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竜に好かれる私と、竜なあなた  作者: おぎしみいこ
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5.国王との出会い

よろしくお願いいたします。

「今日は夕食どうする?」

「そうですね。今日は煮込み料理が食べたい気分です。ガイナは?」

「乗った!じゃあ“牛の煮込み亭”ね!」


依頼を達成し、南町に帰ってきた。あとは冒険者機関に素材を持っていき、報酬をもらうだけだ。もう陽もだいぶ暮れたから、国王陛下の視察も終わっているだろう。

そう思って近くまで来ると、近衛兵が、機関の前にいることに気づいた。煌びやかな馬車も停まっている。どうやら今視察の最中のようだった。


「素材を持っていくのは明日にしましょうか。魔法収納に入れてあるので傷むこともありませんし」

「そうね。今行っても相手にしてもらう余裕はないでしょうし」


そう話して2人で踵を返そうとした時、扉が開かれ中から国王陛下御一行が現れた。

慌てて2人とも道の端へ寄り、跪いた。周囲の者たちも一斉に跪く。こうなるともう、国王陛下が去るまでは誰も動けない。

視線は伏せたまま、気配から国王陛下が馬車に向かって歩いているのを感じながら皆じっとしている。

そんな中、いつまでたっても陛下が馬車に乗る気配がない。何か不手際でもあったのだろうか。

そんな中、男性の声が響く。


「そこの銀の髪の者」


皆が凍り付いた。

銀の髪は珍しい。似たような白髪や薄い金もいたが、遠目から見てもわかるほどの銀色は、この南町でルウしか思い当たらないほどだ。

緑の国の住民だとわかってしまったのかと、跪いている町の住人たちが冷や汗をかく。同様に冒険者機関の中にいる冒険者や職員も動揺していた。少し離れた所にいて跪いていなかった住人たちは、慌てたようにあちこち駆け出す。


「近くへ」


しん、と静まり返った中、同じ男性の声が響く。

ガイナが剣に手をかけようとしたのがわかったのか、何人かの近衛兵が柄に手をかける。

「私は大丈夫だから」と声をかけガイナを止める。そして立ち上がって命令通り、ルウは陛下に近づいた。

陛下と目が合う。

ルウに声をかけた新しい国王陛下は、黒髪に黒い瞳だった。年頃は20代半ばくらいだろうか。若いという印象だった。横にはよく似た男性がいる。こちらは第4王子の宰相閣下だろう。表情を見ると少し焦っているようにも見える。この行いは陛下の独断によるものなのだろう。

適度な距離まで近づき、もう一度跪く。


「そなた、名前は」

「ルウと申します、陛下」

「そなたはこの冒険者機関の冒険者か」

「はい」

「年はいくつだ。かなり年少に見えるが」

「18になりました」

「18?もう少し幼く見えるが。ひょっとしてそなたがこの冒険者機関の最年少登録を行った者か」

「登録した時にはそのように伺いました。現在ではわかりません」

「そうか。魔物の討伐も行うのだろう。その細い腕でも倒せるのか」


国王の質問が続き、ルウが緊張した面持ちで答える。ルウにしたら、この国王の父親が自分を捕らえて引き出せと言ってきた張本人である。緊張しないわけがなかった。緑の国の住人だとばれたら、竜の導き手だと疑われるに違いない。

そしてこのまま質問が続けばいずれ素性についても問われるのではないか。長く続く問答に、ルウも周囲も緊張が強くなる。

周囲は周囲でルウを緑の国の住人だと憶測はしていたが、今まで誰も口にはしなかった。それはこの、人のいい少年が自分の意に反して人に利用されるというのを我慢できないからだった。国王など権力のある人間がルウを利用することで、自分の祖国を攻撃させたり、この国の住民を恐怖政治で抑えたりなど、ルウが望まないことを行う可能性があった。誰しもがそこまで考えたわけではなかったが、国王という権力者にルウを無理やり連れ去られるのはだめだと感じていた。

ガイナもいざとなったら近衛兵を足止めしてルウを逃がそうと考えた。数人の冒険者も同様に考えたようだ。目配せをしあう。


「国王陛下は見目の良いこの少年だけをひいきにするつもりですか!」


鋭い女性の声が響いた。


「もしや気に入ったから連れていこうなどと思っておられるのではないでしょうか!」

「そ、そうだそうだ!」

「男女関係なくお連れになるおつもりですか!」

「その子は男娼じゃないぞ!」

「その子を連れ去るつもりか!」


口々に周囲の者が叫び始めた。ルウに危害を加えられると考えた町の者たちが、あちこちに走って住人たちを呼び集めていた。次々に住民たちが押し寄せ、勢いに乗り口々に叫び始めた。


