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ドラグナー



「【召喚(サモン)――ヴァルヴァドラ】‼」



 大剣を頭上に掲げたジンダイさんの周囲に、黄金の魔法陣が出現する。


 とてつもない魔力だ……才能のない僕が感じ取れる程の、凄まじい気配。



「召喚魔法とな! これは楽しめそうじゃ!」



 対するベスは、その気迫に少しも押されることなく笑っていた。


 召喚魔法。


 確か、魔力によって生成された魔法生物を、任意の場所に呼び出す魔法……だったはず。


 無差別に人を襲うモンスターと違い、魔法生物は召喚師の指示を忠実に受けるパートナーのようなものだ。


 黄金の光を放ちながら顕現した、ジンダイさんの魔法生物は。


 荒々しく両翼をはためかせる――ドラゴンだった。



「見たか! あれが兄貴のドラゴン、鎧龍(よろいりゅう)ヴァルヴァドラだ!」



 召喚された竜を見て、ギルドのメンバーは一斉に歓声を上げる。


 あれは、未踏ダンジョンを探索していた際にジンダイさんたちが乗っていたドラゴン……彼の召喚した個体だったらしい。


 竜を召喚し、竜と共に戦う高位役職。


 ドラグナー。



「ヴァルヴァドラ! 【鎧龍息吹(アルマ・ブレス)!】」



 甲高い悲鳴に似た咆哮をあげたドラゴンが、ベスに向けて口を開ける。


 先程エジルさんが使っていた竜魔法とは比べるべくもない、空間を歪める鈍色の波動が撃ち出された。


 その容赦ない攻撃は、ギルドの内部を破壊していく。



「ぐわあああああ⁉」



「うわああああああ!」



「兄貴ぃ! やり過ぎだ!」



 当然、周りで観戦している僕たちもただでは済まない……何人かは巻き込まれてしまったようだが、僕はそそくさと安全そうな場所に移動する。



「ふむ……中々筋がいい。ジンダイといったか? あと数年鍛錬を積めば、一角の冒険者になれるじゃろうな」



「っ……」



 文字通りギルドを半壊さる程の威力をもった魔法を正面から食らってなお、ベスは余裕の笑みを浮かべていた。


 瓦礫の中に、幼い少女が平然と立っている……さすがのジンダイさんも、その異様な光景には驚きを隠せないようだ。



「じゃが、今のお主では儂には勝てぬ。強くなってから出直してくるんじゃな」



「ふざけるな! 一度ブレスを防いだだけで勝ったつもりか! まだ勝負はついていない!」



 ジンダイさんは声を荒げ、両手で大剣を構え直す。


 それを見たベスは、静かに呟いた。



「なるほどわかった。強者と戦いたいというお主の野心に応えてやるとしよう……じゃが先に言っとくが、手加減はせんぞ」



「そんなものは無用だ! いくぞ!」



 完全に火がついた彼は、雄たけびを上げて突進する。ヴァルヴァドラも後から追随し、再びブレスを放たんと口を開く。



「【鎧龍破断(アルマ・ルクト)】‼」



 ドラゴンの放った息吹が大剣に纏わりつき、鈍く光る刀身が驚異的な魔力を生み出す。


 その剣戟は空間を圧し潰し、ベスの頭上へと振り下ろされた。


 充分に距離を取っている僕にまで伝わってくる、肌を裂くような悪寒……あれが、ドラグナーの使う魔法なのか。


 さすがのベスも、今までのように受け止めきれないんじゃ……。



「一瞬じゃ、しっかり見ておけよ!」



 だが、そんな僕の心配を余所に。


 彼女は――高らかに魔法を発動する。



「【黒の崩晶(ネロ・グリモア)】!」



 黒い球。


 ベスの頭程の大きさをした黒球が宙に浮かび――ジンダイさんの魔法を()()()()()


 黒球はそのまま斜め上に突き進み、ドラゴンの右翼を消滅させる。



「ぐぎぎゃあああああああああああああああああああああああああ‼」



 ヴァルヴァドラは苦痛に歪んだ悲鳴をあげて暴れ出し、その衝撃で辛うじて建物の形を保っていたギルドが崩れ始めた。



「っ! 【帰還(リターン)――ヴァルヴァドラ】‼」



 瞬時に状況を把握したジンダイさんは、帰還魔法でドラゴンを別空間へ移動させる。素早い対応だったが、ギルドの崩壊は止まらなさそうだ……って、僕も普通に危ないんだけど!



「全員退避ぃ‼」



 サブマスターの号令を受け、「竜の闘魂(ドラゴンガッツ)」のメンバーは一目散に屋外へと逃げだす。


 僕もなんとか瓦礫を避けて外へ出ることができた――ガラッ。


 ガラガラガラガラガラガラガラガラドーーーーーーーーーーンッッッッ‼



「……」



 完全崩壊。


 ほんの数分前まで自分たちが過ごしていた建造物が崩れ落ちたのを見て、みな放心状態になっている。



「いやー、派手にぶっ壊れおったのぉ。爽快爽快」



 ただ一人、エルフの少女を除いて。





「あー腹が減った腹が減った。ここんところ連日魔法を使いまくっとるから、空腹感がすさまじいわい。お腹と背中がくっつきそうじゃ」



 「寮の闘魂」のメンバーが無言でギルドだったものを見つめる中、ベスだけが陽気に独り言を言っている。


 そんな彼女の元に大男――ジンダイさんが近づいていった。



「……エリザベス、だったな」



「お主のことは気に入ったから、ベスと呼んでもよいぞ、ジンダイ」



「……エリザベス。お前は一体何者だ」



「なんじゃ、可愛げのないやるじゃのぉ……別に何者でもない。千五百年ばかし生きておる、ただのエルフじゃ」



「千五百年……そうか」



 ジンダイさんは納得のいったような顔で頷く。


 てっきり、彼はベスに文句を言いにいったのだと思ったけれど……二人を見る限り、一触即発の雰囲気ではないらしい。



「魔力を食らうことのできるエルフは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われているが……これ程とはな」



「ふん。生まれた時からこれくらいのことはできたわ。人を年寄り呼ばわりするな」



 エルフは長生きする程強くなる……そうなのか、知らなかった。


 だが、そう考えればベスの恐ろしいまでの魔力に説明がつく。


 当の本人はああして見栄を張っているけれど……千年以上生きたが故に、あの規格外の魔力を手に入れたのは事実なのだろう。



「俺は、常に強者と戦うことだけを考えて生きてきた。今まで数多の強者と出会い、越えねばならぬ壁も知った。このギルドのマスターであるラウドや、『魅惑の香(スイートパルム)』のマスターロッテン……その壁に、お前も加えさせてもらおう」



「儂をか? まあ好きにすればよい。そういう熱い告白を受けるのも、二百年ぶりじゃの」



 どうやら、ジンダイさんはベスのことを越えるべき壁として認めたようだ。



「……ジンダイの兄貴が、あのガキのことを認めた?」



「……ってことは、あの子は兄貴よりも強い?」



 にわかにメンバーたちがざわつき出す。


 そして。



「エリザベスの姉御!」



「先程は失礼しやした! ガキだなんてとんでもねえ!」



「姉御、是非今度俺たちとも手合わせを!」



 むさくるしい男どもが、ベスの周りに群がっていく。



「なんじゃなんじゃ。儂、超人気者?」



 その群衆の中心で、彼女は割と満更でもない笑みを浮かべていた。



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