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第六話。初、魔法の目撃。そして、予想もしなかった展開に。 パート1。

『異界に魅入られし者よ。暇であろう、付き合え』

「メールまでこの調子なのかよ……」

 中神なかがみからのメールを見て、俺は苦笑いをこぼした。

 

 

 今は日曜日の昼間。

 中神がメリーさんこと、メリーニャ・カグヒを泊める話を受けた翌日だ。

 たしかに予定があるわけじゃない。

 けどあいつに話したわけでもないのに、まるで知ってるみたいに

 暇だって言い切る文面は、ちょっと怖いもんがある。

 

 

「早速メリーさんのご案内タイム決行か」

 集合場所とか待ち合わせ時間とか、そういうことを一切書いてないので、

 その辺どうなってるのかをメール返しついでに聞く。

 

「別に気張って服変える必要もねえし、メール待ちだな」

 メリーさんと単独で逢うならまだしも、俺は中上がこの辺りを

 メリーさんに案内するおまけだ。気張ってたら、なんか間が抜けてる気がする。

 

 なに気合入れてんだはっずかしー、って煽られる感じの

 やっちまったルックになるのが目に見えるぜ。

 

 

「お、きたきた。んーっと?

昨日メリーさんを発見した、あの公演に来い。か。了解」

 返事を返して、そのままケータイをポケットに放り込み、俺は自室を出る。

「あ、充電大丈夫だったかなぁ?」

 改めてケータイの残りバッテリーを確認。うん、余裕だ。

 

 親に、友達と待ち合わせしてるからと告げて、俺は家を出た。

 

 

「あの公演で待ち合わせることに、なんか意味があるんだろうか?」

 普通の奴と待ち合わせするなら、特にこんなことは考えないんだけど、

 相手が相手だ。どうしても、なんらかの理由があるんじゃないかと

 勘ぐってしまう。

 

 メリーさんがいた場所だからか。それとも、あの公演になにか

 魔的な要素があったのか。

 

 ーーもしかしたらもっと単純で。

 

 俺と中神が、いっしょに行動した学校の外が、

 あそこしかなかったからかもしれない。

 

 うっすらと灰色の雲が出始めた空を見上げて、俺は一つのびをして

 再び集合場所へと歩いた。

 

 

「よう、お待たせ。って……」

 公園に入ったところ、退屈そうにしてる中神が目に入った。

 そして、その格好に

「、なんで中神は鉄棒にぶらさがってんだよ……しかも逆さまに」

 こう突っ込まざるをえなかった。

 

 現在俺には、中神の背中側しか見えず、奴の爪先が俺を向いてる状態だ。

 

 

「なに、少々蝙蝠こうもりの気分を味わってみたくなってな」

 そう言うと、ひっかかってる足の力だけで上半身を跳ね上げて飛び、見事に

「ぐふっ」

 こけた。しかも顔面から。

 

「うわぁ……着地できたらかっこよかったのになぁ」

 思わず苦い顔になってしまった、俺が。

「っ! 大丈夫ですかカクジさんっ!」

 慌てた様子で、近くにいたメリーさんが抱き起こしている。

 ああ、中神は敬称が「さん」なのか。

 

「ああ、この程度。なんてことはない」

「……額から一筋、血ぃ流れてますけど?」

 今度は顔をしかめた俺。

「そうですよ、やせ我慢しないでください」

 

「っ、やめろっ」

 

 額に掌を当てて、なにかしようとしたメリーさんのその手を、

 中神はどうしてそんなにと思うほどの権幕で払った。

「カクジ……さん?」

 

「女からの、施しは……受けん。特に、俺と年の近い女からの施しはな」

 そう言うと、傷口に自らの爪を突き立てた。

 

「ちょっ、お前なにして?」

「これ、で。魔力を流せれば……」

 必死の形相で、手に力を込めている中神。けど、力が入るばっかりで 

 魔力を傷口に流すことはできていないようだ。

 