「皆、静まれ!不敬だぞ!」


宰相閣下が叫ぶが、高圧的な態度は火に油を注いだだけのようだった。


「その子の了解もなくひいきにして連れていこうと言うなら、俺たちも黙っちゃいられないな」

「不敬というなら捕まえてみろ!逆にのしてやる!」


腕に自信のある冒険者たちも口々に叫び始める。

その様子を興味深げに見ていた国王陛下は、さっと手を挙げ「静まれ!」と大きな声をあげた。

さすが国王陛下である。大騒ぎしていた町の住民たちも冒険者も、一瞬にして固まる。


「ひいきをしたつもりはない。ただ冒険者の話を聞きたかっただけだ…」


切なそうにルウを見る。


「戻る」


そう言ってさっとマントを翻し、馬車に乗ってしまった。

一斉に近衛兵たちも引き上げていく。


「ルウ!」とガイナが駆け寄る。跪いたままだったルウを助け起こした。顔色が悪い。


「…驚きました」

「だろうね。あんた少し見た目が目立つからかしら。普通は国王陛下が下々の者にわざわざ声をかけたりなんてしないのに」


ヴィルも慌てて出てきた。中の冒険者たちもぞろぞろと出てくる。


「ルウ、大丈夫ですか?!なぜ国王陛下がルウに?」

「わからない。でも声のかけ方が“銀の髪の者”だったから、見た目だとは思うけど」

「ルウ、無事でよかったな!」

「ルウが連れていかれそうになったら俺たちも戦うつもりだったぜ!」

「私たちもよ!」


果物屋のおばさんやパン屋のおばさんたちも、手にほうきや麺棒を持って集まっていた。


「皆さん、ありがとうございました。おかげで無事です。ご心配おかけしました」


ルウも皆に声をかける。まだ顔色は悪いが徐々に戻ってきているようだ。

5年の間に築いた町の住人達とのきずなは、ルウが思うよりもずっと強固なものだった。皆に次々に頭や肩をポンポンされる。

皆とのきずなが嬉しくて視界が潤んだ。

ガイナが途切れない頭ポンポンに業を煮やし、「はーい、そこまで!ルウも疲れちゃったからもう連れて帰るわね!皆ありがとう!」と言ってその場からルウを連れ出す。


「はあ、疲れちゃったわね~。ご飯、どうしようか」

「今日はもう宿の食堂で食べましょうか。そのまますぐ休みたい気分です」

「そうよね。宿に戻ろうか」

「陛下はなぜ私に声をかけたのでしょうね。やはりこの髪の色でしょうか。こんなことなら染めておけばよかったですね…」


うつむいてとぼとぼと歩く。この髪は緑の国でも少数だった。他国ではなおさらだろう。この国に来てすぐに染めることを考えたが、ガイナやヴィルを始め他の住人たちがそのままでいいと言ってくれたのだ。堂々としていたらいい、やましいことなんて何もないのだから、と。

やましいことはなくても、亡命してきた身としては目立たない方がいいだろうとルウは思った。だがこの南町はどうやら昔から色々な人種が集まってくる町らしい。少し離れた隣の港町もそうだ。だからそういった個性をなくさせてしまうのは、町として許せないと考えるのだそうだ。

幸い自分ほどの銀の髪はわずかだったが、それに近い色合いの髪の者はいた。たいして手入れもしなければ色もくすんで目立たなくなるだろうとも思い、そのままにしたのだ。


「もう気にしないの。終わったことなんだから。この町の視察も今日で終わりらしいし、明日には王都に帰っちゃうんだからもう会うこともないでしょ」


ガイナはそう言ってルウの頭をわしゃわしゃっとなぜる。少し目は潤んだが、ガイナの言う通りだ。もう会うこともないだろう。

もしまたこのようなことがあったら。

皆に迷惑をかける前に自分で遠くに逃げよう。港町から他国へ渡ろう。この大陸にある神聖王国は元凶となった国王がいるから行けない。その東の東神聖王国も傀儡だろう。それならば自分の行くところは他の大陸だ。すぐ近くの大陸には国がないと聞いた。だから貿易や冒険者はさらにその向こうの大陸まで行くと言う。

そうなるともう二度と両親に会うことも叶わないだろう。

それでも。

自分がいるだけで自分の大切な人に迷惑をかけたくない。

それは緑の国でも、この町でも。

長旅の準備を密かにしないと、とルウは思った。


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