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矛盾



「じゃから、急に訪ねたのは悪かったと謝っておるじゃろうが。そう拗ねるな」



 エリザベスことベスが、僕の部屋に押しかけてきた翌日。


 僕は監査係として仕事をするため、正規ギルド「竜の闘魂(ドラゴンガッツ)」のソリア支部を目指して歩いていた。


 本当は部署の先輩と二人で行く予定だったのだが、急遽予定が入ったとのことで一人での出張になる……初めてで慣れないことばかりだが、ダンジョンに潜ることを考えれば何倍もマシだろう。



「おい、いつまで無視するつもりじゃ。いい加減儂の話を聞かんか、たわけ」



 にしても、「竜の闘魂」か……一昨日の未踏ダンジョンの探索では、あそこのサブマスターは適当な仕事をして早々に帰ってしまったし、正直いい印象はない。


 まあそういう私情は抜きにして、決められた通りに監査をしよう。



「ふん、そっちがその気なら、儂にも考えがあるぞ。そうじゃな……まずはお主がこれから向かうというギルドに魔法をぶち込んで、戦争でも仕掛けるとするか」



「物騒なこと言ってんじゃねえ」



 ずっとベスを無視し続けていたら、とんでもないことを言い始めた。


 彼女の力ならそのとんでもないことを普通にやってのけそうなので、仕方なく話しかけることにする。



「やっと反応したか。全く、子ども染みた真似をする奴じゃの……まあ、儂からすれば人間など、全員赤子同然なのじゃが」



「千五百年生きてりゃそりゃそうだろうけどな……それだけ長生きしてるなら、一般常識も身につけていてほしいもんだぜ」



 他人の部屋に勝手に入らないとかな。


 他にもいろいろ非常識なことはあったが、ここでは割愛する。


 思い出したくない。



「昨日お主に対してやってしまった粗相については、だからこうして謝っておるじゃろうが。中々ないぞ、儂が謝るなんて。自分で言うのもなんじゃが、年齢の割に精神は成熟しておらんからの」



「本当に、自分で言うのもなんだな」



 それも自信たっぷりに言うことじゃねえ。



「これでも二百年封印されていて、いくらか丸くなったものなんじゃがな……当時を知る者が生きていない以上、証明のしようはないが。昔の儂なら、逆切れしてこの街ごと吹き飛ばしていたかもしれん」



「やってることが人類の敵過ぎるだろ」



 まあ、僕にも大人げなかったところはあるから、あまり強く非難はできないけれど。


 ただ、ダンジョン攻略から縁を切れたと安堵した矢先に、自分の部屋にベスがいた衝撃たるや……今思い出しても心臓に悪い。



「……昨日聞きそびれたけど、そもそもお前はどうして僕の部屋にいたんだ?」



「ん? 言わなかったか?」



「言ってた気もするけど、生憎昨日の僕は怒りと呆れで話を聞いてなかったみたいだ……そこは大人げなかったよ、ごめん」



「互いに謝ったということは、この件はこれで手打ちということじゃな……お主の元を訪ねた理由じゃが、二つある」



 ベスは僕の前方に回り込み、得意気に二本の指を立てる。



「一つは、単純に行く宛がなかったからじゃ。元々旅から旅への放浪家じゃったからの、目的がなければ行くところもない。二つ目は、これも単純にお主を気に入ってからじゃ」



「気に入った? 僕のことをか?」



「さよう。儂は人間のことを好いても嫌ってもおらんが、極たまに興味をそそられる者に出会うことがあるのじゃ。お主もその一人というわけじゃの」



「……さいですか」



 なんだろう、素直に喜んでいいのか判断がつかない。


 これがボンキュッボンのお姉さん相手だったら大手を振って喝采をあげるのだけれど……見た目十歳児の少女に言われても、あんまり嬉しくなかった。



「というわけで、しばらくお主について回ることにしたから、よろしくの」



「ちょっと待て。そこまではよろしく了承してない」



 どさくさに紛れて何を言っているんだ。


 僕からの否定の言葉を受け、ベスは心外とばかりに目を見開く。



「なんじゃって? お主今、儂についてくるなと言ったのか?」



「そうだよ。僕はこれから仕事があるんだ。申し訳ないけど、お前に構ってる暇はないんだよ」



「監査とかいうやつじゃろ? 儂もそんな退屈そうな仕事に興味などないわ……またぞろ未踏ダンジョンの探索に出向く時、一緒に潜ってやろうと、そう言っておるのじゃよ」



「……僕はもう、ダンジョンには潜らないよ」



 ベスには伝えていなかったが(その必要もないと思っていたし)、僕はこれから先の人生でダンジョンに足を踏み入れるつもりはない。


 その決意のためにも、監査係として使える人材だと証明しなければならないのだ。



「? お主、ダンジョン攻略をしないのか? 何故じゃ? 全くもって意味がわからん」



「何故って……元々僕は、危険とか冒険とか、そういう不安定なものが好きじゃないんだ。この前の探索で、それがよりはっきりしただけだよ」



「なーんか、わかるようでわからん話じゃのぉ……それを言うならお主、わざわざ危険を冒してまで裏切り者たちを助けに向かったのは、一体どうしてなんじゃ」



「それは……仕方ないだろ。僕が助けにいかなきゃいけない状況だったら、いくしかない」



 結果としてその行動が裏目に出たとは言え。

 誰かを助けるのに、僕個人の主義主張は関係ないはずだ。



「誰かのために動くことは大いに結構じゃが、お主の()()は、若干行き過ぎじゃとも思うがの……まあ、そこを気に入ったのじゃがな」



「……どういう意味だよ」



「自ら進んで破滅に向かう人間というのを、儂はごまんと見てきた。じゃからそのこと自体は特に目新しいものでもない……じゃが、お主の場合は違う。儂が見た破滅型の人間は、みな自分のために破滅を選んでおったが、お主は()()()()()()()()()()()()()()()()()



「……」



「本当は破滅などしたくないのに、人助けのためなら裸一貫で地獄の大穴に飛び込むような奴じゃぞ……これに興味を持たずして、誰に興味を持つというのじゃ」



 酷い言われようだが……確かに。


 僕の考えは、矛盾しているのかもしれない。


 一体僕は、いくつ矛盾を抱えている?



「お主はきっと、またダンジョンに潜ると確信しておる。そういう人間じゃ。誰かを救うためには、自分を破滅させなければ気が済まないのじゃ」



 ベスの言葉が。


 ヒヤリとしたナイフとなって、僕の心臓に添えられた。



「本当はお主、冒険に憧れとるんじゃないか?」



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