「くそっ……! 駄目か、結局は。俺は所詮、

魔力を探知できる程度の才しか持てんと言うのかっ。付け焼刃だからか、だから駄目なのかっ」

 今しがたまで爪を傷口に突き立ててた、その右手を握りしめる中神。

 

「四年……四年だぞ。これほど……これほどの時間、

原初の魔王の魂を、この身に宿しておきながら、

魔法は愚か 魔力の集約すらかなわんとはっ!」

 

 苦しそうな悔しそうな顔で、そう吐き出した中神は、

 ググっと更に握り込んだ拳で、

 地面を二度 三度と殴り付け始めた、ってなにやってんだっ!

 

 

「カクジさんやめてくださいっ! 拳が壊れてしまいますっ!」

「そうだぞっ、なにがどうしてそこまでなのかはわかんねえけどやめろって!」

 再度振り上げた右の腕を、俺は駆け寄って押さえつける。

 

「メリーさん、なにかやれることがあるなら、やってやってくれ」

「はい」

「ぐ、貴様ら……!」

 苦々しい顔で呟く中神。

 

 こいつのなにが、これほどの悔しさを爆発させてるのか、

 今もって俺にはわからない。だから、慰めることも、

 同調してやることもできない。

 してやれることといえば、メリーさんがしようとした施しとやらを

 完遂させてやることぐらいだ。

 

 

「この程度の傷なら、わたしの回復魔法でも治療できます」

「そうなのか?」

「はい」

「って、回復魔法するつもりだったのか?!」

 予想外な言葉に、俺は目をパチパチしちまった。

 

「当然じゃないですか。傷付いた人には回復魔法。常識ですよ」

「異世界の常識持ち出されても困るんだけど?」

 俺の切り返しに、一瞬ポカンとした後で、あっと口元を左手で覆ったメリーさん。

「ごめんなさい、そうですよね」

 苦笑いでそう返して来たので、一つ頷いておく。

 

「で、使えるって確証があるんだな?」

「はい。別世界に来ても、大した魔力の減退は起きてませんので」

「へぇ。この世界と似た土台の世界……ってことか?

中神のとこも、メリーさんのとこも?」

 

「わかりません。オカハヤさまの言うことは正しいかもしれませんが」

「なるほど」

 相槌はしておく。

 

「だからこそ、カクジさんやその知り合いの方々が、魔力について

当然のこととしてお話してるのに、納得がいったんですよね」

「そうなんだな」

「はい」

 言い終えるとメリーさんは、左手を中神の額に、右手を中神の右拳にあてがった。

 

 そうされた中神は、うっとおしそうに表情を少し歪めた。

 ……どんだけいやなんだよ。

 

「異界にいながらにして、更なる異界の魔法を受ける、か」

 ふぅと一つ、諦めたような息を吐いてから、

 神妙な様子で考えながら呟いた感じで言った中神は、

 一度言葉を切ったかと思うと、「……いいだろう」と不敵に笑った。

 

「そうできる経験ではないからな、甘んじて受けてやる」

 続いた言葉に俺は、

「回復魔法使われようとしてる人間の態度じゃねえだろそれ。台詞も含めて」

 俺の心は呆れる以外の方向に動かなかった。

 

 

「わたしの世界の魔法が、異世界であるこの場所で、

どの程度の効果になるかはわかりません。

けど、大した魔力の減退が起きてないところを見ると、

効果なしにはならないはずです」

 小さく中神の態度に微笑した後、そうメリーさんは言った。

 

 その笑みはいったい、中神の今の態度のどこによるのかが、

 俺にはわからないけどな。

 

 

 一つ大きく息を吸うと、メリーさんはすーっとゆっくり目を閉じた。

 

 

「我ら見つめし正体不明の者。可能性の獣」

 紡ぎ始めた呪文と思われる言葉は、不思議なことに響いている。

 たしかに、呪文詠唱とか必殺技の叫びとか、

 アニメじゃエコーかかってるけど……まさか、

 ほんとにエコーがかかるなんてな。

 

