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第一話。夢から始まる否日常。

「ふぅ」

 パソコンの音声編集ソフトの、録音停止ボタンを押して、

 俺は深く息を吐いた。つい今まで録音してたのを、停止させたからだ。

 

 しかし、俺の心には達成感と同時に

 『なにやってんだろうな』

 って言う、自己嫌悪が広がる。

 

 

 なにをやってもうまくいかない。

 そのもやもやを発散するために、自室で一人

 キャラクターがやってる設定の、ラジオごっこをやっている。

 それも毎週水曜日の夜と言う、無駄にこだわったタイミングで。

 

「きっとこういうの、黒歴史って言うんだよな」

 

 こう思うから余計に、なにやってんだろう感がするんだって思う。

 自分でわかってるのに、恥ずかしい記録を、

 意識的に積み上げてるんだから。

 

「はぁ」

 仰向けにベッドに転がったのと同時に、また息を吐いた。

 

 パソコンとマイクさえあれば、本当にラジオとして発信でき、

 世界の人と繋がれるこの時代に、なんであえて一人で

 ラジオごっこをやっているのか。

 

 素で、1.5人喋りするのが恥ずかしいからだ。単純な話。

 1.5人なのは、画面の向こうの人達

 ーー こう表現すると、すごい配信したくなるんだよなぁ。 ーー は、

 チャット形式で、文字リアクションだから。

 

「こうやって思いきれないところが、中途半端なんだよな、俺」

 自己満足でいいと思いながら、誰かに見てもらいたくなる。

 まったく。自分の思考回路が、自分でめんどくさい。

 

 厨二病キャラで通せる人間が羨ましい。

 うちのクラスには、まさにそういう奴がいる。

 リアル中二からすると、たとえ変人扱いされてようと、

 人と違うなにかを通せることは、ひどくかっこよく見える。

 

 そいつとつるんでる奴等のせいなのか、

 厨二病キャラの奴、中神学二なかがみかくじは、

 ただ、面白い奴、程度の扱いで済んでいる。

 

 まあ……他の奴等の片方が、自分の動きに口で効果音つける、

 かわいいんだけど、変な女の子だからなぁ。

 厨二病程度の特色キャラだと、むしろキャラが薄いのかもしれない。

 

 そして、そいつらのところには、なぜか明るい空気が展開される。

 クラスでモブい俺が、手に入れられるべくもない空気が。

 

「人と自分を比べてること、多いな。そういや俺」

 また、息を吐く。一回マイナス入ると、

 どこまでも行っちまうんだよなぁ。

「……寝よう」

 

 思考回路を動かすのを、やめたくなったら寝る。

 これに限る。

 と言うわけで。俺は布団にも潜らず、枕に頭を乗っけただけの、

 昼寝でもするみたいな状態のまま、寝ることにした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「おい、貴様。話がある」

 突然だった。

 

 

 翌日、木曜日の昼。

 俺は厨二病キャラの奴、中神学二に声をかけられた。

 あまりに突然すぎて、とっさにはリアクションを返せなかった。

 いったい。俺のなにが、こいつの興味を引いたんだろうか?

 

「なんだ、話って。それも改まった感じだし」

 疲れた声色になってしまったのは、しかたないんだ。

 今日は起きてっからずっと、薄い頭痛がしてて、

 あんま人と話をしたくない。

 

 内容は覚えてないけど、なんだか妙な後味の残る夢を見た。

 この頭痛、そのせいだろうか?

 

 

「あまりこの場でするのは、貴様に好ましくない話なのでな。

少し、天を望めし高き場まで来てもらうぞ。

今ならおそらく、人はいないはずだからな」

 

「……なに、いってんだ。お前」

 どこに行くことになってるのかは元より、

 こいつがなにを言いたいのか、そのものがわからない。

 

「疾風の申し子、書物より力をこいねがう者よ。

少々、話し相手ができた。しばし、天を望めし場まで行ってくる」

 教室の前の方に、そんな暗号のような言葉を投げかけた、

 引くほどに堂に入った、厨二病キャラの男。

 それに答えた二人、リアクションは全く逆だ。

 

「了解。飯、食いそびれんなよ魔王様」

 厨二病男と付き合いが長いらしい、たしか武内だったか。

 そいつは、この男の言ってることがわかってるらしい。

 

「え、あの、はやて? 中神なかがみ、どこ行くって?」

 自分の動きに、効果音をつける女子。

 たしか小説こときって言ったか。そっちは、厨二病男

 中神の言うことが、わからないらしい。

 

「屋上行って来るってさ」

「屋上なんだ」「屋上なのかよ」

 小説こときとハモってしまった。ハモらざるをえないだろ。

 いったいどこが屋上だったんだ、今のの。

 

「話し相手とやら。学二かくじの言い回しで、頭痛くなると思うけど、

レアケースだから、ありがたがって聞いてやってくれ」

「なんだその理由?」

 

 思わず出た小声突っ込みなど気にせず、

 中神は静かに、いくぞとだけ言って、

 さっさと、教室を出て行ってしまった。

 

「マイペースな連中だな」

 はぁ、と一つ溜息を吐いて、俺は中神に続いた。

 

 

「で、なんなんだ。俺に都合が悪い話って」

「焦るな。まだ話すべき場所ではない」

 廊下に出てすぐ聞いてみたら、きっぱりと言われた。

 

「天を望めし場で話すことの、なにが不満なのだ貴様」

「お前と屋上に二人で行く、って言うシチュエーションがいやなんだよ。

俺は武内とか小説こときと違って、お前を変人として見てるからな」

 なにも隠さず言う。己を貫く奴はかっこいい、とは思うが。

 

 ーーやっぱ、遠目に見るのと実際話すのとでは、印象はかわるものである。

 

 厨二病キャラの奴と話すのが、こんなにめんどくさいとは。

 言葉を理解するのが一苦労って、ただのいやがらせだろこれ。

 なんで武内は、平気で理解してんだ、こいつの言うこと。

 やっぱ、慣れなんだろかなぁ?

