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第1話「目醒め」


 2003年11月26日


「やぁ………おはよう……」

 水槽のようなチューブの中で少女が目を覚ますと、白衣を着た男が目に映る。

「………君が………新しい魔王だ」



 2005年2月18日


 中学生の少年が自然豊かな田舎道を歩いていた。

 その日の天気は快晴で少年はどこか気分良さげに歩を進めていた。

 しかし少年の笑顔は一瞬にして豹変する。

「ロ゙ロ゙ロ゙ロ゙ロ゙ッッッ!!!!」

 少年の目の前に猪のような化け物が現れる。

 その大きさは一階建ての住宅を超える大きさだった。

 化け物の正体は『魔獣』という存在だった。

「なっ………なんだよ…………こいつ……!」

 少年は恐怖のあまり尻餅をついてしまう。

 その声は震えており細々としていた。

『魔獣』、古くから存在する魔力を生命源とする獣。

 日本の7割が結界によって人里に魔獣が現れることは無くなっていた。

 しかし地方などでは結界が行き届いていない場所も少なからずある。

 巨大な魔獣は少年に向かって猛進する。

「あぁ………死ぬ…………!」

 少年が諦めたその時だった。

 魔獣が横に吹き飛ぶ。

「…………………………え?」

 魔獣を殴り飛ばした人影が見え少年は困惑する。

「おぉい!大丈夫か!?」

 魔獣を殴り飛ばした少年の髪はカラスの羽のように黒く、瞳は透き通るような瑠璃色だった。

「あっ……はい………」

 少年が返事をすると殴り飛ばされた魔獣が起き上がってくる。

「おいおいマジかよ……結構強めのいったぜ?」

 瑠璃色の目の少年は冷や汗を流す。

「……アンタはとりあえずあっちの方に隠れといてくれ」

「は、はい……!」

 少年はそう言われるがまま隠れる。

(なんなんだあの人……あんまバケモノを目の前にしてなんで…………笑ってんだ……)

