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第二話。頭痛の正体と厨二病野郎と武内疾(主人公)。

「異界に魅入られし者よ。恐ろしいと感じるか、その女子について」

 中神なかがみは俺に、そう意味の分からない問いかけをして来た。

 質問の内容はわかる。わからないのは、

「え、いか なんだって?」

 言葉の始めのところだ。

 

「貴様のことだ、異界に魅入られし者よ」

 ビシっと、指を刺されてしまった。

「変なあだなつけんな。俺は岡本速人おかもとはやとだ。

あだなはオカハヤだけで充分だよ」

 不機嫌を隠しもせずに、叩きつけてやる。

 

「オカハヤ……やはり、ピンとこないな。

貴様はやはり、異界に魅入られし者だ」

 だが、中神の返答はこれである。

 

「折れろよ」

 突っ込んだがリアクションはなく、中神は制服の左ポケットから

 購買のコロッケパンを取り出す、袋に入ったままの。

「なんだよ無視すんなよな」

 

 軽く不満を吐き出して、そしてから、

「って言うか、コロッケパンなんて入ってたのか。

ぜんぜん、ポケット膨らんで見えなかった」

 と驚きぼやき。

 

 すると、

「そもそも貴様、俺の服になど目をやっておらんかっただろうが」

 バッサリ返された。

「ごもっともで……」

 

 

「それで、改めてだが。その夢をどう感じた?」

「どう、か」

 袋を持て余してる様子の中神。

 食わないつもりなのか、取り出しておいて?

 

「なんか、奇妙な後味だったな。

たぶん、記憶にひっかかり続けてたんだろうと思う、

今の頭痛を考えると」

「それだけか。そのメリーとか言う女子に関して、

なにかなかったか? 恐ろしいとか」

 

「なかったな。俺の趣味について知ってることは、不気味ではあったけど、メリーさん」

 メリーさんに目を付けられた。

 被害妄想かもしれないこの想像が離れず、名前を言うと一瞬震えが来る。

「あの子自体は、優しそうな感じだったしな」

 

 

「夢を超え、必ず逢う。いったいどうやって……」

「俺が知るか。最近やたらに、神隠しがボソッター絡みで起きてるって

ニュースにはなってるけど、それとは形式が違うしな」

 

「そうだな。あの神隠しは、ボソッターに始まり

それだけを利用すると聞くからな。

あれもあれで、奇妙な事件ではある。

 

仮にあれを、なにものかによる異世界召喚とした場合、

貴様に感じる魔力の残滓ざんしが、俺の知らない物なのにも合点が行く。

異世界からの干渉なら、それも当然だからな」

 

先月の、異世界生配信も合わせて考えると、

この世界は、元々異世界と繋がり易い世界なのかもしれんな」

 

「話進めるぞ」

 一人で勝手にオモシロ理論を展開し、

 一人で勝手に納得してるので、俺は話を本題に戻す。

 

 

「お前の話を、全部真実リアルだとしてだ。

神隠しが召喚だとして、逆ってのはありえるのか?」

 一呼吸空けて、中神はううむと腕を組んだ。

 パンの袋ぶら下げたまま。

 

「逆、つまりこの世界に呼び寄せる、あるいはこの世界に転移して来る、か?」

「ああ。特に自力転移の方だな」

 

「わからん。

俺が知る限りではあるが、マギアヘイムには、

軽々しく世界移動ができる者はいない。

 

ただ、貴様の頭痛が薄まったが、

魔力の残滓が残っていると言う現状を考えるに……」

 言葉が途中で止まった感じだ。結論を考えてるんだろうか?

 

「そのメリーとやらは、逆探知からの転移ができるのかもしれん」

 やっぱり、答えを考えてたみたいだな。

 マジメっつらを崩さず、異世界だの魔力だのと、

 恥ずかしいことを並べ立ててる中神。

 

 けど今の、メリーさんの言葉を思い出した俺にとっては、

 その、恥ずかしいことに対する真剣みが、なんともありがたい。

「そうなのか?」

 聞き返すと、「推測にすぎんがな」と、

 あっさり答えられた。

 

 

「俺の推測通り、メリーとやらが異世界にまで

探索範囲を広げられるのであっても、

探知が完了するまでには、時間がかかるだろう。

貴様の頭痛、まだ続く可能性があるぞ。それも高確率で」

 

「マジかよ。って言うか、今の話から

俺の頭痛がどう繋がるんだ?」

 

「メリーの言葉を加味すれば、貴様が目標地点であると考えるのが自然だ。

メリーが異世界の人間だと言うのは、最早動かし様があるまい。

そうなれば、世界を渡るための路が必要だ。

 

その路を安定させるには、目標地点を路の終点とせねばならない。

ならば、常に目標地点を把握しておくべきだろう。

 

