3.ルウの事情
本日3話目の投稿です。
皆の憶測の通り、ルウは緑の国の住人であった。
皆が思うのと違うのは、本人に記憶があるということだ。
ルウはそもそも女の子であり、名はルキア。神官の娘として生まれた。
小さなころから見えないものと話していることが多い子供だった。初めは妖精と話していると思われた。この国ではよくあることだからだ。
「ねえダリア、竜はこの世界に一体どれくらいいるの?」
「わからないわ。私と、私の仲良しの白竜、昔死んでしまった黒竜。少なくとも3頭はいるわね」
「黒竜は死んでしまったの?」
「そう、人間に倒されてしまったわ」
だが彼女は違った。彼女がダリアと名付けた小さな竜と話していたのだ。
竜と話せるのはこの国でも希少な能力であった。100年に一度現れるかどうか。その者は“竜の導き手”と呼ばれ、その者の香りに惹かれた竜が従うと言われていた。
様々な異能が見られるこの国でも、竜の導き手は権力闘争に巻き込まれる可能性があった。竜を従えることができるため、望むものを滅ぼせる可能性があったからだ。
両親は娘が竜の導き手であるとわかった時点で、娘を外界から隔離した。本人にその自覚が出て自衛できるようになるまで、隠して育てることにしたのだ。
接することができるのは、事情を知っていて自分を守ってくれる大人たちだけ。
それでも竜が小さいころは忍んで会いに来てくれるから、ルキアは寂しくなかった。その時に竜からたくさんのことを学んだ。
「白竜は今どこにいるの?」
「隣の国の、北の山よ。眠っているの。そろそろ目覚めたいと言っているから手伝いたいわ。ルキアもいつか来てくれる?」
「いいよ。私も行かないと目覚められないの?」
「そうなの、あなたの力が必要。だからいつかあなたが自由になったら行きましょう。でもその前に眠っている場所を見つけないとね」
1人と1頭は目立たぬよう夜に近くの森で会っていた。
ただ竜が大きくなり目立つようになると、隠されているルキアには会うことができなくなった。
大人たちはルキアがどういった状況になっても生きていけるよう、野営の仕方や薬草、この国の事や隣国の事、身を守るための魔法を教えた。
ここで匿われて不自由だが家族と一生を過ごすのか、森や山に隠れて自由に1人で暮らすのか。
選択できる年頃になったら彼女に選ばせるつもりであったのだ。
だが実際にはその時期は来なかった。
この緑の国が隣国より攻められたのだ。
“この国が国難に襲われし時、竜の導き手がそれを排するだろう”
この国に古くから伝わるものだ。
その予言の通り、何度かこの国は竜に助けられていた。そのため竜はあちこちで祀られ、神聖なものとして崇められている。
この国は魔法や妖精などの力が生きる一方で、文明の発達は遅かった。人数も少なく、兵器や兵力と言ったものはないに等しい。隣国から兵士が入ってきた段階で蹂躙が始まった。
このままでは国が滅びる。
そう思った大人たちはルキアに助けを求めた。竜に守ってもらえないかと。
ルキアは快くその提案を受ける。自分の所在を明らかにしなくても、竜が国を守ることはできるからだった。
この国への唯一の侵入口である場所で、竜が敵兵を炎で炙った。
敵兵は恐れおののき、あっという間に撤退し、停戦となった。
だが隣国の国王は諦めず、むしろ竜の導き手を差し出せと言って来た。差し出さなければ再びこの国を襲う、それも従うまで襲い続ける、と。
たとえ竜がいるとしても圧倒的な国力の差があり、再び攻められると国の存続が困難であった。
そのため緑の国でも竜の導き手探しが始まったのだ。竜の導き手を差し出すことによりこの国を守ろうと。
ルキアの周囲の大人たちは慌てた。このままではルキアが連れていかれ、隣国へと差し出される。
大人たちはルキアを単身、隣国へと逃すことにした。隣国では先に情報収集のために出していた者たちがいた。そこへと逃がすことにしたのだ。
そしてルキアは“難民”となったのだった。