テスト
始業の1時間前に来たが、まばらに人は来ていた。
教室に入ってみると3人先に入っていた。
一人は本を読んでいる眼鏡をかけた細い男の生徒
もう一人は赤毛の筋肉質の明るい感じの男、
最後はいるのか分からないくらい教室の端っこにいる影みたいな女の生徒だった。
誰も、名前も分からないな…。俺もとりあえず席に座ると、
「おはよう、レン。」
俺の斜め前に座っている赤毛の男が話しかけてきた。
「お、おう。おはよう。」いきなり話しかけてびっくりした。
しかもいきなり呼び捨てかよ。
「本当は昨日に話しかけたかったんだけどよ、シルベールに独占されちゃってたからさ。」
全く裏表のないような笑顔で話しかけてくる。なぜか憎めないようなこの男は一瞬でいい奴なんだと思った。
「ああ、カレンとは知り合いなんだ。」
「まあ、そうなんだろうな。シルベールは基本男とはあまり話さないし、大人しいから昨日のは見てて新鮮だったぜ。」
「そうなんだ。」逆にそんな一面があるんだ。
「俺はケンジ・ハルバード火魔法が得意で趣味はトレーニングだ!」
「俺は音西レン得意魔法は今のところない…。趣味もいま探し中かな。」時間停止魔法とか絶対言えないし趣味もゲームとか言ってもこの世界ゲーム無いしな。
「そうか、これからよろしくな。お前の最初の自己紹介めちゃくちゃ面白かったぞ!俺は自分の夢を口にできる奴は強いって思ってるから、俺はお前が好きだ!」
「それだけでか?それだけで好きまでなるものなのか?」俺は率直にそう言ってしまった。
「はっはっは。そんなことはないさ!俺は人を見る目はある。お前はいい奴さ」
「ありがと。ハルバートは、」
「ケンジって呼んでくれ。この世界では結構珍しい名前なんだぜ。」
ニヤッと得意げに話す。
「わかった。ケンジはその、得意魔法とか普通に公言していいの?」
「ん?なんでだ?」
「例えば、対人戦の時に対策されたりされやすいんじゃないのか?」
「ああ。俺の場合バレてる方が気が楽なんだ。不利な状況の方が燃えるだろ?!」
「ああ、なるほどね」熱い奴だ。こいつ。
「それに、」ケンジの雰囲気が少し変わる
「俺に勝てる奴はそうそういないんだよな。っはっはは。」
「へ、へぇ~」
「でも、俺はレンに勝てるかと言われれば分からないんだよな~。」
「どういう事だよ?」
「お前は多分強い、俺の勘だけど。」笑いながらそう言う。
ケンジは本当に素直で正直なんだ。
「今日のテスト頑張らないとな。」
「おう。でもレン。忘れちゃだめだぞ。」
「何がだ?」
「1番は楽しむことだ!」
ニカッと笑うケンジに、俺は確かにと同意した。
ケンジはそのあと教室を出て行って始業ぎりぎりになって戻ってきた。
俺はというと、カレンがそのあと教室に来たから普通に喋っていた。カレンと話すと落ち着く。カナも15分くらい前に教室にやってきたが、昨日のことなどなかったかのように何もなく席に座っていた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
「それでは、皆さん席に着いてください。」
全員が席に座っていた。昨日空いていた席も埋まっていた。昨日休んでいた奴もいたんだな。
「昨日も言いましたが、本日は実力テストです。詳しくは学園長から連絡が間もなくありますので、みなさん頑張ってくださいね!先生も一応試験官としていますが、全員を見ることはできません。自分の力を信じてテストに臨みましょう!」
みんな各々いろんな表情をしており、俺も負けてられないという思いの中、なぜかわくわくしていた。すぐに教卓の上に画面が浮き上がりアイリスの姿が見える。
「生徒諸君見えるかね?早速だが、本日のテストの内容を説明する。ルールは簡単だ。学園内に現れるゴーストと呼ばれる魔物を倒せ。ゴーストは黒い物体なので簡単に見分けはつくはずだ。形は人型から獣型まで様々ある。強さによって点数は変わってくるので、弱いゴーストを沢山倒すのも良し、強いゴーストを狙って倒すのも良し。評価は私たち教員がしている、万が一生徒が死にそうになれば私たちが助けるがその場合は失格とみなす。そして最後にこの試験で失格、不合格だった場合、退学の可能性もあるので気を付けて臨むように。以上だ。質問などがあれば担任に聞け。テストは10分後皆それぞればらばらに転送するようになっている。それまでに準備は怠らないように。」
そう言って画面は消えた。さっきまでの雰囲気とは違ってピリッとした空気に一気に変わっていた。1人の女子生徒が手を挙げる。
「ルー先生退学って…。」
「はい、その通りですウォルグさん。結果次第ではそのような対応になります。」
「そ、そんなここまで頑張ってきたのに、今日で退学の可能性があるって?!」
「そうだ、俺はこんなテストで退学なんて。」
2、3人の男女の生徒がルー先生に抗議をする。
ルー先生は意外と真顔で何も答えない。隣にいるカレンも少し不安そうにしていた。
そりゃそうだ。確かに不安だ。使える魔法なんて1つしかないのだ。でも、俺より魔法が使えるであろう生徒が不満を漏らすことで逆に冷静になれた。
「やるしかないだろ。」
みんなが俺の方を見る?
「やるしかないだろ?なんだ?退学が嫌だからテストは受けませんでいいのか?それで魔法師目指してるのか?そんなわけないよな?この学園は優秀な生徒がいるって俺は聞いて入ってきたんだ。まだ、テストが終わってもないのに諦めるなよ!」なぜかそんなことを口走っていた。なんで俺がそんなことを言っているんだ!?そんなことを言える立場じゃないのに。でも俺は間違ってないと思った。すると、
「なんで、昨日入ってきたばかりの奴がカッコいい事を言っているんだ??」
そう言ったのはケンジだった。ニシシと笑っているような顔だった。
「えっ?」
「確かにやるしかないよな。全員で生き残って最高の成績を取ってやろうぜ。少なくとも俺はそうする!負けないぜ!」拳を俺の方に向けてくるケンジ。
「あ、ああ!まけねぇ!」俺も拳をケンジに向ける。
抗議をしていた生徒もさっきとは違い、本気の様な意気込むような表情をしていた。
その時「やっぱり、レンはレンだ。」ぼそっとカナは言った。
ルー先生も俺の方を見てニコッと笑ったあと、
「それでは、もうテストの時間になりますので、準備をしていてくださいね。ルー先生も試験管をしながら応援してます。」そう言って先生は教室を出て行った。
「レン君、さっきの…その…」
カレンが話しかけてきた。
「どうしたのカレン?」
「えっと、さっきの言葉…元気貰ったからお礼を言いたくて。ありがとう。」
「そ、そんな大したことしてないよ!カレンも頑張ろうね!」
「…はい!」カレンはやっぱり笑顔が一番似合うな~。
ぴっぴっぴ。と急に音が聞こえる。
教卓の画面が現れ30秒前のカウントダウンが始まっていた。
いよいよだ!俺はペンを胸ポケットから外す。
カレンも集中して目を閉じた。
よし、俺もやるぞ!だが、手が震えている。怖いんじゃない。武者震いだ。いや、やっぱり怖い。…でも、わくわくが俺の大半を占めていたのは間違いなかった。
カウントダウンが0を指した。
その瞬間全員に呪文がかかりどこかへ飛ばされた。