 魔獣は一直線に突進してくると瑠璃色の目の少年は高く飛び跳ねてよける。

「今度こそっ……!うぉらァ!!!」

 そういい先ほどより強く、勢いよく殴る。その衝撃は魔獣の頭がへこむ程だった。

「すっ………すごいっ…………!」

 魔獣が息絶えると魔力の粒子になって灰のように散っていく。

「ふぅ〜……」

「あ、あの!名前……!お礼したくて………!」

「礼なんて大丈夫だぜ。そんで名前は……『ギルツ』だ、『ギルツ・レナーテ』。お前は?」

「ギルツさん……えっと僕は『戸根川隆二』、あなたは……異能使いの人?」

 ギルツと隆二は互いに挨拶を交わす。

「まぁそんな感じ………うん」

 ギルツは途端に隆二から目を逸らす。

「もしかして………無免許……?」

 ギルツがその言葉を耳にして動揺する。

「いいい、異能つってもあってないようなもんだから!ま、まぁ何はともあれ助かったんだ!それでいいじゃねぇか!」

 この世界には『固有(ユニーク)スキル』と呼ばれる『異能』を持った人間が一千人に一人ほどいる。

 その異能は時に脅威となることもあり、社会では厳しく規制されていた。

 異能を使うには『異能使用免許』を取得する必要がある。異能によって犯罪を行う者は『異能犯罪者』と呼ばれている。

「あ、そうだ。ギルツさん、僕の家に来ませんか?ちょうど今日すき焼きなんですよ」

「おっ!すき焼き……断る理由がねぇな。……あとさん付けは勘弁な、ムズムズするから。『ギル』って呼んでくれよ、よくそう呼ばれるんだ」

「ギル………くん……。ちょっとまだ慣れないや」

「少しずつでいいさ。……つーかいくつよ」

「………15」

「なんだタメじゃねーかよ」

 隆二はギルツに肩を組まれながら自宅へ向かう。


――――――――――――――――


「おっ邪魔しま〜す!」

「ただいまぁ」

 ギルツが隆二の家に入ると大きな声で挨拶をする。

 すると奥から隆二の母親が出迎える。

「あらぁ〜お友達?」

「友達というか……この人が魔獣から僕を助けてくれたんだ」

「どもっす」

 隆二が詳しく説明すると母親は驚愕しギルツに何度も頭を下げる。

 ギルツは食卓につき、隆二の母親が作るすき焼きを待つ。

 そんな時だった、インターホンの音が家の鳴り響く。

「僕が出るよ」

 隆二がそう言い玄関に出ると、黒いコート着た男が立っていた。

 その男の腰には刀があった。

「あの……どちら様で………」

「俺ァ……こういうもんだ」

 男が手帳を見せると、それには『対異能特殊部隊』と書かれていた。

 その手帳には名前が書いてあり、『野々村洸哉』と記されていた。

「…………部隊の人が……うちになんで………」

「ちょっと……上がらせてもらうよぉ」

 隆二が困惑していると野々村が家に土足で上がり、ギルツの場所に向かう。

「んぁ?誰だよおっさん。てか靴脱げよ」

「お前……さっき魔獣のこと………やったろ?免許なんざ持ってねぇだろ」

「あんた……部隊の人間か。免許がなきゃ人も救っちゃいけねぇってのか」

「無免許の異能使用は立派な犯罪だァ……まぁなんだ、俺と一緒に来てもらおうか」

「こ、この人は……!僕のことを助けてくれたんだ!異能犯罪者のような人じゃない!!!」

 隆二がギルツの前に出て擁護する。

 野々村はそんな隆二を殴り飛ばす。

「なっ……!てめぇ………!!!」

「おっ、なんだやる気になったか。お前みたいなやつは素直についてくるわけねぇもなぁ……こっちの方が話が早い」

「ダメだ……ギルツくん………部隊に手を出したら…君はタダじゃ済まない……!」

 隆二がそう言いギルツの足を掴む。

「どの道こいつは俺を捕まえる気だ。俺にはまだやることがある、おとなしく捕まる気はねぇよ。ほらおっさんかかってこいよ」

「俺も鬼じゃねぇんだ、民家を巻き込むような真似はしねぇよ。表……出ようぜ?」

「隆二のこと殴っといてよく言うぜ……」

 ギルツが小言を呟きながら野々村と外へ出る。


――――――――――――――――


「俺ァ刀は使わねぇから安心しろよぉ。それに……」

 野々村が話しているとギルツが後ろから殴りかかる。

「ぐっ………!」

 野々村は咄嗟に受け身を取るも膝をつく。

(重い……魔力を込めずに獣人種並の馬力……)

「…………」

 不意打ちをするギルツに野々村が睨みつける。

「はっ!部隊のくせして油断かよ!」

「クソガキが……!」

 野々村がそういい立つと構える。

 ギルツが自信をつけると野々村に向かって走り出す。

(なんだよ部隊つっても大したことねぇじゃねーか。こいつ潰して隆二に頭下げさせる!)

 ギルツが何度も攻撃するも野々村に全て手で受け止められる。

「なっ……!」

「不意打ちが成功して随分嬉しそうだったじゃねぇか」

 野々村がそういい反撃する。

「ぐふっ……!」

 ギルツが蹴り上げられ視界に地面が広がる。

「どうした……金でも落ちてたか?」

「てめぇ…………!」

 ギルツは野々村を睨みつける事しかできなかった。

 ギルツががむしゃらに攻撃するが一つも届かなかった。

(ダメだ……勝てねぇ………)

 一方的な勝負にギルツの意識が飛びそうになる。

 その瞬間だった、地面から棘のようなものが飛び出てくる。

「な、なんだ……!?」

「おいおいこんな田舎にいていい奴じゃねぇだろ……」

 地面から出てきたのは巨大な蜘蛛のような魔獣だった。

「なんだよ……こいつ………」

「………軽く見積もってもS級相当……下手すりゃ特定魔獣に数えられるだろうな」

 恐怖に包まれるギルツに相反して野々村は余裕そうに推測する。

 すると野々村が刀を手に取る。

「その刀………」

 ギルツが野々村の刀から禍々しい何かを感じ取る。

「お前はあの小僧とその親を連れてここを離れろ。俺ァこいつを斬る」

 野々村が魔獣に向けて刀を向けてそう言う。


――――――――――――――――


「はぁ……はぁ………」

 ギルツは隆二達を連れて走っていた。

「……ここまでこればもう大丈夫だろ」

「うん……ありがとうギルツくん」

「俺はあのおっさんのとこに戻る」

「え、でも……」

「あのおっさんは確かにバカ強ぇけど……あの化け物に一人はやばいだろ」

「き、気をつけて………」

「あぁ、お前は母親を見ててくれ」


――――――――――――――――


 ギルツは野々村の元に駆けつけると想像を絶するものを目にする。

「なっ……なんだよ………これ………!」

 ギルツが見たものとは、バラバラの魔獣と傷一つも無い野々村の姿だった。

 少しずつ散っていく魔獣を見ながら野々村はタバコを吸っていた。

「お、戻ってきたか。追う必要が省けてよかったぜ……さっきの続きをやろうか」

「え、いや今はそれどころじゃ……」

「『神速』……!」

 ギルツが言う間もなく野々村が一瞬で近づく。

 野々村はギルツの溝うちを強く殴る。その一撃はギルツの意識を飛ばすほどだった。

「ちく……しょう……………」


――――――――――――――――


 ギルツが目を覚ます。

 銀髪と赫い瞳の少女がぼやける視界に入る。

「あ、起きたよルイ姉。えっと……誰だっけ」

「だ、誰だ……あんた…………」

「ばっくばっくばく~ん。シャチの沙花叉で〜す」

 ギルツを茶化すように自己紹介をしたのは『沙花叉クロヱ』だった。

 その後ろから羽のような髪型を持つ少女が現れる。

「こぉら、余計混乱するでしょうが。よろしく『ギルツ・レナーテ』くん、ようこそ!『対異能特殊部隊:第1課』へ」

「おぉ……いい目覚めじゃねぇかァ………()()()

 ギルツの名を呼ぶのは野々村だった。

 野々村の姿を見た瞬間ギルツが途端に起き上がる。

「て、てめぇ……!」

「どんな対応したらこんな形相で睨みつけられるんだよ」

 野々村の横から大きなツノの生えた紫髪の少女がそういいあざ笑う。

「やだなぁラプちゃ〜ん、俺ァ部隊としての役目を果たしただけだぜ?」

「ラプちゃんやめろって言ってんだろ!このヤニカスジジイ!!!」

 そう怒鳴りながら野々村の脛を蹴るのは『ラプラス・ダークネス』だった。

「だぁめだよラプちゃん、先生に乱暴しちゃ」

 イヌ科の耳を持った桃色髪の少女『博衣こより』がラプラスを宥める。

「そこのお前……さっき部隊つったか?」

 『鷹嶺ルイ』にギルツが聞くと野々村が代わりに答える。

「あぁそうだ、ここは『対異能特殊部隊:第1課』…………お前が所属する場所だよ」

「………………………………はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

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