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第七話。レッツゴーアンダーワールド。 パート2。

「意外と長いな」

 上からメリーさん、俺、中神なかがみの順で梯子を下りている。

 つまり、中神が、一番最初に床を踏むって配置だ。

 この配置、ラブコメでは主人公がいるポジションだろうな。

 上を向いたらスカートの中が見えちゃうぜ系の、あれだ。

 

 いわゆるラッキースケベって奴だ。

 そりゃ俺も健康な男子中学生、ついつい上を向いたさ。

 ところがだ。

 まだ暗さに慣れ切ってないのと、メリーさんも気にしてるのか

 足の動きが最小限で、スカートがひらりともしてくれやがらなかったのだっ!

 

 脚は、よくそれで降りられるなってぐらいくっつけてるしっ!

 ……これが、鉄壁のガードと言う奴かっ。

 クラスでモブな俺には、主人公特権は得られないってことかっちくしょうっ!

 

 

「小人ども。己の大きさからしてみれば相当に長い道のはずだが、

梯子横の道を軽やかに駆け下りているな。魔力を持つだけある、と言うことか。

この身体能力、大きさが俺達と同じであれば、凄まじい物になるだろうな」

 俺の悔しさなど知る由もない中神、

 冷静に掌サイズたちの身体能力を分析している。

 

「そうですね」

 魔力と身体能力って関連あるんだろうか?

 中神、ついさっき鉄棒からおっこったけど、

 本人的には大したことなさそうだったか。ってことは、関係あるんだな。

 

 

「この道、螺旋階段になってるみたいです。

わたしだったら、こんな長さの螺旋階段なんて上り下りできませんよ。

長すぎて」

「だよなぁ」

 

「俺も無理だ。異界に魅入られし者よ、わかるか?」

「なにがだよ?」

 

 

「たとえ異界の者であろうと魔力を持っていようと、

この世界と同様、身体能力には個人差がある。

そして、戦いに適応できている者は、その中でも高水準。

更にこやつらのようなレベルともなれば、一握りと言ってもいい」

 

 こやつらってのは、止まらず螺旋階段になってるらしい梯子横の道を

 駆け下りてる、ツチワラベ二人のことだ。

「そうなのか?」

 

「そうだ。異世界の者であり魔力を持っていたとしても、

誰も彼もが主人公のように、並外れて強いわけではない、と言うことだ」

「なるほどなぁ」

 弱い主人公も強い脇役もいるけどな、って言葉は飲み込んだ。

 

 

「今の会話でわからんとは、そこの巨人タイタニーはバカと言うことだな」

「てめえなぁ!」

「フェイティっ!」

 ペットをしかりつけるような語調で、鎧騎士少女が声を張った。

 

「バカにバカと言ってなにが悪いのですか。

無条件に巨人タイタニーを持ち上げすぎです、お嬢様は。

人を見て物を言ってください」

 我慢しきれなくなったらしく、赤茶の髪の執事服少女、

 フェイティが今回は言い返した。

 

「っろう、人のことをバカだバカだって連呼しやがって……!」

「そのまま返すわフェイティ。あなたこそ、

無条件に巨人様を敵視しないの……っ!」

「そうだ、言ってやれ言ってやれ」

 

「己の体より遥かに巨大な生き物を危険視するなと言うのですか。

その人の好さは美徳。ですが、こと巨人タイタニー相手では死を招きます。

巨人タイタニーが、わたしたちの世界になにをしているか、

知らないわけではないでしょう。

全ての巨人タイタニーが、お嬢様の思うような善人ばかりではない……!」

 

「だからって!」

「だからこそです。バトラードの血として、あなたが優しすぎるからこそ、

その隙をわたしは埋めなければならないのです……!」

「あんまり足ドンドンやってると踏み外しますよ」

 声色柔らかに、メリーさんがフェイティに忠告している。

 

 言い方が、なんか遠くからそーっと言ってる感じだな。

 触らぬ神に祟りなしだけど、声はかけておきたいってところなのかもな。

 

 

「いろいろありそうだな、掌サイズ人間の世界」

「なにを他人の顏をしている異界に魅入られし者。

貴様とて、梯子の下り方には注意しろ」

「そこかよ? って言うか、俺別に変に力んだりしてないぞ?」

 

