」

「そいつは奇遇だなぁ……こっちも全くと言って良いほどしねぇ。……十中八九、罠だろうな」

「だが突っ込むしかない……って判断か?」

「あぁ……何が出てくるかわからんが、対応力で潰せ。ギルツ…………アインを頼む」

「………アイン?」

 野々村はそれ以上答えなかった。

 その直後、突入の合図が無線を通じて鳴り響いた。

「さて………どう来る…………」

 ギルツの額に冷や汗が一滴、垂れる。

 そして。

 全員の足元に、唐突に『影』が広がった。

「敵の異能か……!?」

 瞬間、足元の黒い影がまるで底なし沼のように吸い込もうとしてくる。

 逃れる余地はない、まるで『招かれた者』のように影に飲まれていく。

「いや、これは………………()()()()()ワープゲート!!!」

 ギルツが目を見開いた。

(これが意図的なものではないのだとしたら………!)

「沙花叉!いろはを連れてラプラスの元へ向かってくれ!ラプラスに何かあった可能性がある、お前の能力ならワープゲートを潜り抜けられるだろ!」

「了解!!!」

 沙花叉がそう返事するといろはと共に地中に潜っていく。

 残されたギルツ達はなす術なく影に沈んでいく。

 次の瞬間、視界が暗転し空気の匂いが変わった。

 土臭さ。鉄と油、そして血の混じる空気。

「………地下か」

「ギルツさん大丈夫ですか!」

「あぁ……アインは!」

 ギルツと中井が周囲を見回すもアインの姿は見当たらなかった。

 代わりに数名の隊員が共にいた。

「分別されたか……!」

 一言呟くや否や、奥から大勢の構成員を引き連れた大柄な男が現れる。

「なんやハズレかいな………」

「舎弟頭………『白石幸三(しらいしこうぞう)』……………!」

 ギルツ達の前に現れたのは東鷹会:舎弟頭『白石幸三』だった。

 2人以外の部隊の人間も刀などの装備を手に持ち戦闘態勢になる。

「……こっちは平和に行こう思っとんのに、刀なんて見せつけおって……殺生なもんやな」

「…………その殺気で平和に行こうなんざ、刀を抱いて茶でも飲むつもりか?」

「言うやないか……ほな、遊んだろかい!!!」

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