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窮愁



 ベスが放った魔法は、シリーとヒーコックの命を奪った。


 とても簡単に、あっさりと。


 元勇者であっても、国家機密レベルの闇ギルドのマスターであっても……ベスの前では、風の前の塵と変わらない。



「……」



 冷たく横たわる二人の死体を見下ろしながら、僕は自分の感情の名前を探していた。


 目の前の脅威が去った喜び?

 幼馴染を失った哀しみ?

 人を殺した彼女への怒り?


 ――全て違う。とてもじゃないが、喜怒哀楽なんて既存の言葉じゃ言い表せない。


 人間というのは、複雑だ。


 その複雑さと向き合うには、僕という人間はあまりにも。


 空っぽだった。





 ダンジョンから出た僕とニニとベスは、エジルさんの魔動四輪に乗せてもらって街に戻り、一路ソリアの役所を目指していた。


 ちなみに、エジルさんたちが戦っていた「死神の左手(トートゴッシュ)」の残党は、ギルドマスターのヒーコックとシリーが死んだことを知ると、足早に撤退していった……勝てる戦しかしないという言葉は本当だったようである。


 エジルさんは僕らを街に送り届けた後、軍に事情を話し、「死神の左手」を追っていった。一度関わってしまったからには見過ごせないらしい、男気のある人だ。



「いやー、今回はかなり真面目に死ぬかと思いましたねー。でもこうしてみなさん無事にダンジョンから出られましたし、オールオッケーですよね!」



 ニニがいつも以上に明るい口調で言う。恐らく、僕とベスがギクシャクしているのを察して気を遣っているのだろう。



「……そうだな」



「見たところ、私の故郷を襲った男はいなかったですし、ほんと散々でしたね! いやまあぶっちゃけ、いたらいたで困ってましたけれど!」



「……ああ、そうだな」



 彼女の優しさに対し、僕は気の利いた返しができない。


 大人げないなと、自分でもわかっている。


 でも、気持ちの整理がついていない。


 杖の中に戻って休憩しているベスのことを――僕は。


 許すことが、できるのだろうか。



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