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ニニ・ココ 001



 新たなパーティーメンバーを迎えた翌日。


 僕らは、今日探索予定の未踏ダンジョンの入り口まで足を運んでいた。



「えっと……じゃあ確認だけど、ニニは前衛でモンスターの攻撃を引き受けて、僕が横からそれを叩く。ベスは後衛から広範囲をカバーするっていうのが、基本的な戦術になるかな」



「わかりました」



 桃色の髪と猫耳をフワッと縦に動かし、ニニは了承の意を見せる。


 ニニ・ココ。


 新メンバーである彼女の役職は「盾使い」……背中に背負った大盾を自在に操り、仲間をモンスターの攻撃から守る役割だ。



「C級くらいの敵しか出てこんようなら、儂は何もせずに見ておるぞ。最近空腹の収まりが悪くての、無駄な魔力は使いたくないんじゃ」



 やっとモンスターの等級を覚え始めてくれたベスは、それを逆手にとってサボるための口実に使い出した……まあ僕が強くなるという意味でも、自分で倒せる敵は自分で倒さないとな。



「ニニは、何か確認しておきたいこととかあるか?」



「いえ、特にはありません。お二人を守れるよう、全力で頑張ります」



 一応、僕に対する警戒は解いてくれたらしい。

 だったら後は――戦いの中で語るとしよう。





「【シールド】!」



 一階層目、最初に出くわしたモンスターはC級のパペットデーモンだった。魔法を得意とする種族で、飛行しながらの遠距離攻撃が厄介である。


 今までだったら、敵の攻撃を躱し続けて隙を窺わなければならなかったけど……ニニの防御魔法により、その必要がなくなった。


 盾を覆うように青白く広がった防御魔法が、デーモンの攻撃を防いでいく。



「【火炎斬り】!」



 隙を見て、僕が炎で攻撃……なんだこれ、めちゃめちゃ楽じゃないか。


 やっぱり、冒険者はパーティーで戦闘をしてこそそれぞれの真価が発揮されるのだと、身に染みて理解する。



「ふむ、二人で上手いことやれそうじゃの。儂は適当に空を飛んでおるから、危なくなったら呼んでくれ」



 最初の戦闘が終わった後、ベスはそう言って翼を生やして消えていってしまった。


 残された僕とニニは、二人で次回層へと続く魔法陣を探す。



「……クロスさんは、探索係になられてから長いんですか?」



「ん? いや、実はそうでもなくてさ。まだ新米のぺーぺーだよ」



「そうなんですね。以前は何をされてたんですか?」



「しがない田舎の冒険者、ってとこかな。『隻眼の犬(オッドパピー)』ってギルドなんだけど、知らないよね」



 周囲を警戒しながら、僕たちは森の奥へと進んでいく。ニニと仲良くなりたいと考えていたら彼女の方から話しかけてくれたので、正直嬉しかった。



「パピー……子犬、ですか。やはりクロスさんは、そういう獣染みたものが好きなんですね」



「ちょっと待て、それはとんでもない誤解だ。僕は普通に、人間の女の子が好きなだけの、健全な男の子だ」



「健全な男の子は自分のことを健全とは言わないと思いますが……まあ信じましょう」



「信じてくれてよかったよ」



「クロスさんは、人間の女の子にしか欲情できない男子であると認識します」



「嫌な言い方するな」



 言っていることは間違っていないのに、まるで僕にやましいことがあるみたいじゃないか。

 言葉って難しい。



「あなたは獣人になんてこれっぽっちも劣情を催さないと、そう暗におっしゃったのですよ。当事者である私としては、複雑な気持ちにならざるを得ません」



「いやだって、ここで獣に興味があるって言ったら、それはそれで引くんだろ?」



「ええ、引きますね。ですが獣人は性欲の対象外だと言われるのも、それはそれで腹が立ちます。私のことなど箸にも棒にもかからない存在だと、そう言われている気になります」



「ニニのことは普通に可愛いと思うよ」



「私に何をする気ですか! やめてください、このけだもの!」



「けだものはお前だけどな」



 やれやれ。


 十五歳というのは、そういうエロ方面に興味を持つ年頃なのだろう……ここはそのステージを終えた大人として、しっかり教育してやらねばならない。



「いいか、ニニ。男っていうのは、別に何でもかんでも欲情するわけじゃないんだ。それぞれが確固たる信念の元、己のリビドーを解放させてるんだよ」



「要は性癖ってことじゃないですか。なんですか、いたいけな少女である私にどんな話をしようとしているんですか」



「まだまだ理解が浅いな、少女よ。つまりだな、僕は大人のお姉さんの豊満な体つきにエロスを覚えるが、かと言ってニニの愛嬌のある仕草に何も感じないわけじゃない。ただ、それは性欲とは切り離された純粋な感情なんだ。だが時に、純粋は裏返って不純になり得る。それはさながらコインの裏表のように、いやそれ以上に互いが肉薄し合った存在なんだ。純粋な気持ちなくして劣情は生まれない……わかるか?」



「わかりたくありません。何ですか、エロスって。長々語ってくれましたが、わかったのはあなたが変態ということだけです」



 ふむ、これは先が長そうだ。

 僕の領域に到達するには、数年の修行が必要だな。



「そんなことより、あっちの方から魔法陣の気配がしますよ、変態さん」



「当たり前みたいに人のことを変態呼ばわりするな……って、魔法陣?」



「私たち獣人は鼻が()()んです。魔力の流れを嗅ぎ分けることで、凡その方角は判別できます」



「ふーん……」



 それ、猫じゃなくて犬じゃん。


 まあ、獣は全体的に嗅覚が鋭いと言えば、そうなのかもしれないけど。



「今、『それ、猫じゃなくて犬じゃねえかよ。頭の猫耳は飾りか? 俺様がもぎ取って鍋に入れて煮込んでやるぜ、ぐえっへっへ』と思いましたね」



「思うか。どんなサイコ野郎だよ」



 ぐえっへっへなんて笑い方したことねえ。

 そんな奴がいたら、さすがの僕でも変態と罵るだろう。



「……そう言えば、ニニはどうして冒険者になったんだ? 獣人は身体能力も高いっていうし、戦闘が得意とか?」



 僕としては、場繋ぎ的に当たり障りのない質問をしたつもりだったのだけれど。


 ニニの表情が、一瞬曇ったのを感じた。



「……そうですね、そんなところです」



 それは、これ以上語ることはないという、拒絶の表れのようで。


 僕は静かに、頷くしかなかった。



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