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月下vision作品 

アイオライト〜誰も知らない勇者の話〜

作者: 月下vision

誰にも教えたくない、幼い頃の思い出がある。

彼女との婚約が決まった頃の話だ。片方ずつお揃いのピアスをつけて彼女は僕に言った。

「これでもうずっと一緒ね。」と。


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青い空が見える。

途轍もなく重い衝撃を受け、闘技場の舞台の外で私は仰向けに転がっていた。視界の端に映るのは、満身創痍の茶髪の男。私が決闘をしていた相手だ。先程まで、私は彼との決闘で優勢であった。それもそうだろう。平民の彼と生まれた家庭に恵まれて、幼い時より世界一の才能と謳われ、かつ努力し続けた私とでは明らかに差があったからだ。しかし、なぜ今私が地に背をつけているのか?簡単なことだ。彼が・・・勇者レインが覚醒したからだ。


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「レリクス、泣かないの。あなたが聖剣を抜けなかったって誰も責めはしないわ。」

これは7歳の時、聖剣の儀を執り行い、無様に失敗した自分に母が言った言葉だ。私が聖剣の儀を行なったのは、国1番の神童と謳われていたことが主な原因だが、もう一つ理由がある。

あの婚約の日から一年後、彼女が神託により聖女に選ばれたからだ。それが意味することは魔王の復活。それを打倒する勇者が生まれているということ。しかし、その神託は私にとって違う意味を持っていた。聖女と勇者は惹かれ合う。なぜなら、神に選ばれた運命だから。人の限界を超え強大な魔王の力を超えるのは、人の心の力。その力が最も強くなる組み合わせを神が選んだものが、聖女と勇者。

私にとってその事実は、自分が勇者にならなければという意思を作り上げるものだった。勇者にならなければ、彼女を誰ともわからない奴に奪われる。今だからこそその恐怖を理解しているが、その事実は幼い私にとって理解していなくとも怒った乳母や、嫌いなピーマンよりも遥かに怖いものだったことは想像に難くない。だからこそ1年間それまで以上に努力した。しかしその結果は残酷であった。


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「レリクス!幼い頃のあなたはこんなに性格が悪くなかったわ!なぜ、レインを影でいじめるようなことをしたの!」

この決闘を受ける前に彼女が私に言った言葉だ。

私はレインをいじめたことはない。きっと私の家の家臣の子供達が、私を放って彼女と仲良くしているレインにちょっかいを出したのだろう。良かれと思って、私のために。

実際、私のお友達役の人物らが彼をいじめているのは知っていた。しかし、私はそれを咎めるようなことはしなかった。なぜなら知っていたからだ。まだ公になっていないが、彼が勇者であるということを。私の好きな彼女を将来奪うであろう人物。私が先陣をきって彼をいじめるようなことは立場上出来ないし、私の性格的にできることではないが、いじめられている彼を見て見ぬ振りをするのを誰が咎めるだろうか?将来の恋敵に塩を送れるほど私は出来た人物ではなかったのだ。


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私が勇者に選ばれなかったことで、すぐに婚約破棄とならなかったのは不幸中の幸いであろう。そもそもこの婚約は王家側が無理を言って私の家と取り決めたことだ。それが彼女が聖女に選ばれたからといって、即破棄にするのは我が家をないがしろにしていると臣下たちに示してしまうことになるからであろう。幼い私は、深く考えず彼女とまだ離れ離れにならないで済むと安心した。未来が苦痛に満ちているとも知らずに。


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決闘に負けた後、私は玉座の間に呼ばれた。

私は、配下の子たちの罪を庇い彼女との婚約破棄並びに国外追放を言い渡された。

国を去る間際に、彼が勇者になったことのアピールの為の披露宴があり、彼の横で幸せそうに笑う彼女を見た。


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空に浮かぶ魔王城が光の奔流と共に崩れていく光景を、空を駆ける船の上で勇者レインと聖女マリアが見ていた。

「やっと終わったのですね。魔王との長いようで短い戦いが。」

「ああ、俺たちが成し遂げたのさ。これからは平和な時代が来る。」

そんな会話の中で、 唐突にパリンッと音がした。

「おい、マリアお前のピアスの石割れてるぞ?魔王との戦いの最中にどっかにぶつけたか?」

「あら、そうかもしれませんね。だいぶ古いものですし、気に入っていたのですが、仕方ありませんね。」

「王都に帰ったら、新しいのを買ってやるよ。しかし、出会った当初からつけてたが、そのピアス大事なものだったんだろ?」

「どうでしょうか?貰い物だったのは覚えていますが、なんだったのかは覚えていません。」

そう会話しながら勇者たちは長い旅路を終えていく。


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「勇者め、してやられたわ・・・。しかし、私はまだ死んでおらん。フハハハハ、まんまと騙されおって。このエリクサーで復活し、今疲れ果てた勇者を殺せば、この世界は我がものよ!」

勇者が去った崩れゆく魔王城の自分しかいない玉座の間にて、魔王はそう呟いた。しかし、その台詞を聞く者が一人いた。

「やはりな、生きていたか。彼女が無事に帰る為だ。魔王よ、悪いが私と一緒に死んでもらう。」

その瞬間玉座の間が、光に包まれた。

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ーーーいいですか、このピアスには魔法がかかっています。このピアスについている宝石の名前はアイオライト。意味は真実の愛、一途な愛。これを錬金術によって魔法石化しております。この魔法石は持ち主が死ぬまで決して壊れません。魔法石したアイオライトの意味は『死が二人別つまで愛し合う』。故に王侯貴族の間で婚約を示す意味で使われております。御二方にはこれをこれから一生片方ずつ付けていただきます。片方が死ぬまで決して割れない石。片方が死ぬまで片方を愛し続ける。王家と公爵家の婚姻にぴったりな石ですね。ーーー


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崩れゆくままに時間が止まってしまったような玉座の間にて、息も絶え絶えに男が二人死闘を繰り広げている。レリクスと魔王である。魔王はレリクスの張った封印結界を解こうと、レリクスは魔王を結界内に止めようとして戦い続けた。

この戦いは側から見ればレリクスが押しているように見えるだろう。しかし、実際はそうではない。

「・・・はぁ、はぁ、いい加減諦めたらどうだ。いかに貴様が人の限界を超え、我すら圧倒する強さを持っていようと、勇者でない貴様に我は倒せん。それに貴様の魔力は、無尽蔵にある我と違いもうすでに限界であろう。」

「ああ、そうだな。しかし私は負けられんのだよ。この身は彼女の命を守るために使うとあの時決めたからな。だから魔王、これで最後だ。私は私の全てを賭ける。」


そう言い放つと彼は自らの胸に手を突き刺した。そして、黒い刀を取り出した。深い、深い、夜より暗いされど禍々しさはなく、むしろ神々しささえ感じる刀を。


「っな!あり得ん。なぜ貴様がそれを持っているっ!それは、それはっーーーー!」


彼が刀を振るう。その瞬間、凄まじい光の奔流と共に魔王は爆ぜた。光が収まったのち、そこに残ったものは清々しく蒼い空だけであった。


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ーーーいい、あなたが聖剣を抜けなくても私は構わないわ。このピアスはあなたと私の婚約の象徴であると同時に、あなたが私の勇者様であるという証明でもあるのよーーー



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