少し変わった転校生
新作です。よろしくお願いします。
エリカは、教室のドアを軽くノックしてから静かに開けた。そこには、クラスメイトたちが一斉に彼女の方を見ている光景が広がっていた。
珍しい高校での転校生を迎えるということで、生徒たちは少なからず興味を持っているようだ。エリカは内心少し緊張しながらも、穏やかな笑顔を浮かべて教室に入った。
教室のざわめきが一瞬静まり、エリカの姿に視線が集まる。漆黒のショートカットは身体の動きに合わせて微かに揺れ、額にかかる前髪は涼しげな瞳を引き立たせる絶妙な位置にカットされている。小さな顔立ちと華奢な体つきは、みごとに彼女への庇護欲をかき立たせる。だが、そんな彼女の所作は子供っぽさはない……というか若者らしくもない。お年寄りが慎重に歩みを進めるさまが感じられ、教室の中に漂う青春の空気に少しだけ異質な印象を与えていた。
「おはようございます。鈴樹エリカです。今日から皆さんと一緒に勉強することになりました。よろしくお願いします」
エリカは控えめに頭を下げながら自己紹介をした。彼女の声は澄んでいて、落ち着いたトーンが耳に心地よい。だが、その口調はどこか丁寧すぎると感じられるかもしれない。
教室の後ろの席に座っていた鈴樹大輔は、エリカの様子をハラハラしながら見守っていた。彼はエリカがうまくクラスに溶け込めるかどうか、不安に感じていた。鈴樹家に彼が連れてきたときから、エリカの独特な雰囲気には何か特別なものを感じていた。彼にとってはそれは魅力的だったが、それが周囲にどう映るのかは未知数だった。
「おはよう、鈴樹さん。あなたの席はあそこ、窓際の空いてるところね」
担任の女性教師が優しく指示を出すと、エリカは教室の後ろの窓際にある空席へと歩いていった。その動きはとてもゆっくりで、焦ることなく慎重だ。まるで長年の研究を経て老成した学者のような落ち着きが感じられる。
大輔は、彼女のあまりにも落ち着きすぎた態度が、クラスメイトたちがどう反応されるのかが気になって仕方がなかった。大輔は、彼女エリカが周囲から浮いてしまわないかが心配だったのだ。
「すごく落ち着いてる子だね……」
「なんか、すごく礼儀正しいけど……」
「ちょっとお年寄りっぽくない?」
周囲の女生徒たちがひそひそと囁くのが耳に入ってきた。大輔はその言葉に少し身構えたが、エリカは気にする素振りも見せず、静かに席に着いた。彼女は窓の外に視線を移しながら、小さく息をつく。
(ふう……思ったよりも、少し緊張した……。でも、何とか大丈夫そう)
教室の窓から見える空は青く澄み渡っており、エリカは心が少し落ち着くのを感じた。彼女は、すぐにクラスメイトたちと打ち解けられるだろうかと少し不安を覚えつつも、自分のペースでやっていこうと心に決めた。
だが、その一方で、胸の奥底に潜む不安は消えない。
大輔はエリカのそんな表情を観察し、彼女が何かを隠しているように感じていた。だが、その隠しごとが何であるのかは全く分からなかった。
「鈴樹さん、よろしくね。私は黒崎レイナ。まあ、気軽に話しかけてよ」
すぐ近くの席に座っていた女子生徒が、にこやかに話しかけてきた。エリカは、その優しい雰囲気にほっとして、軽く笑みを返す。
「ありがとう、黒崎さん。よろしくお願いします」
エリカの言葉遣いは、年上の人が使うように丁寧で、黒崎も少し戸惑った様子だった。だが、彼女はすぐに気を取り直して笑った。
「うん、そんなにかしこまらなくてもいいよ。みんな友達なんだからさ」
大輔はそのやり取りを見て、少しだけ安心した。だが、エリカの「普通じゃない」部分がクラスメイトたちにどんな影響を与えるのか、まだ完全に油断することはできなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ラストまで書き上げています。続きも読んでくれると嬉しいです。