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第七話。レッツゴーアンダーワールド。 パート1。

「どうやら、地下に行くみたいだね。

それなら一杯水のサービスだ。持って来るから、座って待っててくれ」

 そう言うとマスターは、俺達の返事を待たず店の奥にひっこんでしまった。

 お言葉に甘えて、手近な席に座らせてもらおう。

 メリーさんと中神なかがみも、俺の近所の席に座った。

 

「サービスいいんだな、マスターは」

 俺がそう言ったのに答えるみたいなタイミングで、

 水をコップに注ぐ音が奥から聞こえて来た。

 思った以上に、厨房とは距離が近いみたいだな。

 

「わたしたち小人タイニーにもよくしてくださいますし、

あなた方巨人様たちにもその心遣いはかわってないんですよね」

「裏通りにひっそりあるのがもったいないですね、このお店」

「でも、こういう店ってさ。逆にこうやってひっそりある方がよかったりするんだよな。

人が流れ込んだら、一人一人かまってもいられないだろうし」

 

「そうだな。もし人が多数いたら、貴様らに対する道を閉じねばならんかもしれんぞ。

踏み潰されたり攫われたりする可能性が出て来るからな」

 

「なるほど」

 メリーさん、

「たしかに、そうかもしれませんね」

 そして鎧騎士の方も中神の言い分に納得している。

 

 中神ってほんと、こんな口調のくせして

 あっさり気遣いできるんだよな。すごい奴だよ。

 

「はい、どうぞ」

 両手で一個ずつ持ったコップをくっつけて、

 そのくっつけた上に、一つコップを乗っけるって言うあぶなっかしい持ち方で、

 三つのコップを運んで来たマスター。

 

 その、バランス感覚を自慢してるようなポーズ、やめてくんないかなぁ。

 見てるこっちがひやひやするぞ。

 

 水だけに。

 

 ……ええ、すんません。忘れてください。

 

 

 コップをテーブルにおいた直後、乗ってる一つをすぐにテーブルに下ろした。

 やっぱ、不安定なんだろうな、あの状態。

 

「じゃ、ありがたくいただきますか」

「はい」

「そうだな」

 それぞれの前に置かれたコップを手に取って、

 俺達はマスターの心遣いを体の中へと流し込んだ。

 

「俺、けっこう喉乾いてたんだな」

 いっきに半分ぐらい飲んで、ふぅっと一息吐いてから俺は感想を言った。

「同じくだな。思ってもいなかったぞ」

 意外そうに言う中神。

 

「わたしは、ちょっと喉乾いたなーって思ってましたよ」

 一人だけ、メリーさんは違ってたらしい。

「そうなのか。男女の違いかね、その辺」

「かもしれないですね」

 そう言って、メリーさんは小さく微笑んだ。

 

 ーーぐ。か。かわいい。

 

「どうした異界に魅入られし者よ、顔がうっすらと赤いが」

「その名前で俺を呼ぶな! 特に知り合い以外が意識できるとこでは!」

「更に赤くなったぞ。大丈夫なのか?」

「問題ねえよバカヤロウ」

 全力で睨む。ウェイトレスさんたちに、クスクス笑われてるんだよこっちはっ。

 

 最初の赤面はメリーさんに対してで、

 更に赤くなったのは、「異界に魅入られし者」って呼ばれて恥ずかしくってだ。

 言うまでもなく。

 

 

「第一声でも思ったけど、ずいぶんと個性的なんだね、君は」

 笑いを堪えながらマスターは言う。

「だろうな」

 他人事たにんごとのように言う中神だけど、頷いて答えたってことは

 自覚があるらしい。

 

 それなのに、この口調をやめようとしないんだからすげーよな、

 やっぱし中神って。いろんな意味で。

 

 

「さて、飲み終えたし。行くか」

 「さ」と同時にコップをテーブルに少し強めに置いて、

 俺は勢いを付ける意味で言った。

「そうだな」

 

「ふぅ。はい」

 メリーさん、コップを置いた音がしなかった。

 ものすごくそっと置いたな、それもあたりまえのようにやってるわ。

 すげー。俺絶対音出るぞ、むしろあえて出すぞ。

 かっこいい気がするからさ、そういう音って。

 

「入口までは、ぼくが案内しよう。お客さんは、普通入らない場所にあるからね」

 マスターはそう言う。どういうことだと口を開く前に、

 「ついてきてくれ」って言ってさっさと、

 マスターは厨房の方へ歩いて行ってしまった。

 しかたなしに続く俺だけど、中神は動こうとしない。メリーさんもだ。

 