メリーが貴様を見つけたその証が、貴様の頭痛であるのなら。

そやつの言葉に照らすなら、すなわちそれは、異世界への道の、

終着点をみつけたと言うこと。

 

メリーがこの世界に現れるまで、どれぐらいの時がかかるかはわからんが。

それまでの間、貴様の頭痛は続くだろう」

 

 

「つまり。俺の頭痛は、来るか来ないかもわからない、そんな奴の行動いかんで、

続くか止まるか決まるのか?」

 理解できた言葉だけを組み合わせて、一応の答えを出した。

 とはいえ、俺にとってはただの相槌。

 

 夢と現実が完全にリンクする、それも異世界絡みでリンクするなんて、

 あるとは思えないからだ。

 

「あくまでも俺の推測だがな。夢と言う形で道を調べ、

それを現実世界へと反映させるのは、容易なことではない。

長い付き合いになることを、覚悟しておけ」

 だって言うのに中神は、俺とは逆でメリーさんの存在どころか、

 俺が伝えた言葉を、本当に行うこととして認識してやがる。

 

 

「おいおい。なんとかできないのかよ異世界人?」

 半ば冗談として言ってみた。しかし中神は真剣さを崩さず、

 首を小さく横に振った。

「相手が夢の中に現れるのでは、貴様も俺も手の施しようがない」

 

「だよな」

 ノーが来るのはわかってたので、落ち込むことも苦笑することもせず、

 俺は普通に相槌を打った。

「こちらから接触が可能になるのは、その女が

この世界に現出した時だが」

 

「そんなにすぐじゃない、か?」

 推測を返すと、中神は「ああ、おそらくな」と小さく頷いた。

 この、当事者? である俺と、中神の温度差なんなんだろうな?

 まるっきり、受け答えする奴の雰囲気が逆じゃねえか。

 

 

「あちら側が手を引くのを、待つしかないか」

 苦々しい顔で、中神はそう結論付けてしまった。

 

「マジかよ……」

 溜息交じりに吐き出すしかない。俺はずっと、メリーさんが飽きるまで、

 この薄い頭痛と付き合って行かなきゃならないってことか?

 

 

「すまない。俺が蠱惑の魔女ほど、魔力と魔法のすべに長けていれば、

貴様の夢に直接入り込んで、対話することもできたろうが」

 悔しさを滲ませるように、拳を握り込んだ中神。

コロッケパンのビニール袋が、ビシャリと鳴った。

 爪で破っちまったらしい。

 

「生憎、原初の魔王の魂を蠱惑の魔女あいつによって、

我が身体に封じ込まれて約五年。ようやく、

魔力の探知ができるようになっただけだ。

原初の魔王の魂を持ってしても、俺の魔の才はこの程度……!」

 

「お、おちつけよ中神。

お前がなにを言って、なにを悔しがってんのかはまったくわからねえけど。

俺のために、見ず知らずの俺のためになにかしたがった、

ってことはわかったから。

 

クラスでモブい俺に、お前たちのスポットライトを向けてくれただけで、

充分だからさ。そんな怖い顔すんなって」

 俺は。いったい、なにを言ってんだ?

 言葉が口をついて、出て行っていた。

 

 厨二病キャラの奴に、こんなナチュラルに、

 しかもドストレートに、感謝フォローの言葉なんて。

 ーーどうしちまったんだ、俺は?

 

 

「……ああ、そうだな。すまない。だが」

「なんだよ、ニヤっとして。気持ちわりいな」

 

「いや、なに。俺のような、

貴様曰くの恥ずかしいことを、真剣に言う人間に、

そう心から言葉をかけるところ。疾風の申し子……

武内疾たけうちはやてに似ているな、と思ってな」

 

 そう言うと中神は、爪で破ってしまっていたビニール袋を本格的に破き、

 コロッケパンを食べる分だけ袋から顔を出させ、そして一口かじった。

「そうなのか」

 俺の疑問に頷くと、中神は話してくれた。

 武内とのエピソードを。

 

 

「奴はな。初めてあった時。俺のことを、

ただ、『面白い奴』と言う扱いをするだけだったのだ。

名乗った時点で、周囲が遠ざけているにもかかわらず、な」

「へぇ」

 名乗りの段階からこの調子だったわけか。

 

「転校生だった俺が、どこから来たのか。それを問わなかった。

問われれば答えるつもりだったのだが。奴はついぞ、今の今まで

一度たりとも問うて来てはいないのだ」

「かわってんな」

 

「そう言われているな。そんな奴と友であったから俺は、

これまでこうして、壊れずに生きて来られた」

「そこまでのことなのか?」

 俺には、よくわからない。

 けど、こいつにとって武内の存在は、相当に巨大なんだろう。

 

