第四話。俺が聞こえた彼女の理由。 パート2。
「俺の本当の名前は岡本速人だ。
せめて呼ぶなら、あだなのオカハヤにしてくれ」
『オカハヤ……』
考えるように復唱するメリーさん。
『ううん。どーもピシっとしませんねぇ』
考えるポーズでもしてそうな声色だな、おい。
と思ってる間に、
『やっぱり、メッサーさまです』
とさらっと。
「……お前もかよ。異世界人ってのは、人の望みに
反発したがるようにでもできてんのか?」
『え?』
「あ、しまった」
『メッサーさま』
「オカハヤだ」
『それって、どういうことなんですか?』
「あ、いや、その……」
どうする。これほどまではっきり言っちまったら誤魔化しようがねぇぞ。
中神には黙ってろって言われてんだ。どうするよ、マジ。
『ひょっとして』
「ぐ……」
『異世界から人が、その世界には行っているんですか?』
「あ、え。ええっと……」
完全に言い当てられちまったっ。
って……あれだけはっきり言ってりゃ、あたりまえか。
『なるほど』
「な……なにに納得したんだ?」
『だから繋がり易かったんですね、メッサーさまの世界と』
「え? なにが?」
『既に他の世界と繋がってる世界だから、
夢で訪れるだけじゃなく、声が聞こえるほどに繋がりやすかった、
ってことですね。それなら行くのも簡単そうです』
喜んでるし。
「お……俺にはいったい、なにが納得できる理由なのか
まったくわからないんだけど」
どうやら、俺の世界に異世界人がいることについては、
まったく疑問符を浮かべてないらしい。
とりあえず、この場をごまかす必要は……なくなった、みたいだな。
これは……喜ぶべき、なんだろうか?
ん?
そういや、中神の奴も、この世界は他の世界とつながり易い
とかって言ってた気がするな。
二人の異世界人が、揃って同じ考え方をするってことは、もしかしたら
本当にこの世界は、他の世界と繋がり易いのかもしれないな。
『俄然、あなたの世界にウキウキしてきましたっ』
テンション上がってんなぁおい?
『魔力魔法の存在が認識されてないのに、異世界の人間がいる。
そんな世界。そんないびつな世界。
面白いじゃないですか』
「わからん。あんたの感覚がまるっっっきりわからん」
『ああそうですメッサーさま』
「お前は人の話を聞かないのか? で、なんだよ?」
投げやりに問いかける。
『わたしも一つ、訂正させてください』
「訂正? なにをだよ」
『名前です、わたしの名前』
「名前って。メリーさんじゃないのか?」
『正しいですけど完全じゃないです』
「まどろっこしいな。じゃあなんて名前なんだよ、あんたは」
ただでさえ忍耐力が削られた後のこの夜中。
あんまり、まどろっこしいことはされたくない。
『メリーニャ。メリーニャ・カグヒです』
「やっぱ。メリーさんじゃないか」
『人の話、聞かないんですか?』
「お前が言うな」
ぼやいて返す。
なぜか、ウフフっと楽しそうな笑いが返事だけどな。
『それじゃメッサーさま。今度は、実態でお会いしましょう』
楽しそうに言うと、メリーさん改めメリーニャ・カグヒは、
『それでは、おやすみなさい』
と丁寧に挨拶してきた。
「頭痛だけ消えてる? うっすら耳鳴りが残ってるな。
完全にこの世界への道が繋がった、ってことか?」
来訪の時はより近づいた、って……ことなのかもしれない。
正直、来ることそのものはかまわない。
異世界の存在と、それと確実にわかってる状態で顔を合わせることは
楽しみではあるんだ、実は。
中神って自称異世界人のおかげで、異世界って物には
すっかり慣れたしな。
厄介毎、起こしに来るなよ。メリーさん。
ただ一つ、これを願うのみだ。




