竜の闘魂
徒歩で移動すること三時間。
「竜の闘魂」ソリア支部に辿り着いた。
ここは市街地からかなり距離がある。周りに森しかないような立地に支部を構えるところからも、このギルドの性格が窺い知れた。
表には改造されて威圧感マシマシの魔動四輪や魔動二輪が立ち並び、治安の悪さを隠そうともしない。
「かように外見を悪目立ちさせたがる輩は、どの時代にも一定数存在するようじゃな。儂からすれば、ままごとの延長のようで可愛くもあるが」
「冗談キツイぜ。僕は絶対に関わり合いたくない人種だよ、可愛いなんてとても思えない」
「にしても、随分でかい建物じゃの。これで本拠地ではなく支部だというのだから、今のギルドは相当金持ちのようじゃ」
「この支部だけで百人前後のメンバーがいるらしいしな……僕が前いたところよりも多いよ」
そりゃ、カイさんもギルドが力を持ちすぎることを危惧するわけだ。
「じゃあ僕は中に入るけど、ベスはこの後どうするんだ? さすがについてきてもらっちゃ困るんだけど」
「然らば、その辺をうろうろしておるわい。お主と行動を共にするかどうか……話の続きは、監査とかいうのが終わった後にしよう」
言って、ベスは森の奥へと消えていった。
行動を共にするか、ね。
彼女の言葉はつまり、僕とパーティーを組むということなのだろう。
だったら、後で正式に断りを入れなければならない……僕はこれから、監査係として安定した生活を手に入れようとしているのだから。
ダンジョンに潜ることは――もうない。
「すみませーん。監査にきました、クロス・レーバンと申します」
僕はギルドの入り口に構えられた重厚な扉を叩く。
数秒後、返事の代わりにゴゴッという音が響き、目の前の鉄扉が開いた。
「監査だぁ? 聞いてねえぞ、そんな話」
「毎月行っている定期監査ですから、安心してください」
訝し気な表情で出迎えてくれた男を華麗に躱し、僕はギルドの中へと入っていく。
一階は酒場のような造りになっており、昼間から大酒を飲んで騒ぐ屈強な男共で盛り上がっていた……僕が以前所属していた「隻眼の犬」というギルドも似たような感じだったので、冒険者と酒はセットみたいなものなのだろう。
「ああ? 誰だてめー?」
「おいおい役人様かよ。いつも来てる兄ちゃんより柔そうだな」
「監査監査って、俺たちゃ犯罪者か? 役人様に見張られるようなことはしねーよ」
初めて訪れる僕が物珍しいのか、それとも毎回こんな反応なのか……とにかく、受付に辿り着くまでひたすら絡まれ続けた。
だがこんなもの、C級モンスター・マンドラゴの絶叫に比べれば、全く騒々しくもない。
僕は余裕の笑みすら浮かべつつ、受付係に声を掛ける。
「すみません、定期監査にきましたクロス・レーバンです。確認書類を用意してもらってもいいでしょうか?」
「……」
だが、僕のにこやかスマイルとは対照的に、受付の女性は無表情だった。
まあ、ギルドからしたら僕はただの厄介者で、一刻も早く出ていってもらいたいのだろうけれど……それは僕だって同じ気持ちだ。
あんまり、長居はしたくない。
「……」
「あ、どうもありがとうございます」
数分後、裏にいっていた受付嬢が書類を持って戻ってきた。
愛想悪く投げつけられた紙の束を綺麗に整え、チェック項目に沿って確認作業をする。
……えーっと、依頼の数と報酬金の整合性、所属メンバーの健康診断表、ギルド内部の衛生環境、エトセトラ……うん、めちゃめちゃ時間がかかる。
本来は二人がかりでやる仕事だし、気合を入れないと日が暮れてしまいそうだ。
「あっ、お前、この前の役人じゃねえかよ」
集中して書類とにらめっこを始めた僕の背後から、誰かが話しかけてくる。
振り返ると――見覚えのあるスキンヘッドの男が立っていた。
「あなたは……えっと、誰でしたっけ?」
「ああ? 俺は泣く子も黙る『竜の闘魂』の一番槍、エジルだ! 忘れてんじゃねえよ、こんちくしょうが!」
「いやあの、初めて会った時名前を聞いてなかったので……」
「そうだったっけか? それはすまねえ」
謝られた。
見た目の派手さに反して、意外と礼儀正しい人なのかもしれない……いや、そんなこともないか。
このスキンヘッドは未踏ダンジョンの探索に赴いた「竜の闘魂」のメンバーの一人だったが……碌な探索もせず、早々にダンジョンから出ていってしまったのだ。
まあしかし、その適当な仕事は結果として功を奏したのだけれど。
喰魔のダンジョン。
あのダンジョンでは、同じ階層に冒険者が集まれば集まる程、不利な状況が生まれてしまう……その意味では、さっさと外に出てくれた彼らのお陰で、必要以上の苦戦を強いられずに済んだとも言えるのだ。
結果論だけど。
「つーかよお、この前のダンジョンで『天使の涙』の勇者がボコボコにされたんだって? A級を攻略できる実力もねえのに高位役職持ちったあ、ムカつくぜ」
エジルさんはそんな風に悪態をつく。
彼は喰魔のダンジョンをA級だと勘違いしているので仕方がないが、しかし内心イラっとしてしまった。
僕がイラつく理由も、ないはずなのだけれど。
「ま、次の探索からはあんな軟弱な天使どもを使わないで、『竜の闘魂』に任せとけばいいんだよ。よええ奴らにダンジョンをうろつかれると、迷惑だからな」
「……はは、そうですね」
乾いた笑いを返しながら、僕は淡々と作業を進める。
ここで何か言い返しても、いいことなんて一つもない……シリーが馬鹿にされたって、仲間でない僕には関係ないことなんだから。
「心配しなくても、『竜の闘魂』がこの国のダンジョンを攻略しつくしてやるさ。何せ俺たちは、最強のギルドなんだからな!」
エジルさんは声を張り上げ、それに同調した酒場の男たちがジョッキを高々と持ち上げる。
「『竜の闘魂』こそ最強! 俺たちに敵はいねえ!」
「最強じゃと? 片腹痛いわ、小僧ども」
ピタッと、空気が凍る。
みなが目をやった先は――ギルドの入り口。
重厚な鉄扉の前に立っている、一人の少女。
「この扉、どう考えても重すぎじゃろうが……全く、近頃の若者は配慮ってもんを知らんようじゃな」
どうやら、彼女は宣言通り。
このギルドに、喧嘩を吹っ掛けたらしい。




