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懐古



「いやーすまんすまん。遅くなってしまった」



 A級モンスターのファントムゴーレムを退けてから数分後――そんな気の抜けたセリフと共に、ベスが僕らの前に降り立った。



「ベス! 心配してたんだぞ! 大丈夫だったのか!」



「少しばかりモンスターどもを倒すのに手間取ってしまっての……すまない」



「いや、無事だったんならいいんだけど……」



 やっぱり、ベスもモンスターに襲われていたらしい。これで彼女が僕らのピンチに駆けつけられなかった理由はわかった。


 問題は、どうしてベスが()()()()()()ということ。



「なあ、ベス……」



「ところで猫耳娘、そなたに言っておきたいことがある……ずっともしやと思っていたのじゃが、今お主から流れている魔力で確信した」



「な、何でしょうか……?」



「儂は、()()()()()()()()()()()()()()()



 僕の疑問は、ベスの衝撃的な発言によって搔き消された。



「わ、私の先祖?」



「そうじゃ。あれは大体、三百年くらい前かのぉ……お主と似た容姿をした獣人の女と、共に旅をしたことがある。奴の名前はミミ・ココ……お主同様、盾を媒介にした魔法を得意としておった」



「ミミ・ココ……」



「応募書類でお主を見た時、もしやこれは儂の知るあの猫耳娘とつながりがあるのではと思ったのじゃが、ビンゴじゃったな。その魔力は間違いなく、ミミと同質じゃ」



 ベスは自信たっぷりに頷く。


 彼女の話が事実なら、奇跡的な偶然だ……三百年も前に旅をしていた仲間の子孫と、こうして再びパーティーを組むことになるなんて。



「……三百年前って言うと、ニニのひいひいひいひいお祖母ちゃんくらいか? まあ、直接血がつながっているとは限らないけど」



「ここまで同質の魔力じゃ、恐らく直系の子孫じゃろう。それに、所作の一つ一つがすこぶるミミに似ておる……血とは不思議なものじゃの」



「なんだか、実感がわきませんけれど……私のご先祖とベスさんが仲間だったというのは、運命を感じてしまいますね」



 突然のことでニニも戸惑っていたが、しかし嬉しそうな表情を浮かべた。


 運命、か。


 千五百年も生きていれば、こうした縁もあるのだろう。僕には、途方もなさ過ぎて想像できないけれど。



「ミミとは長く旅をした……酔っぱらった儂があやつの猫耳を齧って、よく怒られたもんじゃ」



「一番に思い出すエピソードじゃないだろ、それ」



「じゃがあやつも次第に満更ではない顔をしてきての。耳が感じるらしい」



「子孫の前でなんて話をするんだ」



 ご先祖様の性感帯の話とか、聞かせるんじゃねえ。


 ……でもまあ、ベスは以前、友と呼べる存在は十人しか覚えていないと言っていた。


 その内の一人がニニの先祖なのだとしたら、いい関係を築いていたということだろう。



「あやつは最高の盾使いじゃった。儂らの窮地を幾度も救い、その防御魔法はどんな攻撃をも寄せ付けない鉄壁の守りじゃった……お主を仲間に引き入れたのは、単に昔を懐かしんだからではない。いずれはミミのような才気あふれる冒険者になるじゃろうと、期待してのことじゃ」



「……ありがとうございます。私の一族をそこまで評価してくれるなんて、感謝しかありません」



 ベスの激励を聞いたニニは、何とも言えない顔で返事をした。


 嬉しさと哀しさが入り混じったような。


 そんな顔で。



「今回の戦闘でも、よくこやつを守り抜いてくれた。儂の方こそ、お主の活躍に敬意を表したい」



 どこまでも上から目線ではあるが、ベスもニニに対して感謝の意を述べる。


 戦闘……そうだ。



「……さっき聞きそびれたけど、ベスはどうして今回苦戦したんだ? もしかして、S級モンスターでも出てきたとか」



「……その話は、また改めてするとしよう」



 彼女にしては珍しく、煮え切らない態度でそう呟いた。


 やっぱり、ベスの身に何かが起きたらしい……まだ付き合い自体は短いけれど、何となく察することができる。



「……そっか。わかった」



 だが僕は、深く追求しなかった。


 彼女が改めて話すと言っているなら、それを信じるのが仲間であると。


 そう思ったから。



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