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「穂高さんの髪って、綺麗だね」
突然そう言われたのは、学校に通い始めて一週間目のことだった。
「え……」
あたしは驚いて声を詰まらせた。
あたしが自ら周りをシャットアウトしたせいで、あたしに声をかけてくるクラスメイトなんてほとんどいなかったから。
「すごくまっすぐで羨ましいなぁ。あたしはくせっ毛だから」
そう言ってあたしの髪に触れるのは、クラスで一番目立っている磯崎さんだ。
磯崎さんはくるりと振り向くと、いつも一緒にいる人たちに向かって声を上げた。
「ねぇ、そう思わない? 穂高さんの髪!」
磯崎さんの一言で、女の子たちがあたしの周りに集まってくる。
「ほんと、あたしもそう思ってた」
「つやつやのサラサラじゃん。触らして!」
「あたしも!」
わけのわからないうちに囲まれて、次々髪を触られた。何種類かの制汗剤の匂いが混じり合い、頭がくらくらする。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。目立つことはしていなかったはずなのに。
それにあたしからすれば、みんなのほうがよっぽど綺麗だ。
髪だってきちんと手入れしているし、ほんのりメイクしている子だっている。
「どこのシャンプー使ってるの?」
「え、どこのって……」
糸ちゃんのシャンプーを使っているだけだ。商品名なんかわからない。
「でもここピンで留めたら、もっとかわいくない?」
「それよりシュシュでこう結んだら?」
みんながあたしの髪を触って、いろんなことを言っている。もしかしてあたし、遊ばれているのかと不安になる。
「穂高さん、ピンとかシュシュとか持ってる?」
あたしが首を振ったら磯崎さんが言った。
「駅前にかわいい雑貨屋さんあるんだよ。今度一緒に行こうよ」
「え……」
「明日の土曜日とかどう? みんなも一緒にさ」
「いいね。明日部活休みだし」
「うん、行こうよ、みんなで」
気がつけば周りの子たちが集合時間など決めている。あたしはまだ、何の返事もしていないのに。
「じゃあ十二時に駅前広場集合ね。お昼みんなで食べようよ。穂高さんも大丈夫でしょ?」
「あたしは……」
磯崎さんが鋭い視線であたしを見た。
「大丈夫だよね? 穂高さん」
強引に返事をさせる言い方だった。
どうしよう。行きたくないけど、断る理由もない。
女の子たちの視線があたしに集中していた。
背中に嫌な汗がにじんできて、あたしはこの場から逃れたい一心でうなずいてしまった。
「じゃあ決まり! 十二時に待ってるからね」
磯崎さんの一言で、みんながあたしの席から離れていった。
呼吸がちょっと苦しくなって、あたしは深く息を吸ってそれを吐く。
午後の授業はなんだか落ち着かなくて、内容なんて全く頭に入ってこなかった。




