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竜に好かれる私と、竜なあなた  作者: おぎしみいこ
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7.食事会

「今日、2人は夕食をどこで食べるんだ?」

「「!!」」


ルウとガイナが振り向くと、そこには茶色のかつらをかぶったと思しき、この国の王がいた。

ガイナも気配を感じられなかったらしく、背後を取られたこととその相手に相当驚いている。ルウは言わずもがなである。


「…今日は“牛の煮込み亭”です」

「なにしゃべっちゃってるのよー!」

「よし、じゃあ行くか…俺のことはアークと呼べ。とりあえず今は一般市民だ」


そう言ってアークはルウの横に立って歩こうとする。ガイナがルウの腕を引っ張り、アークとルウの間に自分が入る。ルウは驚き過ぎて歩き方が変になっている。


「なぜあなたが?まさか1人?」

「護衛は巻いてきた」

「はあ?!じゃあ何かあったらあたしが1人でどうにかしなきゃならないじゃない」

「一応俺も剣は使える。それほど弱くもないと思うが」

「身分が身分でしょう?襲撃があったら戦っていないでさっさと逃げなさいよ」

「女こどもを置いて逃げるのか?無理だな」

「子供じゃありません」

「いやいやいや、問題はそこじゃないし!」


周囲に聞こえないようにひそひそと話してはいるが、ガイナは今にも爆発しそうだ。

ばれないかドキドキしながら店に入る。夕食時であり中は混んでいたが、辛うじて席は空いていた。


「よう、ガイナ!またいい男捕まえたな!」

「で、でしょう?!」


酔っぱらった冒険者仲間にいつも通りの返答を返すも、声は裏返っていた。

幸いなことに、誰にも同席しているのが国王だとはばれなかったようだ。


「…で、どうしてここに?」

「こいつに興味があったからだ」

「…なぜ?」

「いやむしろ、なぜ町の者といい、こいつをそれほど庇う?何かあるのかと思うだろう」

「ちっ」


ガイナが苦虫を潰したような顔をする。


「興味をひかれたのは、髪の色ですか?」


緊張した面持ちでルウが口を開く。


「いや、おまえから何かを感じたというか…ひょっとしておまえ、国王就任の時の祝賀行列を見に来ていたか?」

「え?はい。見ていました」

「大きな煉瓦作りのパン屋があるあたりか?」


横にいるガイナに緊張が走り、正面に座るアークからルウを守るように動く。


「なぜそれを?」

「…いちいちそう警戒するな。俺はおまえたちを傷つけるつもりはない」


店員が料理を持ってきたために一旦警戒は解かれた。注文した品が机に並べられる。


「では再会を祝して」

「望んでないけど」

「はい、乾杯」


悪びれないアークに呆れるガイナ、危害を加えられるわけではなさそうと思い少し安心したルウで乾杯をして杯をあおる。


「あの、失礼ですが毒見は必要ないのですか?もう杯を空けてしまったようですが…」


慌てた様子でルウが問うと、「必要ない」とアークは素っ気ない態度だ。本人がいいと言うならそうなのだろうと、ルウはあっさりと引き下がる。


「で、一体ルウから何を感じたのよ?」

「わからない。だから気になって調べに来た」

「自ら来る必要なんてないでしょ?なんで部下じゃなくて本人が来るのよ」

「自分の感覚を説明できないからと、他の者に口外すべきかどうかを迷ったからだ」

「…ふうん、まああまりルウのことで騒がれたくないから、たくさんの騎士や文官が来るよりはいいのかもしれないけど」

「そう、なぜおまえたちはルウの存在を隠そうとする?こいつは何か訳あり者か?」

「私は悪いことはしていません!」

「あんたは黙って食べてなさい。…別に隠しているわけじゃないわ。静かな生活を送らせたいだけ。この見目だから放っておいたら女子どもが群がるし、人さらいも来る。だから目立たないようにさせてるけど」