「下り方が雑になっている。踏み外したら、俺も含めてただではすまんだろう。

まだ少しありそうだからな」

 言い終えると、なぜか中神の下りる速度が上がった。

「お前こそ気を付けろよ中神」

 

「問題ない、少し速度を上げた程度ではな。

マギアヘイムの人間を、あまく見ないでもらおう」

「つい今さっき言ってたことと矛盾してるじゃねえか」

 言葉と同時に苦笑いになっちまった。

 

 

「終点だー! この程度距離があるー!」

 声がちょっと遠くなったし、中神が語尾を伸ばしてる。

 けっこうまだありそうだ。

「慎重にいきましょう、オカハヤさま」

 

「そうだな。にしても梯子って、ツルツルしてて

掴み続けてると手が滑りそうになるよな」

 と、言った直後。

「うおあっっ?!」

 ツルっと、指が梯子から一瞬離れてしまった!

 

「っいってっっ!」

 慌てて梯子を掴み直そうとしたら、ちょっとズレてたらしく

 左手の人差し指をぶつけちまったのだっっ!

「オカハヤさまっ?!」

 

「っっぶねぇぇ……! なんとか右手はつかめたぜ! え、あ、あれ?」

「どうしたんですか?」

「あれ、足がうまく梯子にひっかからない」

 慌ててたせいで、どうやら梯子から足がすっぽ抜けたらしい。

 足がブランブランしてる。

 

「こ、こえ。早くひっかけねえと……っしゃ横棒に当たった。後はちょっと上にっと。

ふぅ、あぶなかったぜ」

「聞いてるこっちも気が気じゃなかったですよオカハヤさま」

 安心したって感じの息交じりに言うメリーさんに、

 サンキューと疲労の息交じりで返す。

 

 

 そんなこんなありつつ。

 俺とメリーさんは、なんとか梯子を下り切ることができた。

 ーーが。

 

 

「ぎゃっ」

 

 

 メリーさんに着地されて、強制肩車状態にいきなりなって、

 俺は崩れ落ちさせられてしまった。

 な……なんか、ほっぺたから首にかけて、

 ほどよく弾力のあるここちよさが……。

 この状況……っ!

 

 ーー俺は今っ、メリーさんの太腿で顔を挟まれているっ!

 やったぞ! 肌密着系ラッキースケベにありつけたっ!!

 下着見えちゃいました系よりハイレベルだぜこいつはっ!

 

「あ、ご、ごめんなさい。やっと降りられると思ったら気が抜けちゃって。

今どきます、よいしょ あわわわっ」

「がっ?!」

 むっちりとした挟まれ心地は継続しているものの、

 むりやり引き倒された感じで、喜びよりも痛みが先行して来たっ!

 

「馬鹿者なにをしている!」

「す、すみませんカクジさん」

 

「な、なあ。俺の上でなにが起きてたんだ?」

 メリーさんの重みと幸せな挟まれ感覚が消えてしまった。

 名残惜しい、名残惜しいけど、ギシギシとした痛みがなくなったのは嬉しい。

 複雑な男心、野郎マインドである。

 

 

「貴様から離れようと、貴様に足が絡まっている状態のまま

メリーさんが後ろに下がろうとしたのだ。その結果、バランスを崩した。

だから俺が支えて、絡まった足を持って貴様から外してやったのだ」

「女子の太腿をなんの躊躇もなく持てるとは。お前それでも中学生男子か」

 体の調子を確かめながら、ゆっくり立ち上がりついでに言う。

 

「マギアヘイムでそんなことを気にしていたら、命が無駄に失われる。

だから助けるとなれば雑念を捨てろ、そう叩き込まれたゆえだ」

「だからって実践できるもんなのか?」

「魔力のなかった俺が、魔法のかわりにできることと言えば、

その程度だったからな。やるしかなかったのだ」

 

「どんな世界観で、どんな扱い受けてたんだお前マジで」

 

 

「魔力がなかった、ですか? カクジさん、今はそんなに大きな力を宿しているのに、

魔力がなかったんですか?」

「ああ。結果的に魔力を得ることにはなったが、

そのことがきっかけで、俺はこの世界に来ることになった。

詳細については触れるな」

 

「え、ええ。わかりました」

 ピシャリと言い切られて、メリーさん動揺してるな。

 中神にとって、この世界に来るきっかけとやらは、

 よっぽど触れてほしくないらしい。

 

 

 辺りを見回す。

 長目の梯子下りのおかげで、この空間の薄暗さに慣れたから、

 幸いなにも見えない状態にはなってないな。

 もしかして、このことを見越して梯子が長いのか?

