改めて初仕事 003
更に戦闘を重ねること一時間。
僕とベスは、二階層に下りる魔法陣を見つけていた。
「生成されてるモンスターの強さと数からみて、多分B級ダンジョンだろうな」
D級やC級にしては強いモンスターが多いし、A級程の絶望感はない……となると、このダンジョンは消去法でB級ということになる。
まだ一階層しか探索していないので断言してはいけないが、恐らく間違いない。三階層目まで潜らないと難易度認定ができないと決まっているので、この先も探索を続けなければならないが。
「あー、何となくわかってきたわい。お主らがA級だかB級と呼ぶそれは、儂の感覚で言うと『ちょっと疲れるのー』とか『全然疲れないのー』みたいな話か」
「……まあ、そんな感じなのかな?」
「その感覚に一々難易度をつけてやると……これまた、冒険者を甘やかす仕事じゃのう。そんなもの、ダンジョンに入ってから自分たちで見極めればいいじゃろ」
「でもそれじゃ、駆け出しの冒険者パーティーがA級に潜ってしまって、あっという間に壊滅する危険性があるじゃないか」
「そんなのは当たり前じゃ。それを含めての冒険者じゃろうに……ま、時代が変わったということか」
時代……確かにベスの言う通り、難易度設定なんていうのは冒険者を甘やかす側面があるかもしれない。
でも、例えばより効率よくダンジョン内の資源を回収できたり。
国がギルドや冒険者を管理しているという証明になったり。
探索係の仕事も、あながち無駄なことばかりではないのだ。
「できれば、ベスにもモンスターの等級とかを覚えてほしいんだけど……強そうとか弱そうだけじゃなくてな」
「気が向いたらの」
「ベスが封印される前には存在しなかったモンスターだっているだろうし……それにほら、脳トレにもなるんじゃないか?」
「お主、儂のことを何だと思っとるんじゃ。誰が物忘れの酷い老人じゃ」
「そこまで言ってねえよ……」
自分で気にしてるじゃねえか。
「儂のことを老人扱いするなよ。見た目通りの扱いもするな。というか気に障ることを言うな」
「女王様か」
今時ここまで我を通すのも珍しい。
まあ彼女に不機嫌になられても困るので、精々地雷を踏まないように努めよう。
「あとは天気の話や昨日何食べたかという話、散髪の際に交わされる無用の結晶のような話も、儂の前でするでない」
「地雷原が紛争地帯並みだな」
雑談できないじゃん。
そんなんでよく友達がたくさんいたな。
「まあ、とりあえず次の階層に下りよう。ここがB級ダンジョンなら、三階層目までなら今日中に探索できるかもしれないしな」
「……なあ、一つ質問なんじゃが」
魔法陣を前にして、ベスは顎に手を当てる。
「このダンジョン、攻略してはいかんのか? 規則ではどうなっておる」
「攻略は……探索のマニュアルでは、特に言及されてなかったと思うけど。でも資源は持ち帰れないし、仮に攻略してもいいことないぜ? 一日二日で終わる仕事が、何十日も長引くだけだからな」
「禁止されていないのならいいんじゃ。お主に迷惑はかけたくないしの……ってことで、儂はこのダンジョンを攻略させてもらうとしよう」
「本気か? 攻略してもメリットないぜ?」
「久しぶりに暴れたいだけじゃから気にするな……それに、確かめなければならぬこともあるしの」
言いながら、ベスは自分の右拳を握る。
確かめたいこと……二百年ぶりに動いているわけだし、まだ体に違和感があるとか?
質問をする前に――ベスは飛んだ。
「お、おい! 何してんだ!」
「じゃから、このダンジョンを攻略するといったろう。手始めに、この階層に沸くモンスターどもを残らず消滅させてくる」
ダンジョン攻略には、通常攻略と完全攻略の二種類がある。
どちらもダンジョンコアを封印するという点で違いはないが……異なるのは、モンスターについてだ。
コアを封印した時点で新たにモンスターが生成されることはなくなるが、しかし既に生み出されてしまったものに関しては消えることはない。
つまり、完全攻略とは全ての階層のモンスターを綺麗さっぱり討伐することなのだ。
加えて言えば、敵の最大出現数は階層ごとに決まっており、それを過ぎればコアを封印する前でもその階層にモンスターは湧かなくなる。
故にダンジョンを完全攻略したい場合、一旦通常攻略をしたのちに残党を狩るか、初めから全ての階層のモンスターを倒すかの二つの選択肢があるのだが……ベスは、後者を選んだらしい。
「お主の修行も兼ねつつ、儂の暴れたい欲求も満たし、尚且つ攻略もする……うむ、我ながら完璧じゃの」
「完璧じゃのって……それができるなら……」
苦労はしないと言いかけて、気づく。
彼女なら――それができると。
S級モンスターのドラゴンを退け。
A級モンスターの群れをいとも簡単にいなし。
有名ギルドのサブマスターをも圧倒する、ベスなら。
「じゃあちょっくら殲滅してくるわい。なーに、そう時間はかからんじゃろ」




