名案
結果から端的に申し上げると。
ベスは、B級ダンジョンを半日もせずに完全攻略してしまった。
……自分で言っていて、何の冗談かと思うけれど。
しかし、事実だ。
B級ダンジョンといえば、勇者シリーのパーティーですら攻略に一週間かかり(あの時は僕もいたから遅くなったかもしれないけど)、それが平均と言われている所用期間である。
それを――半日。
僅か十二時間足らずで、ベスは完全に蹂躙してみせた。
『まあ、肩慣らしには丁度良かったの』
ダンジョンを出ての第一声は、そんな気の抜けるようなものだった。
『何だか昔より腹が減りやすくなった気もする……歳を取ったということかの』
なんて、千五百年生きているにしては俗っぽいことも言っていた。
とにかく僕は、探索で起きた事実を報告書に纏めなければならない。
例えそれが、どんなに荒唐無稽に思える内容だとしても。
◇
「……」
初めて会った日から、カイさんには驚かされたり驚かせたりしているけれど……どうやら今目を落としている報告書が、ここ最近で一番の衝撃であろうことが窺えた。
数分の沈黙の後、彼女は重い口を開く。
「……B級ダンジョンを半日で攻略したと、しかも完全攻略したとこの書面からは読み取れるが……事実かい?」
「はい。事実です」
「……君が同僚でなければ、はいそうですかと信じたりはしないが……うむ……」
「えっと、一応そこに書いてあるとおり、モンスターを討伐したのはエリザベスです。僕は十数体倒した程度で、残りは全て彼女がやりました」
「別に、君が弱いからとこの結果を疑っているわけではないよ。エリザベスくんが強過ぎて疑っているんだ……ちなみに、この『疑う』は『目を疑う』という意味の方だがね」
はぁと、カイさんは一際大きい溜息をついた。
そして、綺麗に整っている髪をクシャクシャと掻き毟る。
「ここに書いてあることが事実なら、彼女はまずい立場に置かれてしまう……喰魔のダンジョンの次は規格外のエルフとは、お祓いにいった方がいいかもしれんな」
「まずい立場、ですか」
「うむ。強大な力は往々にして人目を引くものだ。彼女の存在が世に広がってしまえば、多くのギルドがその力を欲するだろう……最悪の場合、他国から危険因子とみなされて命を狙われるかもしれない」
「命って……それは大袈裟なんじゃないですか?」
「大袈裟なことが起きているんだよ、クロスくん。B級ダンジョンを半日で完全攻略するなんて、ほとんど革命と言って差し支えない偉業だ。そして革命を起こした者の末路は、破滅と決まっている」
ベスは僕のことを破滅型の人間だと言っていたけれど、彼女の運命もまた安泰なものではないらしい。
カイさんは顎に手を当てながら目を閉じ、何かを思案する……しばらくして、パッと大きく目を見開いた。
「後ろ向きに考えるのはやめるとしよう。エリザベスくんがエール王国についているという状況を、最大限に活かすべきだね」
「……どういう意味ですか?」
僕の問いかけに対し、カイさんはにやりと唇を歪める。
「君とエリザベスくんにはこれから、積極的にダンジョンを攻略してもらいたい。もちろん危ない橋を渡る必要はないが、攻略可能と判断すれば行動に移してくれ」
「探索よりも攻略を優先しろと、そういうことですか」
「その通りだ。未踏ダンジョンに最初に入ることができるという我々の特権を利用して、ギルドの連中より先にダンジョンを攻略する……それができれば、ギルドと国との力関係に風穴を開けることができるかもしれない」
言って、彼女は拳に力を入れる。
確かに探索係が未踏ダンジョンを攻略してしまえば、ギルドの出る幕はほとんどなくなる……国よりも力を持ってしまった彼らの権力を削ぐには、理想的な方法だ。
「でも、僕とベスだけでそこまでの影響を与えられるとは思えませんけど……」
「何事もやってみなければわからない。例えば君たちが立て続けに功績を挙げれば、ギルドを辞めて未踏ダンジョン探索係になりたいと考える冒険者も出てくるのではないかね?」
「それは……ちょっと希望的観測過ぎる気もしますけどね」
「なんだい、君は太鼓持ちというやつができない男か。ここは私の名案をよいしょするところだろう」
「よっ、さすがエール王国一の市長っ!」
「絶望的に他人を持ち上げるのが下手だね」
言われた通りにしたのに、お気に召さなかったらしい。
まあ、彼女の名案(?)が実現するとは到底思っていない身からすれば、適当な受け答えになるのも仕方がないだろう。
しかし。
カイさんの思惑は、違った形で結果を出すことになる。




