メルとクラウドのお節介
屋敷の部屋で俺はアイリスと夕食をとっていた。
あの後、明日のことで頭がいっぱいだった俺は、カレンに学園案内を次に回してもらい、さっそくアイリスに魔法の交渉をしようと屋敷に戻ったが、帰っているわけもなくブーストでイメージ通りに変形できるように練習をしていた。するとクラウドが
「私でよければ協力いたしましょうか?」と提案してきたのだ。
もちろん、断る理由もないから手伝ってもらった。実戦形式で組手をしながら、ブーストで変形をしながら戦う。
正直、嘗めてた。執事だから家事が出来るくらいだと思っていたが、めちゃくちゃ強い。
しかも見かけによらず、大剣を使うのだ。どこにそんな力があるんだよ!と心の中で突っ込みを入れながら稽古をしてもらった感じだ。戦っているときのクラウドはなぜだが、すごく楽しそうだった。
「クラウドは昔から執事だったの?」と俺の質問に対し
「いえ、昔は王様の側近をさせていただいておりました。」
「えぇ!めちゃくちゃすごいんじゃない!なんでアイリスなんかの執事をやって。」
「レン様、アイリス様はあなたが思っているよりすごいお方なのです。こんな老いぼれを執事として雇ってくださるアイリス様に感謝しかございません。なので私はアイリス様に何かあれば全力でお守りいたします。」クラウドにそんな思いがあるなんて全然知らなかった。
もしかしたらメルにもそう言った思いがあるのかもしれないな。
「俺もアイリスを守れるようにもっと強くならないとな!それにクラウドもメルもちゃんと守れるようになってやる!」
「それでは、頑張らないといけませんね。続きをしましょうか。」クラウドは優しい目をしながらそう言った。
「おう!」俺はアイリスが帰ってくるまで稽古を続けた。
アイリスは俺の対面に座って何かの資料に目を通している。
「なあ、アイリス。」
「んー」ご飯を口に運びながら空返事をする。
「明日の試験さ。」
「教えないぞ。」
「まだ何も言ってねぇよ!というか俺がカンニングすると思うのかよ!」
「お前ならやると思ったんだが。」
「じゃあ、俺のことを見直した方がいいと思うが!」
「じゃあなんだ?」
「明日の試験の時だけ俺の魔法を使わせてほしい。」
「…」アイリスの動きは止まった。
「試験でちゃんと頑張りたいんだ!それに1番になりたい。」
「…」アイリスは考えているようだった。
「アイリスと同じ、いや超える魔法師になりたいんだ。」
アイリスは俺の顔を見つめる。
「だめだ。」初めてノーと言われた気がした。
「な、なんで?」
「確かに明日の試験は魔法メインの実践の試験にしようとしている。が、お前の魔法を許可したところで誰も認識できないから審査には引っかからない。それに前も言ったが強力すぎる。」
「じゃあ、俺はこの体とアイリスからもらったブーストで戦えっていうのか。」
「…まあ、そうなるな」
「試験には魔法以外でも評価されるのか?」
「まあ、されないことはない。ただ、メインは魔法だ。それ以上詳しい事は言わない。」
なかなか、絶望的だった。これでは明日俺の評価される部分はほとんどない可能性だってある。
「じゃ、じゃあ魔法を教えてくれよ。」すがる思いでその言葉を発した。
「無理だ。私は忙しい。それに昨日今日で魔法が使えると思うな。お前が魔法を将来使えるようにするために私はお前を学園に入学させたんだ。1番になりたい?魔法師になる?そんな簡単になれると思うな。厳しいことを言うようだが、今のところお前には力はない。」
アイリスから初めて怒られた。ショックだった。確かにここに来てから自分はうぬぼれていたのかもしれない。オリジナルの魔法が使える。身体能力が上がっている。それだけだ。他の人たちは生まれてからずっと努力してきたんだ。怒りと悔しさが混ざったような感情が自分の中で渦巻いているようだった。
「これからやるんだ。その可能性は私は絶対あると思っている。明日何としても乗り越えろ。じゃあ、私は準備があるから部屋に戻る。…頑張れよ。」
そう言ってアイリスは部屋を出て行った。
「レン様」メルが俺を慰めようと傍にきたが、
「大丈夫。」そう言って俺も自分の部屋に戻った。
アイリスは自室で資料をながめていると、
コンコンとノックがなる。
「だれだ?」
「クラウドでございます。コーヒーをお持ち致しました。」
「入れ。」
「失礼します。」
クラウドがコーヒーを机の上に置く。
「何か言いたそうだな。」私はクラウドに問う。
「いえ。私からは特にお話しすることはございません。」
笑顔で答える。こいつはいつも笑顔で私の傍にいる。だからこそクラウドがいつもとは少し違う雰囲気だと勘ずく。
「いや、お前は言いたいことがあるはずだ。」
「…大変失礼なことを言いますが、私が言いたいことではなく、アイリス様がおっしゃってほしいように思えますが。」
「ふっ。」こいつは本当に頭の切れる奴だ。最初は腕が立つというだけで雇ったが、頭も切れる。
「ああ、そのようだ。お前に話してほしい。」
「…では。…少し厳しいようでしたが。まだ、この環境に慣れていない状態であれほどおっしゃるのは少し酷なように私は思えましたが。」
クラウドが私の言ってほしい事を言ってくれる。
「お前はレンと少しでも話をしたか?」
「ええ。本日レン様が早く学園から帰ってこられたので、剣の稽古を少し。」
「ほう、どうだった?」
「率直に、素直というか単純で剣の動きも分かりやすい。」
「…。」
「ただ、頭は切れる。できないことを出来るように考え続ける。2時間後にはなかなか成長されておりました。スピードで翻弄してきたり、剣を変形させ投げた後に接近の肉弾戦を仕掛けてきたり。驚きました。」
「…。」
「あの子は強くなります。」
「…そうだ。あいつは強くなる。あいつの場合厳しく育てた方がきっと良い方向に成長する。お前の言った出来ないことを出来ることに考え続ける。その頭の発想力をもっと伸ばす。あとはあいつの素直さ。悪いことをしたらちゃんと謝る。良いことをされたら感謝する。あいつはちゃんと失敗を学んで成長する。だから、ちゃんと挫折もさせるべきなんだ。」
「…あなたは甘いですね。」クラウドはいつもの笑顔に戻っていた気がする。
「さっきは厳しいと言ってなかったか?」
「はい、さっきのは言い過ぎだったと私は思います。なので謝るか。何かしないとレン様はつぶれますよ。素直なだけに。」こういう時はズバッと私に言ってくる。
「うっ…。謝るのは苦手なんだ。」
「知っております。」
コンコンとまたノックの音が聞こえる。
「失礼します。レン様は今お風呂に行かれました。行かれてみては?」
メイドのメルは頭がおかしいようだ。私は素直にそう思った。