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勇者の末路



 幼馴染で勇者のシリー・ハートが、ギルドを抜けた。


 それどころか、ニニの仇がいるかもしれない闇ギルド――「死神の左手(トートゴッシュ)」に入団したという。


 そんなにわかには信じ難い話をカイさんから聞いた僕は、取るものも手につかず自分のデスクでうなだれていた。



「シリー……」



 彼女は昔から、高慢な態度で僕のことをなじっていた。今思えば、余所者のことが気に入らなかったのだろう……赤ん坊の時に拾われた僕は、シリー以外の村人からも白い目で見られたものである。


 だから別に、彼女が特別嫌な奴だったわけでもない。

 もう遠い記憶の彼方だが、小さい頃は一緒に遊んだことだってあったのだ。


 シリーは僕のことが嫌いだし。

 僕も彼女のことをそんなに好きじゃないけれど。


 でもだからと言って、このまま見捨てるわけにはいかない。


 国家機密レベルの悪評を持つ闇ギルドに入ってしまった幼馴染のことを……僕は、何とかしたいと思っているのだ。


 いくら嫌な奴でもいい、僕のことを裏切ったっていい。


 だけど――人を平気で殺すような犯罪集団の仲間になるのは、違うだろ。


 そこは、越えちゃいけない一線のはずで。

 僕は彼女のことを、こちら側に引き戻さないと――



「く、クロスさん? 怖い顔をしてますけど、大丈夫ですか?」



 ハッと気づくと、目の前にニニが立っていた。


 心配そうな顔で、僕の顔を覗き込んでいる。



「あ、ああ……大丈夫だよ、ニニ。それよりどうしたんだ?」



「実は、次の仕事についてのお話がありまして」



 ニニは改まった感じで言うと、僕の前にある誰のかわからない椅子に腰かけた。



「ベスさんが魔力の吸収に勤しんでいる以上、私たち二人で探索をするのは危険だと思うんです」



「確かに、またぞろA級モンスターが出てきたら、今度こそ危ないだろうな」



「はい。ですから私は考えました。聞くところによるとクロスさん、ベスさんと組まれる前は監督者という立場で未踏ダンジョンに潜っていたんですよね?」



「ああ。探索の仕事をギルドに外注して、それに同行するっていう感じだ」



「そのシステムを使えばいいんですよ。つまり、『竜の闘魂(ドラゴンガッツ)』にきている探索の仕事を私と誰かで請け負って、そこにクロスさんが監督者として参加する……これなら私たちの連携も強化できますし、何よりベスさんの負担にならないと思うんです」



 ニニの提案は……どうだろう、結構いいものなんじゃないか?


 今はとにかく、ベスに魔力を使わせるわけにはいかないし……それを前提条件で考えるなら、「竜の闘魂」のメンバーに手伝ってもらうというのは願ってもない話だ。



「よし、とりあえずその案でやってみよう。探索にいくギルドのメンバーは、誰か当てがあるのか?」



「はい。そこは大船に乗ったつもりで任せてください」



 ニニはドンッと胸を叩く。ベスに比べれば若干膨らみのある胸部だが、しかしまだまだ物足りなさは否めない。


 今後に期待だ。



「何ですかその顔は。さっきまでは怖い顔だったのに、今度はいやらしい目つきになっていますよ」



「別にいやらしいことなど考えていない。ただ純粋に、君の成長を願っているんだよ」



「胸を見てますよね? 今あなた、完全に胸を見ながら言ってましたよね?」



「失敬な。誰がそんな張りはあるが大きさは物足りないされど瑞々しさを持ったフレッシュな印象を与える若さみなぎるバストを見ているというんだ」



「がん見じゃないですか! 流れるように人のバストを評論しないでください!」



 精一杯褒めたつもりだったんだが、駄目だったか。


 駄目なのは十五歳の少女の胸を注視しているお前だという声は無視する。



「私の自慢は胸ではなく、この引き締まったボディラインにこそあるのです。直線美というやつですね」



「まっすぐ寸胴なんだな」



「曲線美と言いました。変な言いがかりをつけないでください」



「でもニニ。確かにお前のウェストは引き締まっているのかもしれないけれど、しかしやっぱり、胸があってこそのくびれだと思うんだよ。出るところが出ているからこそ、腰回りの細さが映えるのだと僕は主張したい」



「迅速に死んでください。あ、間違えた。そんなこと主張しないでください」



「そんな間違いがあってたまるか!」



 掠ってもいない。

 そこまで簡単に死を望まれても困る。



「ところでクロスさん。先程は大丈夫とおっしゃっていましたが、何かあったんですか? 私で良ければいつでも相談に乗りますよ」



 突然話題を切り替えるように、ニニは真面目な顔で言った。


 彼女なりに気を遣って、楽しい空気にしようとしてくれていたのかもしれない……だとすると、年下の女の子に気を遣わせて申し訳ない。



「……僕について話す前に、ニニに知っておいてほしいことがあるんだ」



 物事には順序というものがある。自分の心配事よりも先に、彼女にとって有益な情報を伝えなければならないだろう。


 僕は市長室で行われたカイさんとの会話の内容を、ニニに詳しく語った。



「……ありがとうございます、クロスさん。ずっと一人でどうすればいいのかわからず悩んでいた問題に、光明が差しました」



「僕は何もしてないよ。規則を曲げて協力してくれるカイさんに感謝しないと」



「それはもちろんその通りですが……でも、ありがとうくらい言わせてくださいよ。クロスさんが信用できる人でなければ、私はそもそも、過去を打ち明けたりなんてしなかったんですから」



「……」



「いい人でいてくれてありがとうございます、クロスさん」



 それは、言い方や発言者によっては皮肉に聞こえる文章だったけれど。

 ニニの口から出た言葉を――僕は素直に受け止めることができた。



「……こちらこそ、いい仲間でいてくれてありがとな」



 口に出すのはこそばゆいが……伝えるべきことは、しっかり伝えなければいけないと思った。



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