 

「だからだ、異界に魅入られし者よ」

「あ……ああ。もういいやそれで」

「奴と、そして奴とかかわっている者たちに。

俺が異世界の人間であることは、他言無用にしてもらいたい」

「言ったところで、信じるとは思えn」

 

「頼む」

 コロッケパンをギュウと握り込んで、

 真剣な表情で言われては、頷くしかない。

 

「そのかわり。その夢超えの民、メリーとやらのことは、

なにかあれば話してくれ。むりやり聞き出した以上、

最後まで付き合おう」

 

 

「ほんっと。変なとこまじめだな」

 そういう俺の表情は、知らず、ニヤリと笑んでいた。

「けどよ。なんで異世界がかかわってるからって、

そんなに気に掛けるんだよ」

 

「異世界が絡んでいるから、だ」

 

「なんだそれ?」

 相変わらず、こいつの言うことは理解するのが難しすぎる。

 特に、厨二病関連、もとい。異世界にかかわることは、

 その理解の難易度が跳ね上がる。

 

 

「俺の故郷、マギアヘイムと、この世界は行き来が可能だ。

とはいえ、ごくごく限られた者にのみ、その方法は明かされている。

そうでなければ、マギアヘイムに比べて脆弱な生き物しかいないと知られている

この世界を侵略しようと考える者が、必ず現れるからな」

「あ。はい……」

 

「どちらの世界にも魔力があり、マギアヘイムと似た魔力の気配が

この世界には混じっている。おそらくは、知らずにこの世界の人間は

マギアヘイムのと、似た性質の魔力を扱っているのだろう」

 

「あ。そうなんすか……」

 返事が、半生返事になるのはしかたない。こう言うしかないんだから。

「貴様から感じた魔力の気配が、この世界と同じならば

貴様にかかわろうとは思わなかった」

 

「そういえば……さっきも、お前の知らない魔力がどうとか、

って言ってたもんな」

 ここまではっきりと、お前のことなんぞ本来どうでもよかったのだ、

 って言われると地味に傷付くんですけどね……。

 

 

「そうだ。

この世界とも、マギアヘイムとも別の。

つまり、新たな異世界よりの干渉を受けた人間。それが貴様だ。

 

だから、俺はかかわろうと思った。

俺以上になんの力も持たない人間が、魔力とかかわって

無事でいられるのかは、わからない。だからこそ、なにかできないか。

そして、できるならば助力するつもりで声をかけたのだ」

 

「妙にマジだったのは、身の危険を考えたから……なのか?」

「そうだ」

 どこまでも真っ直ぐ。どこまでも真剣。

 厨二病キャラの言うただの厨二病話、つまり作り話のはずなのに、

 こいつの異世界に関する言葉には、異様とも言える説得力がある。

 

 だから、俺はつい話を聞いてしまっているのだ。真剣に。

「モブなんかに気をかけてくれて、ありがとな。

お前、近寄りがたいけど、いい奴だわ」

 また素直に出た。スルっと。

 

「異世界はなにをもたらすのかわからんからな。

たとえ面識はなくとも、危険からはさけさせてやりたい。

そう思うのは、力を少しでも理解できる者なら持つ心だと思うがな。

特にその相手が、クラスメイトならば」

 コロッケパンを頬張りながら、空に目線をやって言っている。

 

 ーーてれてんのか、これはもしかして?

 

 

「一人で、この世界の者にとっては存在しない物に、振り回される。

その様は、とても異様に映る。そんな人間がどう扱われるのか。

想像に難くなかろう?」

 

「ん? ああ。そうだな」

 お前が、似たようなもんなんだけどな……とは、

 この状況で言えるわけもない。

 

「一人でも協力者がいれば、その異様さは少しは緩和されよう。

体と心の危険、両方を回避するのは難しいだろう。

だが」

 そこで一呼吸。

 

「ここでもマギアヘイムあちらでも。

虐げられるのは、俺だけで充分だからな」

 続く言葉は、遠い目をして呟くように発された。

 

 こいつ、もしかしていじめられてたのか?

 

 

「お前のポケット。なんでも入ってるな」

 右のポケットから、350mlの缶ジュースを取り出し、

 プシュっと開ける中神に、思わず突っ込みじみた驚き声が出た。

 

「……あ」

 

「どうした、『やっちまった』みたいな顔して?」

 なにも言わず、中神はゆっくりと缶を上下に振り始めた。

「ああ、それ。果肉入りの奴だったのな」

 上下に振られるマスカットジュースを見て、表情の理由を理解。

 ついで、俺は吹き出してしまった。

 

 

「わ。わらうな」

 悔しそうな顔を、うっすらと赤くする中神を見て、

 いよいよ俺の笑いは、爆笑へとかわるのだった。

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