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就職先は公務員 002



 未踏ダンジョン。


 その名の通り、冒険者が未だ足を踏み入れたことのないダンジョンのことである……それはつまり、危険度が未知数であるということだ。


 生成されるモンスターはC級なのか、A級なのか。空間の状態は過酷なのか平易なのか……そうした情報を集め、暫定的な難易度を決定する仕事が、探索である。


 探索は公共の利益に大きくつながるので、必然的に公務員がその役割を担うのだが……未知のダンジョンが危険と隣り合わせなのは言うまでもない。


 従って、探索係の成り手は年々少なくなっているという。


 当然、僕がそんな仕事をしたいと望むはずがない。



「……失礼ですが、僕が希望したのは」



「知っている。ギルド運営、企画、広報、経理、監査、だろう」



「……でしたら、何故未踏ダンジョンの探索係として採用になるんでしょうか?」



「……君が希望を出した部署……ギルド運営、企画、広報、経理、監査……こんなものはね、()()()()



「か、飾り?」



「まやかし、と言ってもいい。国が正規ギルド連中を管理している風を装うための、実体の伴わない仕事だ……既にギルドの力は、()()()()()()()!」



 カイさんは拳を握り、高級そうな装飾の施された机を殴る。



「この国に必要なのは、ギルドに迎合するための乳臭い業務ではない! 我々公僕こそが国を支えていると示すことが重要なのだ!」



 十数年前から、実しやかに囁かれていた。

 エール王国は、もうギルドに歯向かうことができない、と。


 実力のある冒険者が数多く現れ、次々にギルドを立ち上げていく……彼らが一丸となったら、国の力では抑えることができないのだと。



「奴らは所詮、どこまでいっても冒険者という荒くれ者だ。今は大人しく税を納め、国のためにと動いているが、いつそれがひっくり返るかは誰にもわからん。その事態を防ぐためにも、ギルドを正しく管理する必要があるのだよ」



「おっしゃりたいことはわかりますけど、それと僕の業務とにどう関係があるんですか?」



「端的に言おう。探索係以外での採用はない。つまり、それが気に食わないのなら帰ってもらって結構、ということだ」



「……」



 なるほど、僕が扉をくぐった瞬間に採用になった理由がわかった。



「未踏ダンジョンの探索は我々公僕の仕事だが、そんな過酷な業務を希望する者は多くない……仕方なく、各地のギルドに()()しているのが現状なのだ。私はこの状態を非常にまずいと考えている」



「……と、言いますと?」



「例えば、あるギルドが未踏ダンジョンの難易度をA級と評価したとしよう。その他のギルドはA級攻略に見合う冒険者を用意しなければならないが……本当の難易度がD級だったら? 他がノロノロと準備をしている間に、探索をしたギルドが資源をごっそり頂けるというわけだ」



「……それは、確かに健全じゃありませんね」



「だろう。だが一番の懸念点は、奴らが()()()()()()()()()()()()()()()()()。ダンジョンの実態を調査せず、杜撰な難易度設定をすれば……後に続く冒険者たちに危険が及び、攻略に支障をきたすことになる」



 カイさんの言葉には一定の説得力がある。この国の行く末を心配する彼女からすれば、これ以上ギルドが力を持つことを懸念するのも当然だ。


 でも……。



「……やっぱり、この話はお断りします」



「ふむ。一応、理由を訊いてもいいかね」



「……先日、ダンジョンの最深部で生死の境を彷徨いまして。もう危険な冒険はこりごりなんです。公務員になりたいのも、安定した職に就きたいからって理由だけで……」



 言っていて、段々情けなくなってきた。

 だけど、これが僕なのだから仕方がない。



「随分とまあ、情けない男だな、君は」



「何とでも言ってください。否定はしません」



「愚鈍で馬鹿で幼稚でカスでグズでクソな男だな、君は」



「そこまで⁉」



「生殖器もどうせ小さいんだろう、見ればわかる」



「立派な風評被害だ! 僕はこの役所を訴える!」



「好きにすればいい。だがいくら喚こうとも、君の生殖器がミニマムサイズだという事実は変わらないよ」



「くっ……」



 小さくない!

 普通か……それよりちょっと控えめなだけだ!



「野心なくして成功はないぞ、少年」



 僕が慌てる様を一頻り楽しんだカイさんは、真面目なトーンで言った。



「……」



 野心……ね。


『昔から()()よね、クロスって』


 くそ。


 嫌な奴の嫌な言葉を思い出してしまった。



「……まあ、無理に引き留めるわけにもいかないんだが、それでも最後にお願いさせてもらってもいいかな」



 言って。


 カイさんはすくっと立ち上がり、ゆっくりと僕の元へと近づいてきた。


 そして――一礼。


 腰を曲げ、お辞儀をする。



「カ、カイさん?」



「私は非常に困っている。ソリアの探索係は三人しかおらず、ほとんど機能していない……勝手なお願いだとはわかっているが、勇者パーティーに属したことのある君に、是非力を貸してほしいんだ」



 彼女は下げた頭を起こし、僕の目を見つめ。

 凛とした声で、お願いをする。



「私たちを、助けてくれ」



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