旅立ち 001
お世話になります、いとうヒンジです。長編の四作目になります。
会話劇×ダンジョンを軸にし、コメディ要素も含まれているので、是非気軽にお楽しみください。
よしなに。
幼馴染が勇者になって帰ってきた。
そんな抜かす腰が行方不明になるくらいのビッグニュースが僕の耳に届いたのは、今から一時間前のことである。
シリー・ハート。
僕ことクロス・レーバンの唯一の幼馴染であり。
寂れた故郷の村を飛び出して、王都ランダルを目指して旅に出た少女。
冒険心と野心に溢れた僕の幼馴染が、六年越しに帰郷してきたらしい。
勇者になって。
「久しぶり、クロス」
ぼろ屋の戸を勢いよく開け放ったシリーは、仰々しい白銀の鎧を身に纏い、昔と変わらない意地の悪い緋色の目を輝かせて言った。
「私のパーティーに入りなさい。あんたみたいな陰気な奴でも、少しは役に立つでしょ」
そう――昔から。
シリーは僕のことが嫌いで。
僕も彼女のことを、そんなに好きじゃなかった。
◇
勇者パーティーの一員になって三カ月が経った。
これまでにC級ダンジョンを三つ攻略してきたけれど、恥ずかしい話、僕はほとんど毎回死にかけている。
戦ったモンスターはD級やC級ばかりなのに、こうも後れを取るなんて……自分事ながら情けない。
パーティーに前衛職が僕一人しかいないというのも関係しているのだろうが、そんな言い訳を聞き入れてくれる程、仲間たちは甘くなかった。
幼馴染の勇者――シリー・ハート。
白魔術師――メリル・ウィッド。
黒魔術師――レイナ・ショーン。
爆撃師――アンガス・ルデラ。
戦闘で目立った活躍をしない僕を、彼女たちは笑い者にする。
……愚痴っぽくなってしまったけれど、それを誰かに漏らしてはいない。
最低限生きるのに困らないだけの給金は貰っているし、変に波風を立てるよりも、大人しくこの環境に身を置こうと決めたのだ。
そんな事なかれ主義な僕を見て――シリーは言う。
「昔からそうよね、クロスって。まあ、いいけど」
その言葉が胸をチクリと刺す。
やっぱり、彼女は僕のことが嫌いで。
僕も彼女が嫌いなのだろう。