「その慈愛の心にて、傷付きし者のつうを鎮め痕跡を清めたまえ。

アーケット・リジェネス」

 優しい声で、呪文名みたいな言葉を言ったメリーさん。

 すると、驚いたことに、中神の額と拳にあてがってる彼女の手が、

 淡い光に包まれた。

 

 

「これが……異界の魔法か。

しかし、我が世界の魔力の存在するこの世界でも、

発動しているだけはある。俺が知る回復魔法と、受けた感覚はそうかわらないな。

 

いや、もしかすると。この世界に薄く広がる我が世界マギアヘイムの魔力が、

メリーさんの放つ魔力を中和しているのか?

だから、俺の見知った感覚に近いのかもしれん……」

 そんな言葉を言った中神。

 

 分析してるような中神の言葉が終わると、

 メリーさんの掌にあった光が、ゆっくりとその姿を消した。

 それを確認したメリーさんは、ゆっくりと そしてそっと

 中神から手を放した。

 

 メリーさん、中神は今そう呼んだな。

 武内たけうち小説こときとあだなの方向性が違う。

 それほどメリーさんが、中神の中で特殊な存在なんだろうな、きっと。

 

 

「これが、回復魔法か。傷跡が完全に消えてる。すげー」

 感動に静かな声を上げた俺だ。

「見事な物だな。これでも貴様は、自分の魔法では

大したことができないと言うのか」

 

 どうやら、昨日のうちにメリーさんは、中神に、

 俺に話したのと、同じようなことを話したらしい。

 

「腹立たしいほどの謙虚さだな。

ろくに魔力を放つことのできない俺に言わせれば、だが。くそ」

 メリーさんにと言うより、自分に言ってるような感じだ。

 中神のじぎゃくは、いつも見てて苦しいな。

 

「それほどの魔力を持ちながら、あなたはどうして……?」

「俺が知りたい」

 噛み殺すように押し殺した声で、かみしめるように言った中神。

 ほんとに、こいつはどんな生活を送ってたんだ、マギアヘイムとやらで。

 

 

「……ん?」

 突然中神は、真剣な表情で地面を凝視し始めた。

「どうしたんですか?」

 

「わからんのか。この公園の地価、マギアヘイムの魔力が強い。いや、まて?

それどころか……この公演の地価を中心にして、無数に線が広がっている?

なんだ、これは?」

 

「なんだかお前。自分のことをいじめるたんびに、サーチ能力のレベル、

上がってないか?」

「……言われてみれば。たしかに、己の無力に心を苛まれるたび、

俺の探知の制度は……上がっているような気がする」

「難儀な性質だな、お前の魔力に対する体質」

 

「解せん……我が子とながら解せん。悔しさがばねになるとはよく言うが。

こんな痛い思いをせねば、俺の魔の才は発揮されんと言うのか……

開花していかんと言うのか……解せんっ」

 つい今さっきメリーさんに癒してもらった右の拳を、

 グググっと握りしめて歯を食いしばっている。

 

「探しに行くぞ」

 拳の握りを解いた中神は、調子を元に戻せたみたいで、

 落ち着いた声で言った。

「なにをですか?」

 

「地下への入り口を、だ。この世界の地価、どうなっているのか興味が出た。

メリーさん。魔力の探知ぐらいは容易だろう。手伝え」

「わかりました。もしいける道があるなら、この世界で

これほど興味をそそられる場所もないですしね」

 

 なるほど。メリーさんは、メインディッシュを先に食べるタイプか。

 長女かもな。

「たしかに。地下世界なんて物があるんなら面白そうだな」

 俺もメリーさんに同意した。

 この人の言うことは、まさにまったくそのとおりだからな。

 

 

 ただたんに、みんなで散歩するだけかと思ってたけど、

 予想外の冒険に繋がりそうだぜ。

 

 

 

 ーー俺、ワクワクしてきたぞ!

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