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列車移動



 エール王国三大ギルド――「竜の闘魂(ドラゴンガッツ)」、「天使の涙(エンジェルラック)」、「魅惑の香(スイートパルム)」……これらのギルドは王国各地に支部を持ち、そこに所属する冒険者たちは日夜ダンジョンを攻略している。


 この三つのギルドが集まれば、王国軍など簡単に打倒できてしまうと言われている程、その実力は圧倒的だ。カイさんが憂いている正規ギルドと国との力関係のバランスは、彼らが壊していると言っても過言ではない。


 そんな超有名ギルドの内の一つ――観光都市オーグに本拠地を構える「魅惑の香」を目指し、僕たちは列車に乗っていた。


 クロス・レーバン十八歳、初めての列車移動である。


 酔った。



「……」



「大丈夫ですか、クロスさん。吐くなら吐くって言ってからにしてくださいね」



「……吐く」



「いや本当に言わないでくださいよ。我慢してください」



「鬼か、お前……」



 僕とニニ(それと杖の中で眠っているベス)は、現在四人掛けのボックス席に向かい合って座っている。初めての列車にテンションが上がったのも束の間、発車五分程でこのようにグロッキー状態だ。



「なんで移動魔法が実用化されてないんだ……どうして乗り物なんかに頼る必要がある……」



「移動魔法なんて、魔力の消費がすごすぎて魔石がいくつあっても足りませんよ」



「でも、『死神の左手(トートゴッシュ)』のマスターは何十人も移動させてたぞ……」



「あれはあの方の魔力量が尋常ではないからできる芸当でしょう。それに多分、ダンジョンの入り口付近から移動させただけで、今回みたいな大移動はできないと思いますよ」



 僕らが目指す観光都市オーグは、魔法都市ソリアの遥か南に位置しており、徒歩では到底辿り着くことはできない……従って、不本意ながら列車などという下劣な乗り物に乗らねばならないのだ。



「そんな風に恨めしそうな目をしないでください、クロスさん。乗っちゃったものはしょうがないじゃないですか。諦めて大人しく、吐き気を我慢してください」



「だから何で我慢させようとするんだよ……」



「私、人間が苦しむ顔を見るのが大好きなんです! キャハッ!」



「今の僕に突っ込みを期待するなよ……」



 僕が突っ込まないと、お前のキャラがそんな際物だと誤解されるからな。



「えー、楽しくお喋りしましょうよー。まだまだ時間はあるんですから、一人にしないでくださいよー」



「……じゃあ悪いんだけど、水取ってもらえるか? 飲めば少し落ち着くだろうから」



「さっき全部飲んじゃいました。喉乾いてたので」



「お前は人に対する配慮ってもんを覚えろ……」



 全部飲んだって、水筒、三本くらいあっただろ。


 お腹壊すぞ。



「それにしても、ほんとに乗り物に弱いですよね、クロスさん。その体質は何かの伏線だったりするんですか?」



「乗り物酔いが伏線になるって、相当練り込まれたストーリーラインだな」



「じゃあ普通にただの弱点ですか。可哀想ですね」



「同情してくれてありがとな」



「既に頭が可哀想なのに加えて乗り物酔いとは、心中お察しします」



「人の頭を可哀想とか言ってんじゃねえ」



 列車特有の揺れにも慣れ、段々元気になってきた。

 ニニと楽しく話しているからかもしれないが。



「クロスさんはオーグって行ったことありますか? 私、初めてなので、普通に観光地として楽しみでもあるんですよね」



「僕もないよ。列車に乗らないといけないところは行動範囲外だ……まあ観光都市って冠するくらいだから、期待しちゃうよな」



「どんなアトラクションが待ち受けているのか、今からワクワクが止まりません! 観覧車はありますかね?」



「……どうだろうね」



 どうやら彼女は、観光地と遊園地がごっちゃになっているらしい。幼い子どもみたいに目を輝かせるのが眩し過ぎて、何も言えなかった。



「時にクロスさん、今回の旅程は長旅ですけれど、仕事の方はどうしたんですか? 辞めたんですか?」



「そんな簡単に辞めてたまるか」



「ああ、首ですか」



「次に出てくる選択肢がなんで解雇なんだよ!」



 普通に有休をもらっただけだ。充実した福利厚生、安定最高。



「そろそろ無能ということがバレて追放されたのかと思いました。ではこの場面は、『無能と言われて役所を追放された公務員冒険者は、猫耳美少女とスローライフを送る』というスピンオフの序章ではないのですね」



「ではなさ過ぎるな。隙を見てはメインヒロインの座を狙おうとするな」



 あと自分で美少女とか言ってんじゃねえ。



「オーグについたら、まず『魅惑の香』の拠点を目指すんですよね? どこにあるかとか把握してるんですか?」



「正直に言うと場所は知らないんだ……まあでも、三大ギルドの一つだし、そこら辺の人に訊けばすぐわかるだろ」



「見事なまでの他力本願ですねー。ま、それくらい気楽な方がいいですか」



「ああ。楽にいこう」



 今回の目的は魔導大会への参加だが、しかしそれ以外を楽しんでいけない道理はない。


 なにせ華の有休を使っているのだ、精々観光地を目一杯謳歌させてもらおう。



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