表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4・誤解に次ぐ誤解

 

 今回の『ときめき☆ツンデレ観察』は、ハッキリ言って最高だった。

 いつもよりなんだか微妙な気がしたことなんて、スッカリ忘れて直子は章の言動に萌えまくった。



 以下、直子目線によるふたり。

 ※尚、()部分は直子の心の声である。

 *************************************


  「あっくん、今帰り?」

  「ああ」

  「じゃ、一緒に帰ろ」


 少しだけ嫌そうな顔をする章。態度も素っ気ない。


  (キター! ツン!!)


  「……先輩はいいのかよ」

  「…………うん」


  (嫌味の中に滲み出る、嫉妬!)


  「いい加減にしろよ。 そうやっていつまでもフラフラしてるから奴等も勘違いするんだろ? もうどちらかに決めろよ……」


 溜め息と共にそう言う章。


  (自分はその選択肢に入れないあたり!)


  「なんにも知らないくせに、そんなこと言わないでよ……!」

  「いや、知りたくもないわ」


 泣きそうなみどり。静かに突き放すように、抑揚を変えない章。


  (キャー! 『知りたくもない』とか!! だよね、だよね! 好きなコの恋愛事情なんて、本当は知りたくもないよね! でも相談に乗っちゃうんだよね!)


  「お前こそなんにも知らないくせに……俺の前でそういう顔、すんなよ」


 苦悶の表情。何かを言いたそうにしているが、言わないまま章はみどりから目を逸らす。


  (うわぁ! もうそれ告白と同義だって!)


  「……どういう、意味?」


  (気付いた!? 気付いたよね!? 竹田さん!)


  「わからないなら、いいよ……もう」


 みどりに背を向ける章。


  (言わないんだ!! そこは言ってもいいところっ)


 *************************************


 完全に誤解なのだが、『永石くんは竹田さんが好き』と思い込んでいる直子の目には、()内でもわかるように、少女漫画的なやり取りが繰り広げられているように映っている。


  『ああもう、もどかしい! ツンデレ万歳!! 萌え!』


 ……と興奮が続く筈の直子だったが、章の視線に気付き、一気に体温が下がる。



  (は……っう、わぁぁぁぁぁぁ!! わわわわ私の観察行動がバレた!?)



 急いで逃げるもすぐ捕まった。


  (つーか腕! 掴まれてる! ヤバい死ぬ!!

 …… 肉 体 的 接 触 ぅぅぅぅぅぅ!!)


 ピンチの中で、別枠の『ときめき☆time』が復活。

 しかも即怒られると思いきや、驚いた顔で腕を掴んだままの章の頬にはじわりと若干の赤みが射してきた。

 こんな表情見たことがない。


 更に慌てたように腕を離した章は、少しの逡巡の後で間の抜けた台詞を吐く。なんだか可愛らしい感じで。


  「……ええと、多田、なんか用?」


  (はわわわわときめきしかない! 永石君の主成分はときめきなの?!)


 ギャグ漫画なら盛大に鼻血を吹き出しているところである。


  「え、あの…………」


 ときめきと興奮のあまり、動悸、息切れ、身体の震えが止まらない直子の語彙は吹っ飛んだ。

 それしか言葉が出てこない。

 言語中枢に不具合をきたす程に、章がイチイチ、いつも以上に素敵に見える。


  (気まずそうに髪を掻く仕草ぁぁぁぁぁぁ!!! ズルい! カッコイイ!! これはズルい!)




  「悪い、なんか最近視線を感じて……ちょっと過敏に…………

 …………!」


  (や っ ぱ り バ レ て た ─────!!)


 観察行動=ストーキング。


 ……とは言えないまでも、これを追及されたら答えようがない。


  『永石君がツンデレで最高に萌えるから!』……等とは口が裂けても言えない。追及される恐怖と恥ずかしさに涙目になり、震える唇を噛み締めた。


  (あああ不審! 答えなくても不審っ!! 迷惑! モブにあるまじきぃぃぃぃ!!)


 答えると変態。……キモい。

 そう思った直子はいい言い訳を考えたが、なんせ彼女の言語中枢は現在不具合をきたしている。

 だが章は追及してはこず、なにかオタオタした様子だ。


  (私がびびっていることで、強くは聞けないんだ…………! はわわわわ……最早萌えしかない、萌えしかないないわ永石君!!)


  『ツンデレの主成分は優しさと照れ隠し』


 つまり『半分位は優しさでできている』という、某鎮痛薬のキャッチフレーズのような主張を持つ直子は、そんな章にも萌えた。

 彼女本人が言うように、直子の中には最早萌えしかない。


  (…………これはマズい!)


 直子はそう感じた。

 このままではときめき過ぎて、ガチ恋へとスライドしてしまう。



 自分はモブ(的存在)である。直子(モブ)にとって章はあくまで『萌え対象』でなければならなかった。

 ヒロイン的美少女(しかも幼馴染み)に惚れている人に、リアルな恋心など抱きたくはない。きっと、誰だってそうだろう。


 出ない声を無理矢理出して謝り、その場から逃げ出した。




 学校から離れるにつれ、冷静に思い出されるさっきまでのみどりと章。何故か萌えていた筈の章の諸々に胸が痛んだ。


  (ああぁぁぁぁぁ! なんて単純なのぉぉぉ!!)


 直子は初めて自らのモブスペックを呪った。

 別にヒロインになりたいとかではない。


 だが……少女漫画でいうところの『イケメンヒーローにちょっと声を掛けられてキャーキャー言う勘違いモブ』になった気がして。



 ──直子は、せめて『モブ中のモブ(特に役割もない)』でいたいのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