喧嘩
「……ベス、どうしてここに」
「いやー、森を散策しておったんじゃが、普通に飽きてしまってのぉ……構ってもらおうかと思って、きちゃった」
「きちゃったって……」
そんな可愛く舌を出しても、この状況は収まりそうにない。
いきなりギルドに入ってきて生意気なことを言う子どもに優しくする程、冒険者って奴はいい人ではないのだ。
「おいおい、いつからこのギルドは保育園になったんだ?」
「誰かそいつをつまみ出せよ」
入り口の辺りで酒を飲んでいたギルドのメンバーが、ベスの周りを取り囲む。
「ここはガキのくるとこじゃねえんだよ。俺らの機嫌がいいうちに大人しく帰んな」
「ガキってのは儂に言っとるのか、ガキ。いくら酒を飲んでも、乳臭さが隠しきれておらぬぞ」
「……んだとごらぁ! ガキだからって容赦しねえぞ!」
挑発に乗った一人が、ベスに向かって殴りかかった。
刹那――黒い魔力が壁を作り、男を弾き飛ばす。
「なっ⁉ こいつ魔法が使えんのか!」
「やっちまえ!」
ベスの周りを囲っていた巨漢どもが、束になって襲い掛かった。
――が、しかし。
彼女の前では、並の冒険者が何人集まったところで意味はない。
「鬱陶しいのー」
ベスは顔色一つ変えず、右手を横に薙ぐ。
漆黒の魔力が波のように広がり、眼前に迫っていた男たちを吹き飛ばした。
「べ、ベス!」
まずい。
まずいまずいまずいまずい。
ダンジョン外でみだりに攻撃魔法を使うことは、この国の法律で禁止されている。今まさに、ベスは違法に攻撃魔法を使ってしまった。
このままでは、彼女が犯罪者として捕まってしまう……!
「俺らのギルドで暴れてんじゃねえぞ、クソガキが!」
いつの間にか。
僕の隣にいたはずのエジルさんが、ベスの元へと駆け寄っていた。
彼の右手には――槍。
「【水龍竜巻】‼」
槍の先端から水流が発生し、竜巻のように渦を巻く。
「ほう、ドラゴンの力か。だが所詮、トカゲじゃな」
対するベスは、右手に集めた魔力を変形させ――漆黒の大鎌を顕現させた。
「【黒の大鎌】」
大きく振りかぶった鎌が空間を裂き、水流を迎え撃つ。
一瞬の内に黒い魔力が竜巻を飲み込み、ギルドの床板ごと消滅させた。
「っ⁉ こんなガキの魔法に、俺の魔法が負けるわけがねえ!」
「ガキはお前らじゃと言っておろうに……じゃが、やはり冒険者はこうでなくてはの。血気盛んなくらいで丁度いいわい」
「ドラゴンの力を舐めんじゃねえぞ! 【水龍息吹】!」
エジルさんの左手に水流が集まり、ドラゴンの頭部を形成する。
その頭は大きく口を開け、青色の波動を放った。
ドラゴンの最大火力と言われるブレス……それを模した竜魔法は、絶大な威力を誇るだろう。
「通り一遍の攻撃は、儂には通用せんぞ」
だが、ベスはその魔法に対して顔色一つ変えることなく、鎌を振るった。真っ二つに裂けたブレスはコントロールを失い、ギルドの壁面を破壊する。
無残にも弾けた自身の魔法を見て、エジルさんは愕然とした。
「ば、馬鹿な……俺の竜魔法を、そんな簡単に……」
「どうした? 最強などと嘯いておったが、この程度で終わりか?」
「くっ……」
ベスを取り囲んでいた男たちは、無意識からかじりじりと後方に下がり出している……もう充分、目の前の少女が只者ではないことを理解したのだろう。
「なんじゃ、もう少し骨のある奴らじゃと思ったが、儂の勘違いだったようじゃな……それよりお主、いつまで監査とかいうもんに時間かけとるんじゃ。そんなにややこしいことなのか」
「ややこしいって言うなら、この状況の方がよっぽどだけどな」
しかし困った。
今の戦闘で、ギルドの入り口付近が大分ボロボロになってしまっている……何とか穏便に済ませたいけれど、上手くいくかどうか――
「何の騒ぎだ、エジル」
ぶち抜かれてしまった壁の向こうから、いかにも漢といった渋い声が聞こえてきた。
そこには、金髪を後ろに流した筋骨隆々の大男が立っている。
柄の悪い「竜の闘魂」のメンバーの中でも、群を抜いて威圧的な外見……その風格からは、内に秘めた絶対的な力と自身が滲み出ていた。
彼こそ、「竜の闘魂」のナンバーツー。
サブマスターのジンダイさんだ。
「ジ、ジンダイの兄貴!」
「……どうやら部外者がいるようだな」
彼は壁に開いた穴からギルド内に入り、部外者である僕を睨みつける。
「そこの小僧はあの時の役人か……だったら」
僕のことを人畜無害のヘタレであると判断したジンダイさんは、ゆっくりと首を回し。
ベスを、視界に捉えた。
「お前がやったのか、小娘」
「こりゃまた随分とでかい人間じゃのー。何食ったらそんなに巨大になるんじゃ?」
「その余裕……どうやら、痛い目を見たいらしいな」
「おうおう、是非見せてくれ。お前はそこら辺におる輩より骨がありそうじゃ……物理的にも、骨太そうじゃしの」
この期に及んで喧嘩を売り続けるベスだったが……しかし。
彼女の不遜な態度を受け、ジンダイさんはにやりと笑う。
「……面白い小娘だ。名を名乗れ」
「儂の名はエリザベス。お前のことを気に入ったら、ベスと呼ばせてやってもいい」
「俺は『竜の闘魂』のサブマスター、ジンダイだ。小娘、何故俺たちのギルドに喧嘩を売る」
「そこのつるっぱげが、このギルドが最強などとたわけたことを抜かしておったから、試させてもらったまでじゃ」
「……なるほど。ではエジルやみなのために、俺が証明してやろう」
言って。
ジンダイさんは、背中に背負った大剣を引き抜いた
「俺たち『竜の闘魂』は、最強のギルドだということをな!」