 

 小説こときの方も、こいつと普通に友人として接してんのが、

 最早おかしいの領域だ。他の、こいつに平気な顔して

 かかわってる奴等もか。

 

 

 ギイイと、古臭い音で鉄製の扉が開いた。

 この学校の屋上は開放されている。

 もしものことが起こらないように、

 だいたい、2mぐらいの高さになるように、

 ポールが並んだタイプの柵が設置されている。

 

「やはり、誰もいないな」

 確認したらしい中神は、一つ頷いてそう言った。

 屋上に踏み出した中神は、続けとばかりに扉を抑えている。

 それしか道がないので、俺は屋上へと踏み出した。

 

 上履きのせいで、パコパコって言う少し間の抜けた足音が、

 空に広がった。

 満足げに大きめに頷いた中神は、ゆっくりと扉を閉める。

 ドンと少しでかめの重い音がして、軽く俺はビクついちまった。

 

 

「貴様。昨夜、なにがあった」

 なんの振りもなく、いきなり本題か。ちょっと面喰ったぞ。

「なにが、って。なにもねえけど?」

 いきなりなにを言い出すのか。俺はそのまま、事実を答えたが、

 どういうわけだか、納得してない顔だ。

 

「なんだよ。なにが気に入らない?」

「貴様には、僅かに魔力の残滓ざんしがある」

「……は?」

 クソマジメな顔で、なに言ってんだこいつ?

 

「それも、俺の故郷。マギアヘイムの魔力とも、

この世界の物とも違う。だから、なにがあったか聞いている」

「お前……よく、恥ずかしくないな。そんなこと平気でペラペラ」

 

「ゆえに、俺はここを選んだ。

俺が、こんな話を貴様にしているのは、見られたくあるまい」

「お前、変なとこまじめだな」

「で。本当になにもなかったのか?」

 まだ真剣さを崩さない。

 

「しつっこいな、なにもねえって」

「なら、その異質な魔力の残滓は、どう説明する」

「お前の厨二設定に、俺を巻き込むな。

教室に戻らせてもらうぞ」

 

「なにもなかった。ここまで頑なにそう言うのならば」

 俺が背を向けたところで、なにか考え始めたが知ったことか。

 

「夢」

 

「……なに?」

 今、一瞬。頭痛の濃さが増したような?

「貴様がなにもないと言うのならば。夢の中でなにかあった、

としか考えられん。どうだ。なにかひっかからないか」

 

「ず。ぐぅ……」

 急激に濃くなった頭の痛みに、俺は頭を抱えて膝をついていた。

「こ。れが。『うっ頭が』って、奴か。

実際、起きる、なん て……」

 なんだ。俺はいったい……夢でなにが、あったんだ?

 

 キーンと鳴ってる耳鳴りのような音と、

 ガンガンなる頭を抱える俺。

 

 

 頭の中では、なにか……。

 なにかがぼんやりと、おぼろげに浮かび始めている。

 ーーもしかして。

 変な後味の夢の、味の正体って。

 この……記憶なのか?

 

 

「どうだ。収まったか?」

「あ、ああ。気にならない程度には、な」

 ようやく楽になり、俺は頭から手を放し、

 よろよろと身体を起こす。

 

 大した時間じゃないだろうけど、まだ余韻の残る、

 内側から殴られてるような、頭痛に襲われ続ける俺には、

 ひどく長く感じられた。

 

「どうやら。俺は。よく、わからない女子に。

目を、つけられてる。らしい」

「ほう。よくわからない女子、とは?」

 

 頭に残るのは、「メッサーさま」と俺のことを、

 一人キャララジオごっこの時の、キャラネームで呼ぶ少女の声と、

「覚えてるのは、自分の事を『夢超えの民』とか呼んでたこと。

俺の趣味を知っていること。それと、

必ず会いに行く、ってメッセージ」

 

 そしてもう一つ、

「名前がメリー……メリー……」

 蘇った記憶。その中の、女子の名前と言うおぼろげな部分。

 そこにある名前を思い出し切れず、思い出せた名前を復唱して……俺は。

 

「メリーさんっ? メリーさんっ!

メリーさんに目ぇつけられたのか俺はっっ!」

 思い出さなきゃよかったっ!

 

 

「おちつけ」

 中神の右の拳が、俺の額を直撃。

 「くあっ」と呻いて、俺は顔をしかめる羽目になった。

「そんなに強くした覚えはないのだが」

 不思議そうに呟く中神。

 

「たしかに強くはなかった。けど、

不意打ちされたんでびっくりしたんだよ」

「そうだったか。だが、貴様の錯乱を止めるには、

悠長に、殴るぞ、と宣言するわけにもいくまい」

 

「ま……まあ、な」

 こいつ。口調はおかしいけど、気遣いのできる奴なんだな。

 

 

「しかし夢超えの民か。

やはり、マギアヘイムでも聞いたことのない種族だな。

そいつらの能力か?」

 

「わかんねえよ。夢だったから、勝手に状況が進んでったし、

俺も勝手に喋ってたしな。

あの女子が言うことを、一方的に聞くだけだった。

夢の俺は、あっさり納得してたな」

 

 

「さもありなん、か」

 難しい顔で、中神はそう返して来た。

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