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5・誤解はあれど、概ね問題はない。

 

 次の日直子は気まずかったが、もともとそんなに章と仲がいい訳ではない。男女ソコソコ仲のいいクラスではあるが、章も直子も基本絡むのは同性のクラスメイトだ。


 直子と同様に、昨日の章のあれを告白と受け取ったみどりが章との間に微妙な空気を醸しているのを、直子は微妙な気持ちで眺めていた。


  (竹田さんだって、あんなふうに言われたらときめくよね……)


 そう思うとなんだかやっぱり胸が痛い。


 気持ちを自覚するのは辛い。

 故に直子は、かねてからの観察行動で身に付けたスキル『見てない風を装い視界にさりげなく入れ、誰かに悟られないタイミングでちょいちょいガッツリと見る』を封印していた。



 だから直子は気付かなかった。

 意識しているのがみどりの方だけであることに。



 章はむしろ迷惑そうな部分をあからさまに出すようになった。


 昨日の出来事によって章は直子が気になって仕方なかったので、下手に誤解を受けたくはなかったのだ。




 ──そして放課後……


  「あっくん一緒に「あ、俺今日用事あるから」」


 みどりが誘い終える前に断って、章は教室を出た。


  (みどりには悪いが……今あいつの相談なんて聞いてやる余裕は俺にはない!)


 なんせしょっちゅう恋愛している彼女と違い、章にとっては滅多にないチャンスである。『まずはお友達から』始めたいところだが……なんとなくアッサリ好きになれる気がしている。


 昨日のことがあったせいで章は今日、直子を目で追ってしまっていた。



 それがどういう感情からなのかは大したことではない。『ときめける相手かどうか』、というのが大切なのだ。



 正直なところ直子のことは殆ど知らない章だが……ときめいてはいる。目で追って感じた直子の性格は、素直で温厚で、ちょっと流されやすい──


 全然嫌いじゃない、そういうタイプ。むしろ好き。


  (気付かなかったけど、可愛いじゃん……多田)


 もっと仲良くなりたい。

 今既にドキドキしているが、もっとドキドキしそうな予感。




 章は廊下の隅で直子を待ち伏せした。


  (これで勘違いとかだったら恥ずかしくて死ねるな……)


 だが直子が自分を見ていたことは間違いではない。でなければあの態度はなんだというのか。



 直子は友人である宮内と教室から出てきた。

 宮内はジャージを着用しており、部活に行くようだ。だが章は二人が別れるのを待たずに声を掛けた。

 みどりに絡む先輩二人のように、これみよがしに声を掛けるのではなく、極力人が少ないタイミングを待って。


  「……多田。 ちょっと昨日のことで話したいんだけど」

  「あ、うん…………」


 声の掛け方も、『なにか突っ込まれた時に言い訳が利く感じ』──結構悩んだ結果、これにした。アドリブはあんまり得意ではないので、予め考えておいた。


 派手さも含めて、みどりに絡む先輩はなぜあんなに目立つ形をイチイチとるのかが不思議だ。自分にはできそうもない。



 直子にしてみれば、何故声をかけられたのかがわからなかった。今日の二人を見るに、みどりが章を意識しだしたのは明白……そのままスルーしてくれるものだとばかり思っていたのに。



  『人の恋愛を覗き見するような真似、やめろよ』

  (※厳しい口調で)


  『あのおかげでみどりが俺を意識するようになった』

  (※ノロケと報告)


  『アンタ、俺のこと好きなの?』

  (※嫌悪を露に)



 ……等々、とりあえず言われるととてもキツい、言われそうで嫌な言葉の想像を膨らませておく。いざ言われたときになるべく傷つかない為の布石だが、どれも自分には耐えられそうもない。


 絶望的な気持ちで、前を歩く章の後ろに従う形で歩く。




  (──とりあえず謝るしかない……!!)


 人気のない、外の非常階段。

 その扉を開けようとした章の背中を見て、直子は覚悟を決めた。

 他人に聞かれないように章が計らってくれていること自体が、その後押しをしてくれたのだ。


 非常階段の踊り場に出て、扉が閉まる。コンクリートでできた非常階段。それは校舎の壁に直接面していない部分も、直子の胸あたりまではあり……それなりの安心感があった。校舎内と違って、音も響かない。

 直子は章がやはり優しいことを再度改めて認識し、感謝した。


 勇気と共に、声を出す。


  「ごめんなさい!」

  「!?」


 いきなり謝られて、章は少し困惑しつつ……同時に期待もする。


  「……えっと、多田」

  「私……永石君が言った通りで……、」


 ──ゴクリ。


 章は、唾を嚥下する音が物凄く大きい気がして恥ずかしかった。


  『永石君が言った通り』──顔を赤くする直子の、不安そうな表情。


  (これは……期待せざるを得ない。 っていうかコレ期待していい展開だよね? だよね?)


