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第四話『解雇から左遷へ』

 



 魔王領・王都——魔王城・謁見の間


 そこには二つの影がある。

 王座に座する者とそれに跪く者。


 ——魔王・フェル——


 魔界の統治者にして魔の王——

 古来より人類に『天災』と忌み憎まれ、畏怖さえされる者——


「ルスくん、キミは中佐を『退任』してもらう……」


 その姿は醜く(おぞ)ましい、まさに()()のものだと人々は言い伝える……言い伝えてゆく。

 ——そう。

 それは子どもに聞かせてやる、昔噺(むかしばなし)——御伽噺(おとぎばなし)の様に。

 人から人にそうして伝わったものには尾がつく。

 伝えられたものをより可笑しく、より恐ろしく。


「……え。あれ?反応は?」


 しかし、俺は思う。

 太古の昔——魔王を見た人間はきっとこう思ったのだろう。


 ——"()()()()"——


 と。

 そして同時に愚かしい人間風情がこのお方の美しさを言葉で表すことが非常に酷な事であると。

 正しく伝える事によりこの存在を(けが)してしまうと。

 それ程までに魔王フェル様は美々しいお方なのだと……

 その思考だけは同じ人間風情として多少は理解できるものである。

「ルスくん〜」

 漆黒のブラックダイヤを彷彿とさせる艶と輝きを放つ美髪……

 見つめる相手の心を(ほだ)す為にと存在するその瞳……

「ルスくん……?」

 顔立ちを引き締めるその筋の通った鼻梁は美しく気高い天使の様……

「お〜い……いま君、クビになってるよ……?」

 それはまるで桜が舞い落ちる(さま)、全てが目を奪われ惑わされる(よう)にその朱唇(しゅしん)を憂う……

「…………ぃ」

 そして極め付けるはその体躯。あどけなさの中に可憐を内秘める、それは言うなれば国宝級……いや。


 ——この"世界の宝"である


 ——なのに。

 ——なのに。

 ——なぜ……なぜ……人類は……


「どうして……」

「……二百三十ろおぅあ?あ、戻ってきた?」


 魔王が反応のないルスを待ち数十秒……数分。

 二百三十六個目の天井の模様を数えた所……傅く少年からの返事が返ってきた。


「いま、君は『どうして』と言ったかい?」

「ええ」

「流石!!よくぞ聞いてくれた!!最高!!」


 待っておりましたと言わぬばかりの胸の張りよう、気持ちの昂りあまり立ち上がるほど——


「何故ルスくんが中佐という座を——」

「——どうして……」

「え、だから今から理由を——」

「——どうして人間はどこまでも愚かなのでしょう?」

「へ?」


 間の抜けた声が発される。


「あ、えっと……君がクビになる事と……その。人間達が愚かな事は……関係が?あるのかな?ある?あるのか……?」

「いえ、関係ございませんが?強いて言えばフェル様の尊さを理解できぬ人間など滅べば良いかと」


 ——え、なにその顔。

 なんでこの子、罪の意識ないの?

 ひとの話無視して、ましてや上司だよ?それもだいぶ上……この世界でもトップクラスだよ?

 自分の仕えている王様の話だよ?

 世界が恐れ(おのの)く魔王様だよ?


「なんで全く関係ない話するん?」


 魔王フェルは困った表情になってしまう。


「ああ、困惑されたお顔……なんと美しいものでございましょう」


 嗚呼……もうダメだこの子、12歳の少年がダメな表情でこっち見てきてるわ……

 心酔してるよ……


 ……そう言えばこの子。

 出会った頃から僕の話ろくに聞いてた試しナイや——


 ——以上、魔王・フェルの心の声でした。


「魔王フェル様。(わたくし)、魔王軍・第四軍団中佐ルス・ゲオン、本日を持ちまして退任及び即日の魔王領土より出立致します」

「え、(いさぎよ)