余計なことを話しそうなルウの口に骨付き肉を突っ込み、ガイナが話す。


「まあ目立つ容姿だな」

「あなたもそれで寄ってきたのだと思ったけど」

「声をかけた時、こいつは顔を伏せていたぞ。せいぜいわかったのは髪の色くらいだ。顔を上げた時には目を引く容姿だなとは思ったが」

「失礼ですが、あなた男色の気は?」

「…おまえに言われるとなんかむかつくな」

「失礼な男ね!」

「わからない」

「はあ?!」


平然と答えた男にガイナがブチ切れそうになる。その口に先ほどの仕返しとばかりにルウが骨付き肉を突っ込んだ。


「あまり大きな声を出さない方がいいと思います」

「…あんた何落ち着いてんのよ。男に好きと言われて嬉しいの?ってあたしが言うのも変だけど」

「誰も好きだとは言っていない」

「うるさいわね。ルウに聞いてんの」

「その、男性であっても女性であっても、私は誰とも結婚する気がないのですみません」

「いや、結婚の話とかしてない」

「ルウに聞いてるんだからあんたは黙ってて」


誰にしても付き合う気はないのだと言い残して、面倒になったのかルウは手洗いへと逃げた。


「…ふう、で、男色の気はあるのね」

「いや、これまでそう思ったことは一切ない。ただ一緒にいようと思う女はいなかった。だからと言って男にそれを求めてはいなかった」

「なんで過去形なのよ」

「わからない。あいつの側は居心地がいい。それがなぜかはわからないし、多少離れていても感じ取れる何かがある。だからと言って急に男と結ばれたいとかそういうのではない。だがこの誘因力がなにかは知りたいところだ。で、どうしてあいつを必要以上に匿うのかについてだが」

「…しつこいわね。まあいいわ。あの子、多分戦争孤児なんだと思う」

「なんだそのあいまいな言い方は」

「本人の記憶がないのよ。気づいたらこの町に来ていたみたい。たまたまその時にあたしが見かけて、そのまま面倒見てるの。多分辛いことがあって記憶をなくしたんじゃないかって勝手に思ってる。だから町の皆もこれ以上ルウを辛い目に遭わせないようにって気遣ってる」


緑の国の住人じゃないかということは伏せておく。


「この町に来たのはいつの話だ」

「6-7年前かしら」


実際より少し前を伝える。そうすれば緑の国との戦いではなく、この国と神聖王国が戦っていた、その時の戦争孤児ということになる。


「そうか…皆に慕われているんだな」

「性根がまっすぐないい子だから。そんな状況なのに泣きごと1つ言ったことがない。いつも笑って人の事ばかり気遣ってるわ」


自慢の弟分なのだという雰囲気がにじみ出ている。

酔っぱらった冒険者たちに声をかけられながら、ルウが戻ってきた。


「で、そろそろ食事も終わったからあたしたちは宿に戻ろうと思うけど」

「俺も帰らないとな」

「王都に?」

「もちろん。俺はこっちに泊ってもいいが、そうすると弟が怒るな」

「当たり前でしょ!1人で大丈夫なの?」

「町の前には護衛付きの馬車がいるから大丈夫だろ」

「護衛は一応いたのね」

「1人で遠出とか、あまり無茶すると弟に監禁されそうだからな」

「いやいやいや、1人で町で食事するとかもだいぶ無茶なことじゃないの?!」


面倒見のいいガイナは、もし国王が1人でこの町に来ていたのなら王都まで送っていくべきか迷っていた。だが話からすると国王も抜け出し慣れているようだ。弟の宰相閣下の許せる範囲内で自由にしているのだろう。本人はもっと自由な気質のようだが。


「じゃあまたな」

「また来るつもりなの?!」

「もちろんだ。ルウは嫌か?」

「私はガイナが楽しそうだから構いません」

「あたし楽しそうなの?」


ルウはガイナがこんなに打ち解けて話せる人だから、きっと大丈夫なのだろうと安心しきっている。


「じゃあ門まで送っていきますね」

「いや、女こどもは寝る時間だろう」

「私は成人しています!」

「もう、いいからさっさと門まで行くわよ!」


傍から見ると、姉が弟2人の面倒を見ているように見える。


「護衛はどこよ」

「あれだな」

「馬車に乗るところまでは見届けるわ。さっさと行ってちょうだい」

「気をつけてくださいね。夜は魔物も多いので」

「ああ」


去り際にルウの頭をなぜる。すぐにガイナがルウの腕を引き、アークから引き離す。

ガイナにぐいぐいと押されてアークは去っていき、問題なく馬車に乗った。


「ガイナ、結構不敬なことを言っていましたけど大丈夫でしょうか」

「これで不敬罪に問われるならさっさとこんな国、見切りをつけて出ていってやるわ」


その時はあんたもよ、と言ったガイナの言葉に、ルウはいつも通りの安心感を覚えた。


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