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再会



 とまあ、一応希望を伝えてみたものの、まさか了承されるだなんて思ってはいない。


 そもそも僕がソリアの公務員になれたのは、未踏ダンジョン探索係の人手が不足しているからだ……その他の部署は人材に困っておらず、僕が異動できる先などないはずである。


 そう思っていたのだが。



『異動? もちろん構わないよ。君はすこぶる有能であると今回証明してくれたことだし、私もできる限りのことはしよう』



 といった感じで、カイさんからまさかのオーケーが出たのだった。



『まあ私としては、このまま探索係として仕事をしてほしいのだがね。君の才能は冒険者として活かされるべきだよ』



 なんていう引き止めもあったけれど……僕はとりあえず、期限付きの仮異動をさせてもらえることになった。


 期間内にその部署で成果を出せれば、そのままそこで仕事をしていいそうだ。


 活躍できる自信はないけれど……しかしやる気を出すしかない。


 未踏ダンジョン探索係は、安定を望む僕にとって最悪の仕事である。


 カイさんは才能を活かせと言ってくれたけれど……無事に喰魔のダンジョンから抜け出せたのは、ベスがいたからだ。僕の力は関係ない。


 これからは自分の力量に見合った、分相応の仕事をしなければ……命がいくつあっても足りやしない。


 だからこそ、与えられたチャンスを最大限に活用しなければ。



「未踏ダンジョン探索係から期限付きで異動になりました、クロス・レーバンです。よろしくお願いします」



 僕は仮の異動先として、ギルド監査係を務めるようにと指示を受けた。


 早速新たな部署へと向かい、諸先輩方に向けて挨拶をする……いかにも役人といった感じの皆々様が白けた拍手をしてくださり、歓迎されていないことだけは伝わってきた。


 急遽用意してもらった机に座り、この仕事をする上での諸注意を受ける。僕の指導を担当してくれる先輩は早口で一日の指示を出し、そそくさと自分の持ち場へと戻っていった。



「……」



 歓迎されていない、と言うか、僕のことなんて眼中にないみたいだ。


 良い意味でも悪い意味でも、同僚の仕事に興味がないのだろう……自分に与えられた業務を、淡々とこなしていくだけ。


 ダンジョンを攻略するために作戦を練ることも、モンスターに合わせて装備を変えることも、パーティーメンバーとの連携を磨くこともない。


 変わらない景色、変わらない仕事。


 安定した毎日。


 これこそ――僕の求めていたものだった。





 ギルド監査係としての初仕事を終え、僕は帰路についていた。


 仕事と言っても、初日の僕が任されたのは書類の確認やら他部署への連絡やら、誰でもできる簡単なものだったけれど。


 まあ、これからいろいろ覚えていけばいいさ。


 それに、早速明日は直接ギルドに出向いて仕事をするらしい……帳簿のチェックやギルドメンバーの管理体制チェックなど、あらかじめ決められた項目に沿って監査を行う。


 イレギュラーが起きることは早々ない、安定した業務だ。


 安定最高。


 僕は夕食の買い出しを済ませながら、街の中心部から外れたところにある安宿を目指す。職員用の宿舎の準備はまだできていないそうなので、しばらくはここが僕の根城になるようだ。


 寂れた玄関を通って誰もいない受付を抜け、ガタガタ軋む階段を上がる。


 決して綺麗とは言えないけれど、雨風が凌げればそれで充分だ。もう少ししたら、設備のしっかりした宿舎に引っ越せるしな。


そんなことを思いながら、建付けの悪い部屋の扉を開けると――




「おや、大分早い帰宅じゃな。今日は未踏ダンジョン探索とかいう酔狂な仕事をしてこなかったのか?」




 扉を閉めた。


 ……気のせいか、部屋の中に十歳児くらいのエルフの少女がいたようだが、そんなわけはない。


 僕は深呼吸をして、再びドアを開ける。



「すまぬが、先に風呂に浸からせてもらったぞ。いやあ、儂の封印されとった二百年の間に、随分と便利な魔法が開発されたようじゃな……一瞬で湯が沸くとは、単純なようでいて奥が深い。儂がやろうとすれば、この宿ごと吹き飛ばしてしまうじゃろうしな」



 扉を閉めた。


 うん、明らかに湯上りであろう紅潮した頬と濡れた紫の髪が見えたが……やっぱり気のせいだ。



「おい、いい加減部屋に入ってきたらどうじゃ。ここはお主の寝床じゃろうが」



 ドアの向こうから幼い少女の声が聞こえる。


 どうやら、間違いないようだ。


 僕の泊まっている安宿に、エリザベスがやってきている。


 もちろん無断で。


 今一度深呼吸をして、僕は部屋に入る。



「少し狭いが、二人で寝る分には困らんじゃろう……儂はこの通り、ミニサイズじゃしの。しっかし、殺風景な部屋じゃのー。これでは人間の女にモテんのではないか?」



 勝手に上がり込んでおいて勝手な言い草だが、それよりも何よりも重要な点が一つあった。



「……お前はとりあえず、服を着ろ」



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