「では、本日までの——」

「——ちょ、ちょ、ちょまって?」


 ルスの言葉は魔王によって遮られその様子に少年は首を傾げる……そのあどけない表情にフェルは少し胸を締め付けられる。


「い、いや。まだ、僕理由とか——」

「本日の午後の件でございます——」


 ■■■


「いやぁ……危なかった」


 そう言葉をこぼした少年は、収束していく閃光を掻き分けながら現れる……片手に人狼を引き摺って。


「なん、なん、なんでぇええ!!??」


 皆の声を代表するかのようにフスカ二等兵は驚きの声を上げる。


 最終局面——両者を貫いたのは紛れもないユドル伍長による(わざ)である……

 自身の弱点を理解し、それをよく知る相手の心理(駆け引き)を利用、誘導する戦略。

 彼の戦闘感覚(センス)の高さがよく理解できるものだった——それに加えて……


()()()"短縮術式(たんしゅくじゅつしき)"を仕込んでくるとはな——」


 余韻のある言葉と共にユドルを見据えるルスは駆け寄ってきた訓練兵に彼を委ねる。


「ねぇルス兄!!最後どうなってたの!?」


 フスカは興奮を抑えきれないと言った様子で、観戦場から見る事のできなかった、戦闘の最終局面の状況を問いただす。

 その問いには皆も注目する。


「ん?雷に雷ぶつけてみた——」


 そんな事を軽く言葉にする少年に。


「『雷に雷』をぶつけた……?」


 またもや皆の疑問は一致する。


「意外とできるもんだな」


 なにそのやってみたらできた感……

 また、また、もや皆の思いは一致する。


「ルス兄?ちょっと私達意味がわからないんだけど。どういう事?」


 脳に血液を送り活性化させる。

 しかし、理解ができない。


「ユドルが放った落雷に、同等の雷を地上からぶつけた。いやぁ、もろ頭上で衝突したから鼓膜が破れるかと思った……危ない、危ない」


 二度あることは三度あるとよく言ったものである……


「「「「「は?」」」」」」


 この少年は何度自分達を驚愕させれば気が済むのだろうか。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょまち!!雷って空から降りてくるよね?なんで地上から空に昇るの?」


 少女の言葉と共に訓練兵達は固唾を呑む……

 彼の答えを待ち侘びる様に。


「——それが"()()"さ——」


 そう放った少年の、"天使の様な微笑み"にはその場にいる者、全員の胸が撃ち抜かれるのだった——


「しかし……これは、少し怒られるかもな」


 人員少ない魔術部の教官一人を負傷させてしまった。

 二等兵達とは訳が違う……

 改めて思考を巡らせるルスは、自分が起こした失態を後悔するのだった——


 ■■■


「こう思うとルスくん。きみって僕と接する時と相当性格(キャラ)変わってるよね?」

「意識しておりませんのでなんとも……」


『あ、無自覚なんだね……』と小さくぼやき、頭を振るう魔王……


「じゃ!!なくてッ!!きみと話してたらいつまで経っても本題に入れないッ!!」


 魔王フェルは歯痒さを手足を大きく振り表現している……


 ああ……なんて愛らしいのだろ——

「——それは"あなた"がツッコミばかり入れるからでしょう?」


 背後から聞こえる"嫌"な声——

 それは愛しい人を考える思考までもを遮る。


「——チッ」


 ルスの見惚(みと)れる表情は瞬時に萎えてしまい。

 自分の不機嫌さをわざとその"存在"に知らしめるように大きく舌打ちを響かせる。


「だからお前を呼んだんだよ"ユーリ"」

「そうですね。それが懸命な判断だと思われます……」


 魔王に呼び出されたと言う男は落ち着いた口調で話しルスの隣へと並び立つ。


 魔王軍・第一軍団"総指揮官"『総大将ユーリ・ピュアーズ』。

 彼がこれまでに(もたら)した魔界への功績は多大なものである。

 ある時には——その土地を蝕む悪を静粛し、貧困に嘆く民に安定した富を導く"聖者"として。

 また、ある時には——凶悪な魔獣に一人立ちはだかり万人の民を救った"英雄"として——


 そして、何より。

 魔王軍・第一軍団の頂点——

 総大将ユーリ・ピュアーズは数々の栄誉により"公爵"という立場を叙され。

 全ての魔王の民の為に"魔界の守護神"として君臨し続けている。


 ……そのような彼だが。


「何故、私はルスさんに嫌われているのでしょうか?はぁっはぁっ……」

「クソが。こっち見てんじゃねぇよ——"変態"——」

「はぁああんっ!!よいっ!!」


 重度の"少年性愛者(+マゾヒスト)"である……

 そして"フスカの叔父"にあたる人物である……


「まぁ……『はぁはぁ』言いながら変態って罵られた言葉に悶絶、それに加えて昂揚(こうよう)した変態顔で見つめられたら、誰でも嫌になるわな……」


 そんな魔王の同情の声に対して涙目で息を切らす少年と更にそれを見て興奮するおっさん……


「——ここに居る過半数、変態なんですけどぉ!?って!!結局ハナシがすすんでなぁあああいっ!!」


 ■■■


「うッゔん。気を取り直して」


 頭に大きな(こぶ)を作り正座する二人。


「改めてルスくんに言うけど。退任の理由は今日の二等兵の子とユドル伍長への過剰な負傷事案。んで、とりあえずきみには中佐辞めてもらって——」

「——仰せのままにっ。では」

「だから、何でそんな(いさぎよ)いんだよ!?って!!どこ行くんだよ!!もうっまたツッコミがっ!!また、話が詰まてきたから、もう"オチ"言っちゃうけど!!ルスくんには"人間の養子"に()ってもらうっ!!」

「な、なんと……寛大なお心……ただ解雇(クビ)にするのではなく。その後の——」

「——だぁあ!!うるさい!!そういう事じゃないッ!!ユーリ!!」

「ルスさん?魔王様はこう仰りたいのです」


 魔王の話を聞けないルスにユーリは言葉の"真意"を教える。


「——『"人間の国に養子(スパイ)"として潜入せよ』——と」

第四話を拝読いただきありがとうございました。


ルスのことを邪な目で見るユーリさんですが、普段の彼は冷静沈着に物事を理解します。

メガネ高身長『よっモデル体型』のイケオジですね。

タキシードがお似合いです。


誤字脱字ご報告お願い致します。

感想、ブクマ、いいね、評価でモチベ爆上がり!!

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