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破滅龍 002



 この国で三本の指に入る巨大ギルド、「竜の闘魂(ドラゴンガッツ)」――そこにいる冒険者たちをまとめ上げる、絶対的な強さを持ったマスター。


 最強のドラグナー、ラウド。


 数々の豪快な逸話や破天荒な伝説を持った人物で、彼に憧れて「竜の闘魂」に入る冒険者も多いという……片田舎出身の僕ですらその存在を知っている時点で、相当に有名であることの証左になるだろう。


 そんな人がどうして自分のギルドを襲っているのか、皆目見当もつかない。



「なんだ、新しい客人か! 次から次に部外者が舞い込むとは、俺のギルドの人気も相当だな!」



 紫の鱗に身を包んだ、蛇のような体躯をした龍――紫電龍イザナギ。


 その頭部で漢らしく仁王立ちしているマスターラウドが、僕の存在に気づいて大声を張り上げる。


 黒い髪に眼光鋭い緋色の瞳。皺の入った顔からは相応の年齢が窺がえるが、その佇まいは見る者を圧倒する覇気に満ちていた。



「……もうあんたのギルドじゃない、ラウド」



 対して、僕とウェインさんが乗る氷の鳥を庇うように前方に陣取る漆黒の龍――鎧龍ヴァルヴァドラ。


 その背で片膝をつきながら、かつてのリーダーを睨みつけているのは、サブマスターのジンダイさんだ。



「どうして、こんなことをした」



「言っただろう、ジンダイ。もう『竜の闘魂』は必要ねえってな……俺はこれから、新たなギルドと共に世界を変える!」



 言って。


 ラウドさんは、右手の甲に刻まれた龍の紋章を見せつけてくる。


 あそこに紋章を刻む意味――それは即ち、正規ギルドへの反抗。



「闇ギルド『破滅龍(カタスドラッヘ)』! それが生まれ変わった最強の龍の呼び名だ!」



 彼の心の内を代弁するかのように、イザナギが咆哮する。


 ウェインさんの話だと、マスターラウドは闇ギルドに通じているということだったが……とんでもない。通じているどころか、彼が先陣切って新たな闇ギルドを立ち上げてるじゃないか。


 そんなことが公になれば、国中がパニックになる。三大ギルドのマスターが反正規ギルド側に加わるなんて、それこそ革命みたいなものだ。



「本音を言えば、お前やソリア支部の連中とも仲間でいたかったんだがな……だが、お前らは少し馬鹿すぎる。いや、真面目過ぎるんだよ、ジンダイ」



「……あんたも、純粋に強さだけを求めてたんじゃないのか。俺は、そんなあんたがいたからこのギルドに入ったんだ」



「もちろん強さは求め続ける。だがな、今のままのやり方じゃダメだ。もっと力を手に入れるには、賢く狡猾にやらねえとな……そのためには、正規ギルドなんていう温い環境をぶっ壊さなきゃならねえのよ!」



 そう言って高笑いするラウドさんは、実際に一つのギルドをぶっ壊した。それも、自分を慕って集まった仲間がいるギルドを。



「ここまで派手に暴れたんだ、『竜の闘魂』の崩壊はすぐに知れ渡る。今お国の連中がしているような闇ギルドの情報統制なんて、全く機能しないだろうよ……それにな、ジンダイ」



 彼はとても邪悪な笑みを浮かべ、ジンダイさんを見やる。



「三大ギルドのサブマスターが死んだとなれば、世間は嫌でも闇ギルドの力を認めざるを得なくなる。しかも運の良いことに、ウェインの嬢ちゃんまでいるんだからよ……一気に二人のサブマスターがいなくなりゃ、正規ギルドの威信はがた落ちだぜ」



「……」



 ジンダイさんとウェインさんは、何も言い返さない。


 ラウドさんの実力を知っている彼らは、今の言葉が虚勢でもハッタリでもないとわかったのだろう。


 あの人は――今ここで二人を殺す。



「お喋りはお終いだ。お前たちとの戦いを楽しみたい気持ちもあるが、まあもう充分だろ」



 彼の纏う雰囲気が一変した。


 それが渦巻く魔力の所為だと気づくと同時に――僕らの周囲に、巨大な魔法陣が出現する。



「【紫電龍息吹(ライオウ・ブレス)】‼」



 ラウドさんの乗っている龍の口が開き、爆音と共に紫の雷が放たれた。空の全てを切り裂かんとする、超広範囲の攻撃魔法……って、死ぬ死ぬ死ぬ!



「【鎧龍息吹(アルマ・ブレス)】!」



「【氷剣――結界】!」



 僕のみっともない慌てぶりが恥ずかしくなる程、他の二人は冷静だった。ジンダイさんは龍を操って応戦し、ウェインさんは刀を振るって氷の壁を作り出す。


 凄まじい魔力同士がぶつかり合い、衝撃で振り落とされそうだ……とてもじゃないが僕が手を出せる状況じゃない。


 これが、ギルドマスターとサブマスターとの戦い。



「あんたは今ここで止める! 【鎧龍破断(アルマ・ルクト)】‼」



「ラウドさん、あなたは既に私たちの敵です! 【氷剣――吹雪】!」



 雷を防ぎ切った彼らは、すぐさま攻撃に転じる。


 ジンダイさんの放つ黒色の魔法は空間を歪め。

 ウェインさんの撃ち出す蒼色の魔法は空気を凍てつかせる。



「おもしれえ!」



 だが。


 ラウドさんは、二人の発動した魔法に全く臆することなく――笑っていた。


 まるで、ベスがそうするように。



「【紫電龍召雷(ライオウ・エクレル)】‼」



 紫の雷が――龍の額に生えた角へと落ちる。


 直後、大気を震わす魔力がドラゴンから溢れ出し、閃光が僕らを包んだ。



「――っ」



 その光を見た僕は、自然の摂理に従うかのように死を覚悟する。きっとジンダイさんとウェインさんも同じ気持ちのはずだ。


 圧倒的な魔力。

 破壊的な魔法。


 これが、エール王国最強のドラグナーの力――




「【黒の虚空(ネロ・ヴォイド)】!」




 僕の背後から声が聞こえた。


 同時に――真っ黒な魔力が雷撃を飲み込む。



「せっかく久しぶりに熟睡しとったのに、叩き起こしたのはどこのどいつじゃ」



 振り返るまでもない。


 いつだって、僕のピンチを救ってくれるのはこいつなのだから。



「……ありがとう、ベス」



「命の危機になったら出てくると言っておったじゃろう、是非もない……それより、あそこのオヤジが敵か? どうやら、ちょい悪なんてもう古いということをわからせてやる必要があるの」



 最強のエルフが、目を覚ました。



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