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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三題噺もどき

大親友

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくじゅうに。


※一方的な片恋ですが、ガールズラブ※

 お題:崩れる・もどかしい・破れた手紙




 愛用のスマートフォンのアラーム音で目が覚めた。

 無機質な機械音がやかましく鳴り響く。

 私はそれなりの音で鳴らさないと起きないので、かなりうるさい。

 それでもたまに二度寝するけど。

「……、」

 寝ている間に回していた扇風機のモーター音が静かに鳴っている。

 やかましいアラームを止め、もぞもぞと布団の中から這い出る。

 夏場でも布団をかぶっていないと眠れない性分なので、割としっかりかぶっていたりする。

 冷房機器のおかげで冷えていると特に。体が冷えると眠れないたちなのだ。(それなら点けるなという話だが、それとこれとは話が別だ)

「……、」

 重い体を動かし、瞼をこすり、とりあえずと、動き出す。

 着替え等々は昨日のうちに準備していたので、大丈夫だと思うが。

 念の為の再確認をし、忘れ物がないことを確信し、朝食へと向かう。

「……、」

 食パンを焼き、お湯を沸かす。

 朝は断然ご飯派なのだが、炊かれていないので仕方ない。

 お湯はインスタントの味噌汁に使う。

 食パンに味噌汁というものも、案外悪くない組み合わせなのだ。

 それに、麦茶を注いだコップを置き、朝食の出来上がり。

 天気予報や占いや、興味もないニュースを横目に見ながら食べ進めていく。

「……ん、」

 スマホ片手に朝食を食べていたせいで、思っていたより時間を割いてしまったようだ。

 早々と残り物を片付け、洗面台へと向かう。

 洗顔や歯磨きなど諸々すませながら、少々雑ではあるが、着替えも一緒に進めていく。

 お気に入りの黒のロングスカートに、シンプルな白いシャツを合わせ、シルバーのピアスをつける。

 基本的には白黒が好みなので、こういう系統の服が多い。

 短くしている髪は、軽く梳かすぐらいに済ませる。

「いってきま~」

 鞄を肩に引っ掛け、サンダルを履き、昔からの癖で声をかけながら家を出る。


 今すぐ部屋に戻りたいほど暑かった。

 ギラギラと照りつける太陽が、痛いぐらいに肌を刺してきた。

 ジワ、と汗が吹き出してきそうになる。

「あつ…」

 こんな時期に外に出るなど、ほとんど自殺行為のようなものだ。

 今日のこの約束がなければ絶対に出ていかない。

 実際昨日までは引きこもり生活を決め込んでいたのだから。

 しかし、今日は、今日だけは私は楽しみにしていた。

 この暑さなどどうでもよくなるぐらいに、楽しんでいた。

「……、」

 歩きながらチラとスマホを見やる。

 今時ではあまり見なくなったが、私はいまだにイヤホンジャックに刺すタイプのものを使っているため、少し引っかかる。

 ブルートゥースとやらを買った方がいいものか、と考えながら時間を気にしつつ目的地へと向かう。

「~♪」

 今日は、大切な友人との約束の日である。

 そりゃ、鼻歌交じりになるものだ。

「~~♪」

 幼いころからの親友で、いつからとかなんでとか、忘れてしまうくらいに大切な親友。

 今までにも、友達と呼べるものにはありがたいことに多く恵まれていたが、親友と呼べるものには彼女しかあてはまらなかった。

 彼女さえいればいいと思うぐらいには、大切に思っている。

「……、」

 大切で、何よりもかけがえのないもので、私の、

 私の

 初恋の人だった。

 大切な大好きな親友だ。

「……、」

 いつからだったか、その感情が男女間でもてはやされるようなものに変わっていった。

 親友という地位以上のものを求めるようになってしまった。

 ほんとのホントに、心の底から、彼女以外の人間はいらないと思うくらいに。

 強く、思い感情へとなり下がっていった。

「……、」

 私以外の人間と話している姿を見るのが、嫌でいやで仕方なかった。

 私の知らないところで何かをしているのが許せなかった。

 私の視界に入っているだけで、幸せを与えてくれた。

 私が隣にいることを許し、静かに並んでくれたことが、とてもとても嬉しかった。

「……、」

 それでも、これは許されないものであるとわかっていた。

 自分自身がこの感情の重さに耐えかね、何度この思いを伝えようとしたかわからない。

 彼女が他人と触れ合うだけで、言葉を交わすだけで、もどかしい思いを抱いた。

 何もできないことにもどかしさを覚えた。

 それでもこの思いを伝えてしまえば、今の親友という形さえ崩れてしまいそうで。

 唯一私と彼女をつなげているこの形を崩されるのだけは、自らの手で壊してしまうことだけは出来なかった。

 それをしてしまえば最後、私は何をするかわかったものはない。

「……、」

 昔に、一度だけ、いつ頃だったか覚えてはいなし思い出したくもないのだが、彼女にこの思いを伝えようと手紙を書いたことがあった。

 あれやこれやと頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱すこの感情を持て余してしまって。

 彼女ならと、馬鹿なことを思ってしまった。

 あの時の私はどうかしていたのだと思う。

 思いを、この重く苦しいこの感情を、つらつらと書き、これが許されぬモノだと分かっていながら告げようとしていた。

 はたから見ればまるで暴走しているようにも見えたかもしれない。

「……、」

 しかし、我に返った瞬間、その手紙はビリビリに破り去った。

 微塵も欠片が残らぬように。

 つなぎ合わせたところで。もう二度と元には戻せないぐらいに。

 ビリビリと、ぐちゃぐちゃと、破り捨てた。

「……、」

 部屋に散らばった紙屑を茫然と眺めた。

 視界がゆがみ、鼻の奥の方がツンと痛んだ。

 もう二度とこんなことはすまいと心に誓った。

 こんな私と共にいてくれるだけ幸せなのだ。

 この思いは伝えるに値しない。

 伝えて、今の形が崩れてしまうぐらいならーこの破れた手紙の用にバラバラになってしまうぐらいなら、伝えずに、心に秘めておくべきだ。

 私のこの思いがもれぬように、こぼれて溢れぬように、奥底へと沈めた。

 彼女を傷つけるかもしれないコレは、一生沈めておくにことにした。

「……、」

 遠くに彼女の姿を見つける。

 嬉しそうに笑うその笑顔は、真夏に咲く向日葵のようだった。

 おそろいのロングスカートを身に纏った彼女は、

 とても大切な、大切な、親友である。


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