喰魔対策 002
街中や人通りのあるところで無暗に攻撃魔法を使うことは禁じられている……そのため、冒険者たちが魔法の修行や調整をしたい場合、専用の施設や攻略済みのダンジョンに潜る必要がある。
前者の施設を使うには当然利用料がかかるので(大金が手に入ってもケチなままだ)、僕たちはカフェを出た後、一路攻略済みダンジョンを目指していた。
「儂の考えた策が実現可能かどうか、一度試してみる必要があるからの……まあ恐らく問題ないが、いきなり実戦でというわけにもいかんじゃろ」
大胆不敵な彼女にしては珍しく慎重な意見に感動しつつ、僕らは目的地へ辿り着いた。
元々C級ダンジョンだったここは、ダンジョンコアを封印され、モンスターを狩り尽くされ、いわゆる完全攻略された状態なのだ。
最深部にあるコアが封印されると、新しいモンスターは生成されなくなる。残党さえ討伐してしまえば、後に残るのは豊富な資源と巨大な魔法空間だけだ。
「よし、では始めるとするかの。ニニ、もう少し遠くに行ってくれぬか。お主も反対側に歩け」
既に杖の中に戻っているベスに促され、僕とニニは互いに距離を取るように離れる。
「そんなもんでいいじゃろ……今から儂が魔法を発動するから、ニニはそれを防御魔法で防ぐがよい」
「ベスさんの魔法をですか⁉ 無理無理無理無理無理ですよ! 私、防御魔法ごと消滅しちゃいますって!」
「安心しろ。杖を通す分、威力も下がっておる……多分」
「余計な言葉がお尻についてます! そんな適当な感じで命を賭けられません!」
「生きていればみないつか死ぬ、覚悟を決めておけ! 【黒の虚空】!」
「その覚悟を決めるの絶対今じゃないです! 今じゃないですってちょっと待ってー!」
杖から黒色の魔力が拡散し、ニニへ向かって飛んでいく。
凄まじい衝撃音と共に爆煙が広がり、こちらから彼女の様子は窺がえない……おい、マジで大丈夫か、これ。
「おいベス。本当に威力が下がってるんだろうな」
「それがまずいことに、お主。意外と上手いこと魔石の魔力を利用できたお陰で、充分な威力を持ったまま魔法が発動できてしまった。嬉しい誤算じゃ」
「ただの大誤算だろうが! どうすんだよ、ニニが死んじまってたら!」
「落ち着けよ。あやつはああ見えてやる女じゃ。ミミの子孫でもあるしの……いつもの半分程の威力が出たが、恐らく無事じゃろう」
一応前向きな期待もしていたらしいが、こちらは戦々恐々である。
だが――果たして。
獣人の少女ニニ・ココは、爆炎の向こうからその姿を現したのだった。
……めちゃめちゃボロボロになって。
「これ私死んでますよね⁉ ここはもう死後の世界で、天使がラッパを吹きながらラグナロクを告げるんですよね⁉」
「いろいろ混ざっとるぞ。大丈夫じゃから落ち着け……少々、服にダメージはあるようじゃがの」
「本当に生きてますか? 私、軽く人生五周分くらいの走馬灯を見たんですけれど……お母さんとお父さんが笑顔で手を差し出していたんですけれど」
「その手を取らんでよかったわ。ほれ、見てみい。儂もこやつもおるじゃろう」
「あ、確かに。お二人がいるということは地獄か現実のどちらかですから、私は死んでませんね!」
「何を自分は天国確定みたいな面をしておるんじゃ」
服はボロボロだが、しかし体は無事なようでほっと一安心する。
そして胸を撫で下ろす動作から流れるように、杖を地面に打ち付けた。
「何をするか!」
「あぶねーだろーが! 普通に死ぬかもしれなかっただろ!」
「生きておるのだからいいではないか! 結果を見よ!」
「過程が杜撰だって言ってんだ! いいからニニに謝れ!」
「さっき謝るとことじゃったんじゃ! 強制されたらする気がなくなるわ!」
「ガキみたいなこと言ってんじゃねえ!」
ベス――もとい杖を放り投げた。
杖は空中をくるくると舞い、ニニがそれをキャッチする。
「……すまなかった。儂のミスじゃ、許してくれ」
「まあこうして生きてますし、あなたに悪気がないこともわかってますから、気にしてないですよ……そんなことよりも、ベスさん」
「なんじゃ?」
「杖の先っぽについてる魔石、割れちゃってますけど?」