 誰に聞いてんだという質問を脳内で繰り広げる。

 間が嫌だ。(っていうか、俺、なんて言ったっけ?)……とか、色々思う。平静を装ってはいるが、実のところ彼の感覚としては『地に足がついてない』や『浮き足立つ』の表現のように足がふわふわしており、なんならちょっと浮いてんじゃないのかな、という感じだ。

 章の脳内で『ドラえもんはちょっとだけ宙に浮いている』というどうでもいい豆知識が一瞬だけ過った


 その時だった。



  「──ずっと……っ永石君のこと見てました!!」





  (キタ──────────────!!!)

 ※表向きはあくまで平静を装ってます。



 

 初めての告白に舞い上がる章。(多分このときちょっと浮いた)

 事実、まぁ……告白ではある。


 表情を崩さないようにしたまま、微動だにしない章だが、内心では激しく拳を何度も前後に突き出すというガッツポーズ的な行動を繰り広げていた。そして語彙は少ないなりに内心はとても饒舌。『マジで』『告白』『初めての』等、同様の単語の二つか三つ程度の組み合わせでできた言葉を心の中で沢山、口にしていた。


 その一方で本体は言葉が出ない。

 ドキドキとか、よく思われたい(カッコつけ)とか、ちょっとの疑いとか。

 ……思春期は特に色々大変なのである。


  「えーと……」


 恥ずかしそうに俯いて、自分の反応を身体を固くしながら待つ直子に、章の胸はときめいた。

 思った以上に早く、好きになりそうな予感。


  (ヤバい、可愛いな、とは思ったけど……更に可愛く見えてきた)


 勘違いでなかった場合、お友達から始めるつもりだったが……もう計画を変更してもいいような気がする。


  「多田……えっと、見てたって……」


  (いやでもコレ、なんて答えるのがいいんだ?)


  『好きです』とか『付き合って下さい』なら答えようがあるが、『ずっと見てました』と言われてしまった。……可能性としては低いとは思いつつも、『好きだ』という訳でもないかもしれない。


 そもそも恋愛に縁がなかった、自己評価の低い章だ。初めてされた告白が俄に信じがたい。




  「ごめんなさいっ気持ち悪いよね?! でももう止めるからっ」


 一方の直子は、引かれているにしても、章の口から厳しい台詞を今は言われたくない。涙目になりながらも、必死に笑顔を出そうと頑張る位しかできなかった。


 章はそんな直子を見て「なんだもう可愛いなときめく」などと思いキュンキュンしてるだけに、尚のこと確認はきっちりしておきたい。


  「なんで見てたの?」

  「…………っ!」


 その質問に直子の紅潮した顔が、これ以上無いほどにぶわっと赤くなるのを見た。


  (うわぁ……)


 リトマス試験紙ではないが、その反応によって章は『好かれている』と確信する。


 ハッキリと言ってほしいが、これ以上追い詰めると逃げられてしまうかもしれない。


  (……それは嫌だ)


 再び同じことをやるのは、メンタルにあまりよろしくない。あまつさえ避けられでもしたら、大打撃だ。




  「別に、気持ち悪くない…………ええと、」


 自分の中で『今のは告白だった』と結論づけた章は、髪を掻きながらそう言い、その手をブレザーで激しく拭ってから直子の目の前に差し出した。


  「え…………」


 その意味をはかりかねる直子。

 顔を上げて章を見ると、紅潮した顔をこちらに向けていたが、直子と目が合うと恥ずかしそうに逸らす。


  「……俺で、いいなら」


 章も実はまだ告白されたという確固たる自信はない。

 8割方は合っているだろう位なものである。


 手とか出しちゃったけど、このまま放置されたらどうしようという不安……しかし直子はなかなか手を取ってくれない。


  (……なんだよ?! やっぱり勘違いなのかっ?! だが手を引っ込めるタイミングもわからねぇ…………!!)


 ……カッコつけただけにかなり恥ずかしい。

 直子の方を見ることができないまま、我慢して手を出し続ける章。耐えろ。



 てっきり咎められると思っていた直子の脳内は、上手く章の言動の意味合いを処理することができないでいた。


  (あれ? え? ……えっと)



  『気持ち悪くない』と言って、手を差し出した章。


 恥ずかしそうに頬を染めた顔を逸らす章。


  『俺で、いいなら』と言う章。



  (……………………!!)


 章の言動を反芻し、ようやく認識する。


 焦れた章が直子の方を向くのとほぼ同時に、息を飲みながら直子はその場にしゃがみこんだ。あまりのことに腰を抜かしたのだ。



  「…………えっ、あの……──いいの?!」

  (竹田さんが好きなんじゃ……)


  「……嫌なの?」

  (え? やっぱり勘違いとか?)


  「…………!!」


 無言で首を振る直子。


  「…………」


 照れと自信のなさから必要以上に言葉を発しない章。



 ふたりとも相手の気持ちを些かはかりかねていた。

 だが、互いの想いはひとつ。



  『多少の勘違いはあるかもしれないが、この際これに乗じることにしよう!』



 ──そんなこんなでふたりは付き合う事になった。



 章は照れ隠しに「いつまで座ってんだよ、制服汚れるだろ」とそっけなく言いながら、立ち上がるのに手を貸した。ご褒美ツンデレである。




 暫くの間直子は夢見心地だった…………



 そしてスッカリ忘れていた。

 みどりが章を明らかに意識していた事を。


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