 

「どうしたんだ?」

 立ち止まって振り返り尋ねてみる。

「忘れているだろう貴様。地下世界の住民の存在を」

「……あ、いけね。そうだったな」

 

 言葉後に俺は動こうとしたが、それよりも早く、

「乗るがいい」

 中神が左腕をテーブルに乗せていた。掌を天井に向ける形で。

 

「ありがとうございます巨人様」

 なんの疑いもなく、鎧騎士少女は中神の左手にぴょんと飛び乗った。

「ほら、フェイティも」

 呼びかける鎧騎士少女。ううう、と迷ったようなうめき声の後、

 フェイティはやっぱりしぶしぶと中神の左手に乗った。

 

「礼は言わんぞ」

「好きにしろ」

 そんなやりとりの後、中神はようやく歩き出す。

 今のやりとりで、なにゆえか鎧騎士少女がフフフと嬉しそうに笑った。

 

 

「やめろ。女からの施しは受けんと言ったろう」

「回復魔法受けたんですし、今更ですよカクジさん」

 なんのこっちゃと再度後ろを見れば、メリーさんが中神の腕を掴んでいた。

 どうやら、腕が揺れるのを阻止してる様子だ。

 

 メリーさん、左手で中神の手首の辺りを、右手で肩の辺りを掴んでいる。

 その結果メリーさんが歩きにくそうだ。

 こいつら連繋取れるようになるの早過ぎだろ。

「メリーさん。うっかり中神の足踏んでころばすなよ」

 連繋可能になる早さに驚きはするものの、忠告はしておく。

 

 ドミノ倒し状態になったら目も当てられないからな。特にツチワラベたちが。

 

「気を付けてます」

「あぶなっかしいなぁ」

 車間距離ならぬ者間距離を取るため、俺はマスターが向かった厨房に、

 早歩きで向かうことにした。

 

 

「やっと来たね。じゃ、入り口を開くよ」

 そう言うと、どういうわけだかマスターはしゃがみこんだ。

「なにするつもりなんだ?」

 

「まあ見ててよ」

 楽しそうに、まるで子供みたいに言うマスターに、

 思わずクスっとしてしまった。

 

「よっっと」

 言いながらマスターは、床の一箇所を横にスライド。

「なんだと?」

「すげー。収納でも出て来るのかと思ったら」

「地下への……梯子、ですか?」

 

「そう、梯子の左隣には、ツチワラベ用のもあるんだ」

「この細いパイプみたいな奴ですか?」

 俺の問いには、そうだよと頷くマスター。

 

「今横に動かした床の、ちょうどわたしたち用の梯子の部分には、

しっかり、わたしたち小人タイニーが通れる、出入り口の小さな孔があるんです」

 鎧騎士少女の解説に、俺達三人からすげーって言う意味の声。

「ほんとにツチワラベのためにも作られた店なんだなぁ」

 感動する俺に、「物好きだな、マスターの祖父と言うのは」と中神。

 

「でも、素敵な心遣いですね」

 メリーさんが、またにっこりして言った。

「そうだね。さ、道は開いた。気を付けていってらっしゃい」

 

 

「ありがとうございます、マスター」

「恩に着る」

「いやいやなんのなんの。ツチワラベに興味を持ってくれた人は

久しぶりだったんでね」

 心からの笑み、そうわかる顔と声で言うマスター。

 

 俺達三人……いや、鎧騎士少女もプラスした四人から、

 柔らかい笑いが起きた。

 

「ツチワラベたちに、悪い印象を持たれないようにすると吉。

そう思うよ、ぼくは。現に今だって、ぼくらを

よく思わないツチワラベがいるわけだしね。

誰に対しても第一印象は大事だからさ。

特にツチワラベたちの場合は、反撃が怖いって聞くしね」

 

 マスターに冗談めかした感じで言われ、

「善処しますよ」

 と答えた俺と、

「わたしも努力します」

 メリーさんと、

 

「足元に気を付けろ。そう捉えさせてもらうとするさ」

 一人だけ妙な答えを返した中神だ。

 

 

「じゃ、改めて。いってらっしゃい。

くれぐれも、梯子から落ちないようにね」

 俺達の言葉に頷いて、そう注意してくれたマスターに送り出されて、

 

 

 

 俺達は地下世界へのはしごへと足を踏み出した。

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