転校生はお年寄り……っぽい?
登場人物
鈴樹エリカ:転校生の少女。なんだかお年寄りっぽい。
鈴木大輔:エリカのパートナー。エリカの秘密を知っている。
エリカの転校した桜花学園の昼休み。
注目の転校生であるエリカはクラスメイトの女子たちと一緒に教室で昼食をとることになった。教室内は、お弁当を取り出す生徒たちのざわめきで賑わっており、窓から差し込む五月の柔らかな日差しがカーテンを優しく揺らしている。机を並べて友達と向かい合う生徒たち、食事をしながら笑い合う声が教室中に響き、青春の香りが漂う。
エリカも自分のお弁当を取り出し、机の上に丁寧に広げた。実は大輔のお手製だ。周りの生徒たちの中にはすでに食べ始めているものもおり、その光景を目にしたエリカは、彼女の胸の奥が温かかくなるのを感じた。
(こういう時間って、いいものね……)
エリカは心の中でそう呟きながら、箸を手に取った。大輔もエリカのそばに座り、彼女の様子を静かに見守っていた。
「エリカさんって、お弁当もきちんとしてるんだね」
「うん、なんか食べ方がきれい」
「なんか、お婆ちゃんみたい」
その声はエリカの耳に届き、おしゃべり好きの女子生徒たちの方に視線を動かした。
しまった、という表情で緊張する女子生徒たち。
だがエリカはそのコメントに不快感を示すどころかにっこりと微笑んで見せた。
その笑顔の鮮やかさに「ほう……」と感嘆の息をはく周囲の生徒たち。
当の噂話女子たちは、頬を赤く染めている。たぶん「萌え」ているというやつだろう。
エリカの笑顔にはそのくらいの破壊力があった。
「私、あまり気を抜くのが得意じゃなくて……無理してリラックスするのも、なかなか難しいものね」
その言葉を聞いた周囲の生徒たちは、一瞬頭の上に「?」が浮かんだものの、(まあ、かわいいからいいか……)と思考が移って、表情が緩んだことが他人から見て丸分かりだった。
一方で大輔は、エリカが本当に自然体でいるのか、それとも何かを隠そうとしているのか疑問に思った。彼女がこの世界で馴染むために努力していることは分かるが、その努力が逆に彼女を目立たせてしまっているのではないかと心配だった。
エリカは食事を終えた後、手を合わせて「ごちそうさまでした」と丁寧に言った。その仕草もまた、どこか年寄りのような落ち着きを感じさせるもので、クラスメイトたちは再びひそひそと囁き始めた。ただし、その囁きは明らかに好意的な色合いを帯びていた。
「なんだか、エリカさんって不思議な感じがするよね……」
「でも、すごく優しいし……」
「うん、なんだか落ち着くし……」
「これから仲良くなれそうだよね……」
エリカは周囲の好意的な反応を感じ取り、内心で安堵した。彼女にとって、この新しい環境での一歩一歩がとても貴重に思えた。
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