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魔導大会 001



 観光都市オーグにやってきた二日後――僕たちは「魅惑の香(スイートパルム)」主催の魔導大会に参加するため、とあるダンジョンの前に集合していた。森を切り崩して特設会場を作ったらしく、周りには殺風景な景色が広がっている。



「いやー、爽やかな朝ですねー! こう気持ちいいとテンション爆上がりです!」



 現時点で集まっている参加者は、ざっと見る限り二百人くらいだろうか……その中でも一際元気そうにはしゃいでいるのは、誰あろうニニ・ココだった。



「お前、何でそんなに元気なの……」



「どうやらこの街の空気が私に合っているようです! 獣人の血が騒いでいるのかもしれません!」



「あんな酒と女とギャンブルみたいな街で獣人の血が騒ぐのか」



 エール王国随一の観光名所であるオーグは、その代表である「魅惑の香」がそうであるように、超大規模な歓楽街だったのである。勝手に緑豊かで落ち着いた場所だと思っていたので、そのギャップが激しい。



「自然なんてもう古いです! これからは山や森をガンガン開拓しましょう!」



「お前今、山に住んでるんじゃなかったっけ……」



 友達はどうした。

 イノシシの和子は。



「……つーか、昨日の酒がまだ身体に残ってるんだろ。飲んでもないのに」



「でしょうねー! いやー、ベスさんと朝まで飲み明かしてここに来ましたから、へべれけが抜けてなくて!」



 中一日予定が空いてしまった昨日、僕とニニは別行動をとっていたのである。そして珍しいことに、ベスとニニが一緒に遊んでいたのだ。


 彼女たち女子ペアが何をしていたかは知らないが、まあ相当楽しく過ごしたようである。



「ベスさん、魔力を消費しないようにお酒を飲む時以外は杖に入っていたんで、ほとんど一人旅みたいなものでしたけどねー! クロスさんは昨日、何してたんですか?」



「ん? 僕はまあ、適当に街をぶらついてたよ……正直、雰囲気が肌に合わなくて、あんまり楽しめなかったかな」



「なるほど、だから昨日一日分のエピソードは省略されたんですね! パッとしない青年がつまらなそうにボーっと街を歩くだけの描写で、一話は持ちませんから!」



「人聞きの悪いこと言うなや!」



「やっぱり私かベスさんが近くにいないと、絵として映えませんからねー! そう言う意味では、私たちが別行動をとってしまった所為で、あなたの一日ぶらり街歩きはカットされたとも言えます! 誰が見たいんだって話ですよ!」



「僕の何気ない日常にだって需要はある!」



 ある……はずだ!


 いやまあ、誰が見るとかいう話はよくわからないけれど、僕が普通に生きていることをさも退屈みたいに言われるのは腹立たしい。

 まことに遺憾である。



「ちなみに、私とベスさんの仲睦まじいぶらり街歩きの様子は、番外編として収録予定です!」



「お前たちの動きがどうして何らかの媒体に収録されるんだ。いいとこホームビデオだろ」



「ビデオって何ですか?」



「おう、ミステイク」



 そこら辺の線引き、僕にとっては難し過ぎる。

 ニニは軽々と超えてくるし……マニュアルでも売っていないだろうか。



「みなさん、お集まりですね~」



 不意に、魔法によって拡散された声が響き渡る。


 特設会場の中央――櫓のように小高く骨組みが組まれたところに、一人の女性が立っていた。



「私は『魅惑の香』のエリーゼと言います~。今回の魔導大会の進行を務めさせて頂きますので、よろしくどうぞ~」



 少し緩めの雰囲気を纏ったエリーゼさんは、僕らに向けて軽く自己紹介をした。



「それでは、早速魔導大会のルールを説明しますね~」



 言って、彼女は頭上に映像魔法を展開する。

 そこには、複数のモンスターの絵が描いてあった。



「今回の種目は『モンスター討伐競争』です~。モンスターには等級ごとにポイントが振り分けられていて、制限時間内により多くのポイントを集めた人の勝利です~。ちなみにここはB級ダンジョンなので、基本的にはB級までのモンスターが出現します~。自信のない方はお帰り下さい~」



 B級か……僕一人でも、相手によっては倒せるかもしれない。


 それより、基本的にという言葉が引っ掛かる……基本的ということはつまり、例外があるということ。



「ただし~、『B級なんざ生温いぜ!』という方も中にはいると思うので~、特別に()()()()()()()()を複数体用意しました~。それがこの映像の子たちで~す」



 先程から空中に映し出されていたモンスターの絵……あの五体が、A級モンスタークラスの強さを持つ召喚獣なのか。



「この子たちはうちのマスターの召喚獣で、意図的に攻撃されない限りみなさんのことを認識しないようになってるそうです~。自信のある人だけ狙ってみてくださいね~」



 なるほど、一応セーフティー装置は施されているようだ。


 だけど、A級レベルの強さを持つ召喚獣を五体同時に操れるなんて、「魅惑の香」のマスターも只者ではないらしい。



「それとわかってるとは思いますが、今回の魔導大会は個人の魔法能力を競う戦いです~。複数人で一体のモンスターを倒しても点数は無効になるので、気を付けてください~。それと、怪我や死亡について、当ギルドは一切の責任を負いませんので悪しからず~」



 一瞬、会場内に緊張が走る。


 未攻略のB級ダンジョンに入るのだから、当然負傷のリスクは存在する。ましてやパーティーではなく個人での戦闘となれば、死ぬことだって普通にあり得るだろう。


 ここにいる冒険者たちは――それを覚悟で挑むのだ。



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