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復讐のため



 今回の未踏ダンジョンは恐らくA級であることと、死の危険に晒されたことを踏まえ、僕たちは探索を中断することにした。


 ベスに単独行動をさせ、ニニまで危険な目に合わせてしまった……これ以上無理をする必要はないと判断するのは、リーダーである僕の役目だ。


 二人ともこの提案を否定することなく、三人で周囲を警戒しながら外へ通ずる魔法陣を目指す。


 ……正直、ベスが反対しないのは意外でもあった。普段の彼女なら「儂がいれば平気じゃ。いこいこー」なんて適当言いながら、しかししっかりとダンジョンを攻略してみせるのに。


 やはり、今のベスには何かがあるらしい。

 僕は仲間として、話してくれるのを待つだけだ。



「あの……」



 何事もなく無事にダンジョンを脱出し、ソリアの市街地へと戻る道中……何となく無言になっていた沈黙を破るように、ニニがひっそりと声を出した。



「どうした、ニニ」



「実は……お二人に話さなければならないことがあるんです」



「なんじゃ改まって……腹でも壊したか」



「いえその、そういう感じの話ではなくてですね……」



 察するに、何か触れづらい話題のようだ。


 僕とベスは自然と口を閉じ、彼女の次の言葉を待つ。



「私が特別公務メンバーに応募した理由について、なんですけれど」



「……それは、ジンダイさんを圧倒したベスと一緒に働きたかったからじゃなかったのか?」



「それはいわゆる、建前というやつです。……本当は、()()()()()()()()()()()



「情報……?」



「はい。特別公務メンバーになれば、役人のみが見られる書類も閲覧できるのではないかと……そう思いました」



「……そうまでして手に入れたい情報ってのは、一体何なんだ?」



 ニニは俯き――下唇を噛む。


 そして語る。

 彼女の、本当の目的を。



「私が知りたかったのは、()()()()()()()()()()()です。二年前、私の故郷と一族を滅ぼした男に復讐するために……私は冒険者になりました」





「私が生まれ育ったのは、エール王国の東の地域……その中でも田舎の部類に入る、バハマダという村です。


 そこは獣人のみが暮らす、獣人の村でした。


 私たちココ一族はバハマダを守る守護者として、代々その地に根差してきました……そうですね、ベスさんと旅をしていたという私のご先祖は、まだあの村に居ついていなかったんだと思います。村自体もなかったかもしれませんね、何せ三百年前ですから。


 そこら辺の記録は残ってないのか、ですか? ……生憎獣人はそういう歴史を気にするタイプではないので、古い文献はあまり数がないんです。


 まあ最も、受け継ぐ歴史はもう、消えてしまったんですけれど。


 あれは二年前、私が一人前の守護者となるための試練を受ける日でした。私たちの一族は十三歳になった子どもに試練を与えて、それを乗り越えることで一族の仕事に参加できるようになるんです。


 試練の内容はさまざまですが……私が課されたのは遠方の山から薬草を持ってくるというものでした。体力と精神を試すという名目らしいですが、正直難易度はそこまで高くなかったですね。余裕たっぷりの私は意気揚々と出発し、三日かけて目的の薬草を積んで帰路につきました――そして。


 地獄を見ることになります。


 村に戻る私は、遠くの方がやけに明るくなっていることに気がつきました……昼間だというのにはっきり視認できた光は、同時に黒々とした煙も上げていると、遅まきながら気づきました。



 バハマダの村が、燃えていたんです。



 頭の中で必死に否定しながら走りましたが……しかし村に近づくにつれ、最悪の現実はより大きなものとなって襲いかかってきました。


 その炎は、自然発生的に生じたものではなく。

 とてつもなく醜悪な、()()()()()がしたんです。


 事ここに至っては、私たちの村が何者かに襲撃されたのは明らかでした……私は村を守るために戦わねばと、全力で走りました。


 ですが、その努力は無駄に終わります。

 バハマダは、既に壊滅していたんです。


 家という家は破壊され、村を囲う外壁は焼け落ち……道には、死体が転がっていました。


 無数に、無造作に。


 村を見下ろせる高台で、私は力なく崩れ落ちました。


 ……どれくらいの時間が経ったのか、多分実際には数分、ですが体感では何時間も絶望に打ちひしがれていましたが、私は立ち上がりました。


 まだ生きている人がいるかもしれない。

 もしかしたら、誰かが助けを待っているかもしれない。

 その一心で自分を奮い立たせ、煌々と燃える村に走っていきました。


 しかし、そんな私の小さな希望すら、叶うことはなかったんです。


 村の端から端まで、ひたすら生存者を探して駆け回った私は――一人も。


 ただの一人も、見つけることができませんでした。


 それどころか、村の惨状を自分からわざわざ見届けにいったようなものでした。



 ついこの間まで遊んでいた広場も、よく通っていたお店も、最近憂鬱だった学校も、秘密基地を作った空き家も、もちろん私の家も、全て焼け落ちて。


 一番仲良しだったリエルちゃんも、世話好きのトッドさんも、口うるさいジル先生も、意地悪なダダくんも、そしてもちろん……私の一族も家族も。



 みんな、殺されていました。



 私は再び、絶望することになります……業火に焼かれる村の中で、目の前の現実を受け止めきれずにいたんです。


 一体誰がこんなことを。

 一体どうしてこんなことを。


 そんな疑問に答えるように、ゆらりと。


 一人の男が、村の中心に現れました。


 その男は私に気づかず、何の感情も感じさせない虚ろな動きでゆっくりと歩き……蒼い炎の翼を生やして、空へ飛んでいきました。


 ですが、私は見たんです。


 男の右手の甲に、何かの紋章が刻まれているのを。


 そして後に――知ることになります。


 右手の甲に紋章を入れるのは、正規ギルドへの反骨と離反のためだと。



 闇ギルド。



 どこかの闇ギルドが、私の村と一族を滅ぼしたんです。


 そして私は復讐のため。


 冒険者になりました」



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