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ただ者じゃない

登場人物

 エリアス・アルドレッド:異世界の大賢者、魔法使いの老人。異世界に転移した。

 エリカ:エリアスが異世界転移して若返り、女性化した姿。

 鈴木大輔:エリカと出会った少年。


 エリカと大輔は、しばらく言葉を交わさないまま住宅街を歩いた。都会を吹き抜ける優しい風が、ふたりの頬を撫でるように吹き抜けていく。エリカはその静けさに心が落ち着くのを感じた。やがて住宅街の一角に立つ鈴樹家にたどり着く。


「ここが、僕の家。安心していいよ」


 大輔が案内する鈴樹家は、都会の住宅地に建つ一軒家でありながら、豪邸と呼ぶにふさわしい堂々とした外観だった。高いフェンスに囲まれた庭、立派な玄関扉、大きなガレージがあり、夜の静寂の中で、月明かりが屋敷の美しいフォルムを照らしていた。風が庭の木々を揺らし、葉がさらさらと音を立てている。

 大輔は、エリカが普通の少女とは異なり、この豪邸に対して物怖じする様子がないことに内心で驚嘆していた。子供のころこの家に遊びに来た友人はみな萎縮してしまっていた。そんな屋敷であっても、目の前の不思議な少女は全く動じていない。

 動じていないのは当然で、魔法を使えば目の前の少年から逃げ出すことなどわけはない。エリカが内心で、(もし、なにかされるようなら記憶を消して逃げてしまおう)などと気楽に考えていたことに大輔が気がつかないのは幸いだったろう。


「本当に、ただ者じゃないんだな……」


 なにも知らない大輔は心の中でそう呟きながら、彼女を家の中へ招き入れた。広々としたリビングには温かな照明が灯り、エリカの緊張を少し和らげた。


「悪いけどここで少し待ってて」


 玄関まで少女を迎え入れた大輔はそういうと屋敷の奥へと向かっていった。もし、エリカが元からの少女であれば、警戒して屋内には入らなかったかもしれない。大輔に邪な感情があればむしろ招き入れはしなかったかもしれない。そんな偶然も助けとなって、エリカはしばし、屋敷の住人がやってくるのを待つことになった。

 大輔はひとりの女性をともなって戻ってきた。外見からは三〇歳代のようにも、もっと落ち着いていてより高い年齢のようにも見える。落ち着いたダークブラウンのセミロングヘアをゆるく下ろし、リラックスした雰囲気をかもし出している。


「母です」


 大輔はエリカに女性を紹介した。内心で(ずいぶん若い母親……)とエリカはそう思った。他人から見たら、今のエリカの方がはるかに若いのだが。

 大輔の母は自分の名を鈴樹真由美だと自己紹介した。エリカの方は、名前までは言えたがそれ以上のことは伝えられなかった。記憶が断片的にしかなく、伝えることがろくになかったからでもあるが。

 真由美はエリカの様子を見て、事情を詳しく聞くことをあきらめたようだ。そして、彼女を優しく受け入れた。


「この子には、何か特別な事情があるのね……」


 大輔は母親のその一言に驚き、そして同時に安心した。彼の母が聡明で勘が鋭いことを改めて実感した瞬間だった。真由美の許可を得てエリカはしばらくの間、鈴樹家に身を寄せることとなった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

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