6・『お付き合い』始めました。
一年越しの、再開です。
5話まで改稿してますが、内容は特に変わってません。
多田 直子は、今何故か推しメンだったツンデレ、永石 章とお付き合いすることになった。
直子曰くこれは『棚ぼた的超ミラクルラッキーパンチ』であり、彼女の『90年代少女漫画スキーの性癖』と合致しないという。
むしろ『乙女ゲームにヒロイン転生して悪役令嬢(正規ヒロイン)を押し退けて推しをGETしました。』という、どちらかというと現代的な、ライトノベル小説コミカライズ的ヒロインの座についてしまった。
だが転生悪役ヒロインの如く、直子が『私がヒロインだもの!』と頭にお花畑を構築しているかというと……当然そんな筈もなく。
これは乙女ゲームではなく、攻略本は存在しない。しかも直子は、『ゲームだとしたら、私はモブである』という謎の自負を持つ。
これはあくまで棚ぼた。
ラッキーなのはもう本当にラッキーで、とても幸せな毎日だが……
ハッキリ言って直子は、超絶不安なのだった。
終業の鐘が鳴ると、章は直子を席まで迎えに来る。
「──多田、帰るぞ」
「あっ……うん!」
ぶっきらぼうな態度(でもわざわざ迎えに来る)──
ツンデレスキーの直子にとってはなによりのご褒美である。実はこれが聞きたくて、帰りの用意をわざとモタつかせていた。
ふたりは同じクラスだが、どちらも通常は同性の友人といるため、ほとんど学校内で共に過ごすことはない。しかもどちらも初めての恋人……なにをしていいかよくわからないところのある、ふたりの関係は非常に初々しい。
直子は、みどりと章が幼馴染みであることから、周囲に『自分と章がどういう感じで見られるか』を密かに心配していた。
だがそれは杞憂に終わる。
なんのことはない、章が自分の友人達に自慢していたからである。
彼は直子が思うほど硬派ではないし、初めての彼女に浮かれていた。
女の子の前では格好つけたがるのは、章に限らず思春期少年あるある……照れもあって人前ではぶっきらぼうな態度を貫いている。だが実際は自慢したくて堪らないのだ。
というか、既にしている。同性の仲間内では滅茶苦茶自慢している。
そもそも章がみどりの恋愛事情に巻き込まれていたのはもう大分前のこと。
直子とのことがあったあたりでは、彼自身語っていたように『謎の恋愛トルネード』からは既に脱け出しており、未だ残る余波(※風評被害)を迷惑に思っていたのだ。
もっとも、あまりよく知らない周囲の人間の中には『みどりにフラれたが立ち直り、新しい彼女ができた』と思っている者もいないではない。だがその大半は、そこまで章にも直子にも興味はなく…………また、章当人にしても、どうでもいいことだった。
そう、どうでもいいことなのだ。
──章にとっては。
だが、直子にとっては物凄く気になること。
そして……それよりも気になることがあった。
『お前こそなんにも知らないくせに……俺の前でそういう顔、すんなよ』
『……どういう、意味?』
『わからないなら、いいよ……もう』
──あの日の章とみどりのやりとり。
(アレは遠回しな告白……だと思ってたんだけど……)
じゃあ一体自分は何故彼の隣にいるのだろうか。
全く解せない。
しかもあれからみどりは明らかに章を意識していたのだが、章の方はむしろ彼女に、より塩対応になった気がするのだ。
そして章が周囲の友人らに自分との関係を恋人だと公言すると、みどりも必要以上に彼に声を掛けることはしなくなった。今まで幼馴染みであることから『あっくん』と呼んでいたのも、今では『永石くん』に変わっている。
もともとみどりは空気を読む、人当たりの良い子だ。だからこそ女子にも表立って嫌われたりしないのだから。
だからといって、直子のモヤモヤがなくなる訳ではない。
あの時のやりとりで、章が発した言葉の真意を、どうしても尋ねる必要があった。
だが…………その勇気が、でない。
(もし……もしも竹田さんへの想いを断ち切る為に、タイミングよく現れた私と付き合うことにした……とかだったら)
それでもいい、とは言い難い。
(そうしたら──私、きっと……
『 協 力 す る 』っ て 言 っ ち ゃ う も ん !)
──そう、直子にとっての『最推し』は章だが、ヒロインであるみどりもまた別方向での『推し』である。
直子は既に自らの現実として章が好きだ。
しかし、直子の予てからの妄想的に『最推し』×『推し』は正に『推しカプ』。似合いのふたりである。
そして自分は『モブ』転じていまや『脇役』にまで成り上がってしまった。
だがやはり、ヒーローと並ぶには圧倒的な力不足感。
もしも章が「実はみどりが好きだ」と言ったら、協力するしかない。それもオイシイポジション……そう自分に言い聞かせて。
(ああああでも今の立ち位置が幸せ過ぎて、どうしても聞けないよぉぉぉぉ!!!)
聞きたいが、聞けない。……聞きたくない。
だがこのまま不安と疑念をかかえているのも、耐えられない……直子の乙女心は揺れていた。
さっさと聞いてしまえばいいものを……
ご存知の通り、章はみどりを幼馴染みとしか、見ていないのだから。
だがそうは問屋が卸さない。
聞かないことで直子は余計な不安と妄想を順調に広げていた。