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労働基準監督署編①

労働基準監督署に来ました!

 九月。私は労働基準監督署に赴いた。

 実はこうなる事は八月には想像できていた。退職した際に七月働いた分は八月に、八月は九月に支払う旨は聞いていたが八月の支払いが無かったからだ。ただ金額や手続きも含め「もしかしたら九月にまとめて払うのだろうか」と淡すぎる期待を持っていた。あっさりその期待を裏切られた私は労働基準監督署に来たわけだ。

 色々と想像はしていたがその想像とは裏腹に、労働基準監督署には結構な人がいた。フロアごとに対応する部署が区切られていたのだが、とりあえず総合労働相談というコーナーで尋ねてみることにした。

 受付の様な区画があったが人がいるわけでもベルがあるわけでもない、見える奥で職員がパソコンで作業をしている様だが一瞥もされない。「ああ、こういうタイプなのね」と事務所の奥まで聞こえる声でわざと「すみません」と声をかけると年配の女性が対応してくれた。

「どうされましたか?」

 どうされましたかと来たかと嫌味ながらに思った。こちらは「相談を希望の方はこちらに」の受付に来ているのだ、コンビニやスーパーのレジに訪れた人に「どうされましたか?」とは言わないだろうと。ただ労働基準監督署が訪問者に対してどういう態度で対応するかのスタンスをつかめていないので丁寧に反応することにした。

「給料の未払いについて相談したいのですが、こちらで合っていますか?」

「ああ、ではこちらに記入をお願いします」

 書類には氏名や住所から相手の会社や相談の経緯などかなり細かく大変面倒な記入欄であったが、相談者と労働基準監督署で認識の齟齬があってはいけないのだろう、現在の状況をそのまま記入する。先ほどの女性に提出して座って待っていたが、このフロアはある種の混沌だった。なにせ受付の隣がそのまま相談コーナーなのである。つまりそれは会話が聞こえるということだ。

 その時の相談者は若い女性と年配のおじさんだった。十分ほど待たされた間に二組の聞こえてきた会話は、女性は就職時に求人と面接で説明された部署と違う部署に配属され作業内容も違ったという物で、男性は深夜手当や残業代が払われていないという内容だった。若い女性は完全に涙声での訴えだった。ただここでとんでもない違和感を感じたのだが、職員の返答が解決ではなく共感の言葉ばかりだった事だった。

 先ほどの年配の女性に呼ばれて私も相談コーナーに座った。半泣きの女性の隣だった。

「よろしくお願いします。給料の未払いという事ですが」

「そうです。一応先方とのメールの履歴と銀行口座のコピーを持ってきてます」

 おそらく準備の良さに引いているのか口数少なく資料に目を通していた。

「確かに支払われていませんね。ちなみに先方に催促をされたりしましたか?」

「いえ、昨日が振込期日だったので本日そのまま来ました」

 昭和のコントのずっこけの様な振りをしながら女性が説明してきた。コミカルな方の様だった。

「ええっとですね。本人さまから催促していただいて、それでも支払いが無かった時にやっと我々が動けるんですよ」

 そのまま未払い賃金を請求する記入例の書類を頂いた。テンプレートの表記と相手への送り方からそれなりに細かい注意事項などの資料で、事前にそういった書類がある事がこういう相談がそれなりの件数あることを物語っていた。ちなみに相手へ送る際に内容証明又は簡易書留を推奨していたが、相手へ請求を伝えたという事実が重要だと説明をうけた為、私は店長直接のLINEにて頂いたテンプレートを流用したPDFを送信した。

『現在5日間働いた給与が支払われていません。十日後までに振込をお願いします。支払いがない場合は法的手続を取らせていただきます』

 簡略化しているがこの様な内容で通達をした。この「支払いがない場合法的手続をとる」という文言は入れた方がいいと説明をうけた。よほどの事がないと大体この時点で支払われる為もし支払われなければまた来てくださいと言われ、「そうですか、ではまた伺いますね」と割と冗談じゃない冗談で挨拶をして労働基準監督署を出た。

『入金がないですか?経理に確認をして対応します』

 翌日に店長より返事が来ていたが返答はしなかった。もうこの時点で店長がやるべきは丁寧な返答ではなく迅速な支払いなのだから。

 十日後、予想通りに入金が無かった為、私はまた労働基準監督署に赴くのだった。

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