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竜に好かれる私と、竜なあなた  作者: おぎしみいこ
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9.職員宿舎

ルウは新たにできた研究職として採用されることになった。

王城から採用通知が届き、南町の皆に今までのお礼と王都へ行くことを告げる。皆からは心配されたり喜んでもらえたり、それぞれに様々な反応だったが、おおむね「ガイナがよく許したな」というところだった。先日は国王に対してあれほどの騒ぎを見せた町の住人だったが、本人が望んでいるならばと快く送り出してくれた。


結局宿屋の部屋は片付けることになった。宿屋の主人が「泊まりたければいつでも部屋をなんとかしてやるぜ!」と言ってくれたからだ。5年住んでいたガイナの隣部屋を出るのはとても寂しかった。だがそれ以上に、王都で頑張りなさいと自分を励ましてくれるガイナを心配させたくなかった。姉離れができないとガイナも心配で嫁にいけないだろう。


「辛くなったらいつでも戻ってらっしゃい。無理しないのよ。少しでも1人で暮らして違う世界で働いてみるという経験が大事なんだから。それを達成したらいつでも帰ってきていいんだからね!」


そのようなことなら1日で達成だ。それがガイナの優しさだと実感する。

そして馬車に乗って旅立つ時にはルウ以上に大泣きしていた。ヴィルも馬車を待つ間、言葉はなかったけれどずっとルウの頭をなぜていた。


「皆、ありがとうございました!がんばってきます!」

「がんばれよー」

「辛くなったらすぐ帰って来いよ!」

「ガイナに連絡してやれよー」


仲良かった皆に見送られ、王都へと発った。


王都では王城近くの宿舎に住むことになっていた。手紙に添えられた地図に従って宿舎へと行く。各部屋それほど広くはないようだったが、寝具や机、書棚などは作り付けで付いていると書いてあった。そのため荷物として手に持っているのは服や日用品の入った鞄2つだけだった。それ以外は魔法収納に入れてある。普段の冒険では荷物は全て魔法収納に入れていたため、手に荷物を持つのは久しぶりだった。

王都では魔法を使わず、秘密を抱えて1人で生きていかねばならない。魔法収納を使わず鞄を持っているのは、人と同じようにして目立たないようにするためだった。


「新しい研究員さんね!ようこそ職員宿舎へ。私はここの宿舎長のサラです。宿舎長といってもすることは料理に洗濯、掃除といった家政婦と同じです。職員の相談にも乗ったりもしてるし、困ったことがあったらすぐに言ってちょうだいね」


いかにも肝っ玉母さんという人が出てきて、時季外れな新人を温かく出迎えてくれた。

部屋に案内してもらうと1人部屋だった。王城職員は勤務が不規則なことも多く、数年前から全員個室になったようだ。

秘密の多いルウとしては助かった。

なにせいくら男性の姿をしていると言えど、元々は女性だ。ガイナと一緒にいたため野宿などで男性の裸などを見るのは慣れたが、それでもできたら1人部屋がいいと思っていた。


ただ風呂が共同だった。自分の姿は周囲が見たら男性なので、見られて困ることはない。初めはそれでも見られることに抵抗があったが、今では堂々としていられるようになった。しかし見る方には耐性はできたとはいえ、できれば見たくないと思っている。男性も元女性に裸をあまり見られたくないだろう。

困ったことになったと思い風呂場をのぞいてみる。使われていない今は乾かすために開け放たれていたからだ。幸いなことに手前にいくつか囲われた場所があり、簡易で湯を浴びられるようになっていた。これならあまり人の裸を見ることなく身を清められる。


素晴らしいと思い上機嫌でそのまま探索していると、食堂では今日が休みだっただろう住人に会った。使われていない時間だったけど、天窓から光が入ってきてとても明るいところだった。その隅の机に1人、ぼさぼさっとした男性がいた。


「見慣れない顔だね。新人さん?」

「はい。明日から王城で研究員になるルウと申します。よろしくお願いします」


40代半ばくらいの、やや顔色の悪い眼鏡のおじさんだった。ルウにも自分と同じようにお茶を淹れてくれて、やり方を教えてくれた。


「僕はグラン。奇遇だね!僕も研究員なんだ。もともとは図書館司書だったんだけど、研究でほぼ王城にいなかったら怒られてしまってね。僕も明日から研究員という肩書になるんだよ」

「そうなのですね!よろしくお願いします。ちなみにどんな研究をされているのですか?」

「僕は歴史の研究だよ。あちこちの遺跡に行って掘り起こしたりしてる」

「遺跡は多いのですか?」

「僕が携わっているのは8か所かな。竜が生息した時代の遺跡が中心。最近は新しいのが見つからなくてあちこち探しに行ってたら、図書館の管理がずさんだと怒られたんだよ。でも僕みたいな外の遺跡研究をする人間に王城の図書館管理なんて無理だったから、研究職ができて本当に良かったと思ってる」


