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転移と異変

登場人物

 エリアス・アルドレッド:異世界の大賢者、魔法使いの老人。

 エリアスは、心の中に渦巻く記憶の断片を抱えたまま、巨大な街をさまよっていた。

 彼の身体はすっかり若返り、一五歳ほどの少女の姿になっていた。だが、そのことに彼は気付いてはいなかった。今の彼が着ているのは異世界の老魔術師がまとっていた大きなローブ。長すぎる袖が手を覆い、裾は地面を擦りそうなほどだった。異世界では威厳を感じさせるその衣装も、その都市……現代の東京では完全に浮いていた。

 高層ビルが立ち並び、ネオンが眩しく輝く夜の繁華街。車のクラクションや人々の喧騒が響き渡り、エリアスにとっては全てが圧倒的だった。彼の奇妙な姿に、通りすがる人々が驚いたような視線を向けているのに気づくと、エリアスはその目を避けるようにうつむいた。


「……ここは……どこだ?」


 この世界に投げ出されたエリアスは、何も分からないまま不安を抱えていた。彼の頭には、アルヴェリオでの断片的な記憶が蘇っていたが、それは今の状況を理解する手助けにはならなかった。

 エリアスは自分自身に魔法をかけた。それは周囲の者たちの会話を収集して自動的にその土地の言葉を習得する魔法だ。アルヴェリオで編み出されたその魔法は、一刻でも早くその土地に馴染むためものだという。やがて、ただの雑音だったものが、「なんだ、あの女?」という人の言葉として聞き取れるようになる。

 そうしてようやく、エリアスは体の違和感に気づいた。アルヴェリオで老魔術師だった彼の体は、今は若く軽やかだ。息はまったく上がらず、まるで何キロも走れるかのような感覚があった。


「……若返っている?」


 エリアスは自分の体を見下ろし、驚きと戸惑いを感じた。だが、次の瞬間、彼はさらに驚愕することになる。彼の視線は胸元に留まり、そこには明らかに女性のものとしか思えない身体があった。手を触れてみると、柔らかな感触が返ってきた。


「私の体が……女性に?」


 彼……いや彼女は、その事実に衝撃を受けながらも現実を受け入れるしかなかった。この変化がナグラードの呪いによるものか、それとも魔法の暴走の結果なのか――その答えはわからなかったが、現実は変えようがないのだ。

 この状況に一層混乱を感じつつも、周囲の視線に怯え、彼女は早足でその場を立ち去った。


最後までお読みいただきありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

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