楽しいお買い物 003
「全く、お主の特殊性癖には目も当てらんわ」
一通り杖を撫で繰り回した後、僕らは次なる品の買い出しに出掛けた。
次なる品――魔力の供給源となる、魔石だ。
「ごめんごめん。でも、僕が触る度にあんな風に悶えられても困るから、鍛えなきゃと思って」
「魔力が溜まれば感覚を遮断する魔法を使うと言っているのに、聞く耳もたずじゃったろうが。なんじゃ鍛えるって。エロ按摩師が」
「そそるネーミングだな」
ちなみに、ベスと会話がしやすいよう、杖は背中に携帯することにした。耳の近くに杖の頭部分を持ってくる格好である。
「魔石かぁ……あれ、高いんだよな」
「ぶちぶち文句を言うなよ。男なら女のためにすっと金くらいださんかい」
「都合のいい時だけ女子ぶるな」
「儂は杖を買っただけで持ち金がすっからかんなのじゃ。儂に貢げることを光栄に思うがよい」
「態度が女王様過ぎるだろ」
杖、舐め回してやろうかな。
後が怖いからやらないけど。
「……ん? そう言えば、ベスの持ち物は一緒に封印されたのか? 何も残ってなかったけど」
「そんな便利な魔法ではないから、多分普通に粉々に砕け散ったんじゃと思うぞ。次に杖から出てくる際は、文字通り裸一貫じゃろうな」
「それ、出てくるタイミングを考えないとコンプライアンス的に問題があり過ぎるだろ」
「お主には既に裸体を見られたことがあるし、儂は気にせんけどな……まあいつ出ても困らんように、ローブも持っておいてもらうとするか。黒一色のもの以外は認めんからな、儂はこだわりが強いんじゃ」
「それも僕の金で買うのにこだわりって言われても……って、おい。じゃあ、僕が初めてお前の封印を解いた時も、服を着てなかったってことか⁉」
「もちろんじゃ。めちゃめちゃ光っておったろう」
「あの光、局部を隠すためのものだったのかよ!」
ここにきて衝撃の事実過ぎる。
「まあ冗談じゃが……しかし、よくよく考えれば裸問題は深刻かもしれんの。戦闘中にお主が発情でもしたら、パーティー全体の士気が下がる」
「裸問題の弊害はそんなことじゃないと思うけどな」
なんだよ、裸問題って。
間違える度に脱いでいくシステムなのだろうか。
「兎にも角にも、まずは魔石じゃ。魔力を吸収せんことには、杖から出ることもできんしの」
「……わかったよ」
未踏ダンジョン探索係には手当てが幾らか支給されるので、正直懐は温まっている。ここで散財するというのは、ある意味正しいお金の使い道かもしれない。
僕は足早に魔石を売っている商店を目指す。
「あれ、クロスさん」
大通りを移動していると、不意に背後から名前を呼ばれた。
振り返ると――先日仲間になったばかりの獣人の少女、ニニ・ココが駆け寄ってくる。
「ああ、ニニ。こんなところで奇遇だな」
「こんなところって……ソリアのメインストリートですよ、ここ。私がいたって不思議はないでしょう」
「それもそうだ……今日はギルドの仕事があるんじゃなかったっけ?」
「はい、さっきまで備品の買い出しをしていました。今はフリータイムです」
ニニは愛嬌のある笑顔で受け答えをする……うん、可愛い。
僕が猫耳に欲情する変態男だったら、この場で抱きついてしまいそうだ。
「邪なことを考えるなよ、たわけ。ニニの猫耳は儂のものじゃ、誰にも渡さん」
「変態度で僕と張り合ってくるんじゃねえ」
「……? 今、ベスさんの声がしたような?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、事の顛末を説明する。
昨日、病院で大枠は伝えていたけれど……ニニはニニでベスのことをよく知らないので、話を理解できていなかったらしい。
僕の説明を聞いて、やっと得心がいったという顔で頷く。
「なるほど、休憩状態ですか……つまり、ダンジョン攻略の時以外はそうして杖の中で休んでおくということでしょうか」
「まあ、そうなるじゃろうな。極力無駄な魔力を使うのは避けたいからの」
「クロスさんと四六時中一緒にいなければいけないとは……ご愁傷様です」
「言葉がおかしいぞ、ニニ。僕と一緒にいるのがどうしてご愁傷様なんだ」
「では、お悔やみ申し上げますと訂正しましょう」
「何も変わってねえ」
そんな風に雑談をしながら、暇をしているというニニも連れて、僕らは魔石を求めて歩き出す。
……それにしても、こうしてじっくり街を歩くことがなかったから意識していなかったけれど、かなり栄えてるんだよな。
さすが、この国でも三本の指に入る魔法都市と言ったところか。
人の往来の多いこと多いこと……田舎出身の僕には、中々慣れない光景である。
「そんなにキョロキョロなさってどうしたんですか、クロスさん」
「いや、僕のいた村に比べると、やっぱり人が多いなって思って……もう数カ月住んでるけど、未だに慣れないよ」
「それは単に、クロスさんが人嫌いなだけでは? 友達いなそうですもんね」
「流れるように人を傷つけるな!」
「私も田舎の出ですけれど、もうすっかり慣れましたよ。やはり賑やかなのはいいものです」
「そうか? 僕は静かな場所の方が好きだけど」
「でしたら、鼓膜を突き破って差し上げましょうか?」
「差し上げるな。丁寧サイコパスか」
身の毛もよだつ提案だった。
「ところで、身の毛もよだつの『よだつ』って、一体何なんですかね。それ以外の字面で見ませんよね」
「まあ、言われてみればそうだな」
「『どんぶらこ』並みに意味がわかりません。あれ、桃が流れる時以外に使い道あるんですか?」
「言いたいことはわかるけど、それ、僕らの世界観的に知ってていい言葉なのか?」
「何をおっしゃっているかわかりませんね……とにかく、桃専用っていうのが、私は気に入らないんですよ」
「じゃあ他にふさわしい言葉を提案しろよ。文句だけなら誰でもつけられるぜ」
「えー、『どんがらぎっちょん』とかで良いんじゃないですかね」
「適当過ぎるだろ」
「あ、あそこの店で魔石を売ってますよ」
投げ槍になりやがった。
ニニに先導され、僕は店に入っていく。
そう広くない店内では、洒落た雑貨やアクセサリー類、そしてさまざまな魔石が売られていた。
「……なあベス。どの程度の魔石を買えばいいんだ? 杖に嵌る大きさの中で選んでも、結構差サイズがあるけど」
「ん? そんなの、一番でっかくて高いやつに決まっとろうが。儂に恥をかかすなよ」
「人の金を何だと思ってるんだ……まあいいけど」
僕は言われた通り、でっかくて高い魔石を買う……しっかり奴隷根性が身につき始めているようだ。
「よし、後はそれを杖に嵌めるだけじゃな……すまんが、儂はしばらく寝るぞ。効率よく魔力を吸収したいからの」
「わかったよ。おやすみ」
杖から応答がなくなる……どうやら、一瞬で眠りについたらしい。
なんだかんだ言っても、倒れた翌日だからな。疲労が抜けきっていないのだろう。
「あ、クロスさんクロスさん。私、このネックレスが欲しいです!」
「そんな風に無邪気に言っても、僕はお前に金は使わない」
「同じパーティーメンバーであるベスさんにはプレゼントをあげるのに、私にはないんですね。へーそうなんだー。うちのリーダーってそんな感じにメンバー贔屓する人だったんだー」
「……」
僕は黙ってネックレスを手に取る。
……明日から、雑草でも食べよう。