グランは持ってきていた菓子を出し、分けてくれた。


「でもこの司書と研究員に選別されるときに試験があって、皆研究発表を国王陛下の前でさせられた。かなり評価が厳しくてだいぶ解雇されたんだ。それなのに君みたいに新人が来るなんて思わなかったよ。新しい風が入るのは研究にとって望ましいから、歓迎するよ!君はどんな研究をする予定なのかな」

「私は冬の大地について研究しようと思っています。どうしてあの地域だけ常に冬なのか、原因がわかれば解決もできるのではないかと思いまして」


本当のことは話せないが嘘ではない。

だが冬の大地と聞いてグランの表情が輝く。


「いいね!冬の大地。あそこは古の文明が栄えたところだって言われているんだよ!もしも雪が解けるようなことになれば、僕はきっと一生冬の大地で地面を掘り起こして暮らすんだと思う」

「そうなのですか?知りませんでした。古ってどれくらい昔なのですか」

「それこそあちこちに竜の生息していた時代だよ!その時はまだ、人と竜が共存していて、妖精だっていたそうだよ。大きな城があって、緑にあふれた地域だったらしいよ」

「さすが王城の研究員さんですね。全然知りませんでした。私もしっかり研究していきたいです!そういった情報は王城の図書室にある本や資料に書いてあったのですか?」

「うん。明日よかったら図書室を案内しようか?僕もほとんど王城にはいないんだけど、さすがに明日は研究員の任命式があるから出なきゃならなくて戻ってきたんだ。その任命式の後でいくつかお勧めの本を教えてあげるよ」

「ありがとうございます!」


礼を言って別れる。王都へ来てさっそく研究仲間になれそうな人と出会えた。ガイナに手紙で報告できると思い、上機嫌で部屋に戻る。


だが。

自分の部屋なのに客がいた。


「思ったより狭いな」

「なぜここにアークがいるんですか?!」

「呼び寄せた友人を心配してきてやったというのに第一声がそれか。もっと気の利いたことでも言えないと人の中で働くのは大変だぞ」

「いえ、私は部屋の鍵をかけて出ていたのに…」

「窓が開いていたからな」

「窓?!ここは2階ですよ?登ってきたんですか」

「言ってなかったか?俺は魔法で狼になれる。これくらいの高さならば軽く登れるな。まああまり人には言っていないから口外はしてくれるな」

「はい…」


ルウはぽんぽんと頭を軽くたたかれ、椅子を勧められる。アークはどさっと寝具に腰かけている。

一体誰がこの部屋の主なんだかと不思議に思う。


「この寝具も硬いな。こんなので寝られるのか?」

「宿にあった物よりは硬めですが、十分寝られます。野営をするときは基本的に土の上なので、それよりかなり寝心地はよいかと…」

「ふうん、野営はきついか?俺は軍で指導を受けていたが、野営の訓練には参加したことがないんだ。戦いの時も叔父上が指揮を執っており、俺はこの国の管理の方に回されていたからな」

「楽しいですよ!天幕を張って、焚火を起こし、夕食の準備をするのです。安全な地域なら料理も少し凝ったものにする余裕があったり、暖かい気候なら川や湖で水浴びをしたり…」

「楽しそうだな。俺もしてみたい」

「え?お時間があるならお連れするのは吝かではありませんが、でもお忙しいでしょう?また宰相閣下に怒られてしまいますよ?」

「う、そうだが…3日くらいあれば楽しめるものか?」

「行く場所によると思いますが、野営を実感するだけであれば可能です」

「おまえのおすすめの場所はあるのか?」

「私は冬の大地に行きたいですね。この季節だとまだ寒いですが、雪の降る日は減ってくる時期なので」

「はあ?!こんな時期に冬の大地に行ったら凍死するんじゃないのか」

「まあだいぶ防寒に力を入れないといけませんが」


いつもはアークと話す時にガイナもいた。その1人が欠けただけで、ルウは少し寂しく感じる。


「まあ、明日からがんばれよ。どうせ無理ならすぐ帰ってこいとか言われてるんだろう?」


そこは笑ってごまかす。さすがに成人男性が“姉”の話ばかりしていてもだめだろう。こういった時、女性なら寂しがっても許されるのだろうか。

帰るというから、窓から狼になって帰るのかと思いルウがワクワクしながらアークを見る。


「帰りはそのまま帰るから心配するな」


からかうように笑って、茶色のかつらをかぶりながら扉から出ていった。


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