1.成人する
新しく書き始めました。
よろしくお付き合いお願いいたします。
「わあ、格好いいですね!」
「…まあ、あれだけの衣装があれば誰でも格好よく見えるわよ」
年頃は15-6歳くらいの少年と、もう少し上の女性が話す。
この国に新しい国王が即位したという、祝賀行列の最中だ。かなりたくさんの人々が沿道に押しかけていて、その中で2人ももみくちゃにされている。
大歓声と共に花吹雪、紙吹雪が舞う。どうやら新しい国王はこの国の国民に歓迎されているようだと少年は思った。
王都の最も広い中央道路をゆっくりと目の前の行列が過ぎていく。衛兵から始まり、近衛兵の凛々しい姿、そして新国王が騎乗姿で通り過ぎていく。少し後ろにやや控え目な姿でよく似た男性がいる。新国王の弟の宰相様だ。それらの衣装はほぼ、この国の伝統の衣装ではなかった。
新国王が目の前を通り過ぎる。至極真面目な顔をしてほぼ前を向いていた彼が、何かに気づいたように一瞬こちらの方を見た。少年と目があったかどうか。ほぼ人混みに埋もれていた背が低めの少年にはよくわからなかった。
「そろそろ抜けるわよ。あんた大丈夫?はぐれないように付いてきなさいよ!」
「ガイナ待ってください!」
前へ前へと押し寄せる人波に逆らって後ろへ向かうのだ。ある程度いい体格の女性に比べ、小さな体の少年はそのまま流されていきそうになる。
それを見かねたガイナと呼ばれた女性は、ぐいと少年の腕を引いて人混みから救出した。
「ちょっとルウ、大丈夫?なんだかぐっちゃぐちゃじゃない!貴重品、取られたりしてない?」
「えっと、大丈夫そうです。収納袋はここにあります」
ルウと呼ばれた少年が貴重品を確認している間、ガイナはルウの髪や服を整えていく。
仲のよさそうな姿はさながら姉弟のようだ。だがガイナの髪は赤毛で茶色の瞳、ルウの髪は銀で瞳は深緑。まるで似た所のない2人だった。
だがこの2人、暮らしている南街では知らない人はいないというほど、有名な冒険者の2人組だった。
「ほら、ご希望の新国王陛下の行列は見たんだから、そろそろ戻るわよ。早く帰らないと南町に着くころには暗くなっちゃう。それともこの王都にもう1泊する?」
「うーん、それもいいかもしれませんね。昨日食べた食堂でまた食べたいなと思いますし」
「よっぽど昨日のところが気に入ったのね」
「煮込み料理がおいしかったので」
じゃあもう1泊ね、と言って2人は宿屋に向かう。宿の主人にそう告げた後、再び街へと繰り出す。
この祝賀行事の間にこの王都で宿を予約できたのは奇跡的だ。宿の主人がガイナの古い知人だったからこそできたことだった。
ガイナにはまだ、ルウの知らない知人がたくさんいる。
毎度その知人たちに助けてもらっているルウは、本当にありがたいことだと思っている。
「ならルウ、ほら、この間短剣が欲しいって言ってたでしょ?買いに行くわよ」
「短剣ですか?急がないからまた南町に戻った後でも…」
その返答を聞かずにガイナはルウの腕を引っ張ってどんどん進む。小さいルウと大きなガイナでは、抵抗したとしても無駄だとルウは出会った直後から知っていた。きっとガイナは今日、短剣を買いたい理由があるのだろう。
大通りから少し離れた小道に面した、小さな武器屋の前に来た。
この祝賀行事でほとんどのお店は休みであり、やっていたとしても食堂や飲み屋などであった。皆、祝賀行列を見に行っているのだ。
ガイナは遠慮なく扉に手をかける。もちろんこの店の扉には閉店と書いた札が下がっており、鍵もかかっていた。
「今日はどこも開いてないと思いますし、南町のココさんのところでいいのですが…」
「おいっ、開けろー!ドルグ!いるのはわかってんだよ!」
女性の割にはかなり野太い声で叫び、扉をドンドンと叩く。
「ガイナ、声が素に戻っています…」
「あらやだ。大きい声を出そうと思うとどうしてもね」
小首をかしげてガイナは嫣然と笑う。その姿はやや大柄だけど、美人なお姉さんそのものだ。よく男性に言い寄られて楽しそうにしているが、本人もれっきとした男性である。ただ女性の格好が好きで、好みはマッチョな男性というだけだ。
ガイナはさらに扉を叩こうと腕を上げると、扉が開き、中から男性が出てきた。
「…ガイウス、お前、変わってねーな…」
「あら、今はガイナよ。綺麗になったって言ってよ」
「そういう問題じゃねー…」
渋々といった体でドルグと思われる男性は2人を中にいれた。
ルウはまた新たなガイナの知人を知ることになった。ガイナはもともと南町生まれと聞いていたが、王都にもたくさん知人がいるようだ。
ガイナはルウにたくさん知人を紹介することによっても、いずれ来る独り立ちの日に備えさせているようであった。
「あんた絶対こんな祝賀行列なんて見に行かないでしょ」
「興味はねーな」
「さ、あたしたちに短剣を見せてちょうだい」
「…どういった短剣だ?」
「もちろん武器としては最高で、見た目もそれなりにいいもの」
「誰かに贈るのか?」
「この子よ。誕生日なの」
ルウは目を丸くする。
自分の誕生日は今日ではない。ただ、自分はこの国に来る前の記憶がないことになっている。ガイナの意図がつかめなくて呆然と眺めていると、
「今日は5年前にあんたがあたしに見つけられた、誕生日」
記憶のない自分には誕生日がない。それを踏まえて2人が出会った日を「誕生日」にしようとしてくれているのだとルウにもわかった。
「…ありがとうございます」
「素直に甘えておきなさい!この間の仕事で稼いだから、今日は奮発してあげる」
ガイナの見た目は女性でも、中身はがっつり男性だ。だから誕生日や記念日と言ったことには疎い一面がある、とルウは思っていた。だが出会って5年目にしてとうとう「誕生日」祝いをすることにしたようだ。
むしろ5年前の出会った日を覚えているならば、記念日に疎いわけではなさそうだったが。
「あんた出会ってからほんと大きくならないわね。あたしが食べさせてないみたいじゃない。まあ、あの時を13歳として今日は18歳。成人のお祝いよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、短剣の品定めをしている。店に並べている分を見て、その後ドルグが奥から持ってきたものも見ていく。
そういうことかと納得する。どうやら今日、自分は18歳になり成人したようだ。
なかなか鋭いガイナの勘に驚きもする。実際自分は18歳と少しである。実年齢を伝えてはいないのに、見事に年齢を当てられたわけだ。
「これなんかどう?」
「相変わらずいい目利きしてんな」
「でしょう?」
手に一振りの短剣を持ち、こちらを見ている。一応、ルウの好みを考慮に入れるつもりのようだ。
手に取って鞘から抜く。柄を握るとしっくりときた。
「いいですね」
「じゃあこれにしましょう。どうせあんたは剣術が苦手で、それほど剣も短剣も使わないんだから」
じゃあ何故祝いを短剣にしたんだ、とドルグもルウも思ったが、そこは黙っておいた。
今回のupは少し不定期になると思いますが、よろしくお願いいたします。