 

「まだ下りてこないな、小人ども」

「ちょっと言い合いしてて時間ロスしてたからな」

 

「あぶないから普通に下りなさいフェイティ!」

「普通に下りてるじゃないですか、私は」

「そんなにぴょんぴょん、何段も飛んでなんて普段下りないじゃない、

やめなさいあぶないから!」

 

「どうやら、かなり近づいてきているらしいな」

「だな」

「なんだか、彼女たちの階段下りる音。気持ちいいリズムですね」

「言われてみれば、そうだな」

 

「今回俺たちは一定リズムで、それもこれほど音が大きくなかったからな。

おっかなびっくりの音と軽やかな音、この違いだけでも小気味よさは違うだろう」

「なるほど?」

「たしかに、そうかもしれないですね」

 なんて雑談してたら二人の姿が見えた。

 

 

「すげーな。あの位置から止まらずに走って下りてたはずだろ?

元気有り余りすぎじゃねえか?」

「これを俺たちと同じ縮尺で考えると……あやつら、体力は下手をすれば。

奴よりも上かもしれん」

「奴?」

 

「ああ。俺に魔王の魂を入れ込み、魔力の元をもたらした女。

蠱惑の魔女だ」

 俺の鸚鵡返しに答えた中神は、複雑な顔だ。

「蠱惑の魔女。こないだも、そんなこと言ってたような?」

 

 

「お待たせしました巨人様!」

「ついてこい」

「だからフェイティ……!」

「まったく息が上がってねえ。化け物かよ」

 

「失敬千万。お嬢様は騎士の名門、バレンハイン家のご令嬢。

化け物などとは万死! 体格に差があってよかったなバカ巨人タイタニー

そうでなければ、貴様は今ごろ私の魔法で呼吸が止まっているところだ」

「実際に化け物と呼べる存在がいないこの世界の、その地下の世界で

化け物と言う言葉が、悪い物として使われているか。面白い」

 

「貴様はバカではないとは思うが、いかんせん。知らないようだな、魔力を持っていると言うのに」

「どういうことだ?」

「魔力がこの世界に満ちている理由が、私たち小人タイニーだけではない、

と言うことだ」

「なんだと?」

 

 

「もし本当に貴様が魔王を宿す者であるなら、

その魔力が理由を見せてくれるはずだ」

「ほう。面白い話だな」

 

「その顔。心当たりがありそうだがな」

 この失敬千万なフェイティ、態度のわりには話をする時、

 動きを止めてまで相手の目をしっかりと見ているんである。

「さあな」

 なにかを含んだような、ニヤリとしてる感じの中神の声だ。

 

「たしかに。全ては魔王の魂を入れ込まれることになった、あの事件からか」

 先導二人が歩き始めて、それに続いた直後、そう懐かしむように言って、

 「因果とは、よく言ったものだな」、更にそう中神は

 苦笑したような声で小さく続けた。

 

「楽しそうだな、お前ら。って言うかよぉ、なんだよフェイティ。

中神にはずいぶん気安いじゃねえか」

「バカに語る舌など持たんからな。それと、気安く呼ぶな、バカめ。

耳が濁るわ」

「っこの……! バカバカ言うんじゃねえ! つうかなんだこの待遇の差は!」

 

「フェイティ。いい加減にしないと、怒るわよ」

「お……お嬢様。目が。目が座って……!」

「えっと、えっと。どうしたら……?!」

「気にするなメリーさん、そのうち収まる」

 

「呆れかえってんじゃねえよ中神!」

 こんな感じで、約一名から

 納得いかねえことに俺限定で

 散々な扱いをされながら、俺達は掌サイズの少女二人に案内されて、

 どこかへと進んでいくのだった。

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