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特別公務パーティー 001



「監査係を辞めたいぃ? 君、いきなり何を言い出すかね。せっかく希望を聞き入れて部署を変えたというのに、二日で音を上げるのかい」



 ソリアの市街地に戻ってから一時間後。

 僕は役所の最上階――市長室のドアを叩いていた。

 自分の気持ちを伝えるために。



「勝手なことを言ってしまってすみません。ですが、もう決めたんです」



「決めたんですって、君個人が決めることじゃないんだがね……それに何より、まずは部署の上司に話をするのが先だろう。どうして一足も二足も飛ばして私のところにくるかね」



「それは、その……すみません……」



 監査係の部署に顔を出すと、「竜の闘魂(ドラゴンガッツ)」で何があったのかを説明しなければならないと思って、気が引けてしまったのだ。どうせすぐバレることだし隠していても仕方ないけれど、まずは大事な用事を済ませたかった。



「まあ、ついこの間まで冒険者だった君に形式ばった動きを期待してはいないが……それで、監査係を辞めたいだって? 深く理由を訊くつもりはないが、そうころころ部署を変えられると思ってもらっちゃ困るな。世界は君中心に回っているのではないのだよ」



「すみません……」



 耳が痛い。


 そりゃ、カイさんにしてみれば一度僕の我儘を聞いたにもかかわらず、舌の根も乾かないうちに二度目があったのだ。小言を言うなという方が無理がある。



「で、君はどこの部署にいきたいんだね。企画か? 広報か? 正直、希望は通せないと思ってもらった方がいい」



「あの……実は、未踏ダンジョン探索係に戻して頂けないかなー、と……」



 椅子に座って不機嫌そうに前後に揺れていた彼女の動きが止まる。


 そして、数秒の沈黙の後。



「なんだなんだなんだなんだ、そういうことなら先に言ってくれたまえよ。もちろん大歓迎だ。元々、監査係にしておくには惜しい人材だと思っていたからね、私としても大変喜ばしい」



 めちゃめちゃ歓迎された。


 よし、第一関門はクリアだ……。



「ありがとうございます。それで、実はもう一つお願いがありまして……」



「なんだね? 前置きはいらないから言ってみなさい」



「では、お言葉に甘えて……ベス、入ってきてくれ」



 僕は市長室の入り口の扉に向かって呼びかける。


 開いたドアの奥から、漆黒のローブに身を包んだエルフ――ベスが入ってきた。



「……これは、驚いたな。君はエルフだね? 実際にこの目で見るのは初めてだ」



「ふん。儂は見世物ではない、そう好奇な目を向けるなよ」



「これは失礼。初めまして、私はここ魔法都市ソリアの市長、カイ・ハミルトンだ。親しみと愛情を込めてカイさんと呼んでくれ」



「断る。儂は滅多なことでは他人に敬称をつけぬ主義での」



「お、おい、ベス……」



 初対面の相手に礼儀を重んじる質で出ないのは知っていたが、目の前にいるのは大都市の市長だ。ジンダイさんたちのような冒険者とは違い、不届き者を裁く権力を持っている。


 事前の打ち合わせで穏便にしてくれるよう頼んでいたのに……まあ、()()()をしてから終始機嫌が悪かったので、こうなるだろうとは思っていたけれど。



「こりゃまた随分と高飛車なお嬢ちゃんだ。時にクロスくん、君のお願いとこちらのお嬢ちゃんには、一体どういう関係があるのかね」



 一方のカイさんは、ベスの態度に腹を立てている様子はなかった。そこはさすがの器といったところだろう。


 そんな彼女に対し、僕はベスをここに連れてきた理由を説明する。



「実は、ここにいるベス……エリザベスさんを、()()()()()()()()として採用して頂きたいんです」



「特別公務メンバー、だって?」



「はい。ダンジョンに潜る業務が発生する部署では、一般からパーティーメンバーを募集できるんでしたよね? 採用になれば、特別公務メンバーとなって公務員と一緒にダンジョン内で仕事をすることができると、そう聞きました」



「……確かに、人手不足の解消や人材の強化という点で、そういった制度は存在するが……そこのエルフのお嬢ちゃんをメンバーにしたいと?」



「お嬢ちゃんではない、エリザベスじゃ、たわけ」



 不遜な態度をとるベスの頭を叩いた。



「いった⁉ いきなり何をするか!」



「こっちが下手に出てお願いするんだって言っただろうが! ちゃんと打合せ通りやってくれ!」



「誰が下手になど出るか、たわけ! そもそもお主とダンジョンに潜るのに、どうして他人の許可がいるんじゃ!」



「だから、僕は公務員なんだから仕方ないだろ! 規則があるんだよ!」



「規則などドラゴンにでも食わせとけばよいのじゃ! 儂は気に入った相手以外にへりくだったりはせんぞ!」



「まあまあ、落ち着きなさい二人とも」



 いがみ合う僕とベスを、カイさんがなだめる。その声や所作からは、大人の余裕が感じられた。

 大人っていうなら、絶賛僕に噛みついてきそうなこの少女は千五百歳なんだけどな。



「まずは事情を聞こうじゃないか。クロスくんは、どうしてそこのエリザベスくんとパーティーを組みたいんだい? わざわざ私に直談判するくらいだ、何か理由があるんだろう?」



「はい、実は……」



 僕はベスとの出会いから今に至るまでの経緯を簡略化し、カイさんに伝えた。


 彼女は仲間に裏切られ、とあるダンジョンの最深部に封印されていたこと。

 その封印を解いたお礼として、僕の手伝いをしたいと言っていること。

 魔法の実力は、「竜の闘魂」のサブマスターをも凌ぐ程だということ。


 ……ベスが僕についてくる理由は脚色したが、他は概ね真実を語ったつもりだ。



「なるほど……千五五五歳とは御見それした。今の話が事実だとしたら、特に魔法に関する部分が事実だとしたら、こちらから頭を下げて特別公務メンバーになってほしいところだね」



「そこに関しては嘘偽りはない。むしろ、ちょっと話を盛らなさ過ぎたくらいじゃな」



 得意満面な笑みを浮かべるベスに対し、カイさんは意地悪そうに口を歪める。



「実力はいくらでも証明してもらう手段があるから、今のところは言及しないでおこう……それよりも問題なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」



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