2・永石 章の最近気になること。
俺、永石 章は特別目立つ人間でもないと自負している。
幼馴染みであるみどりが二人の先輩から言い寄られるようになって、必然的にその恋愛に巻き込まれてしまい……多少悪目立ちするようにはなった。不本意ながら。
だが最近は、俺の知らないところでみどりを廻る三角関係が勝手に進んでおり、みどりも逆に俺に相談などしなくなったので、俺はまた目立たなくなった筈……なのだが……
──最近、視線を感じる。
「あっくん、今帰り?」
「……ああ」
「じゃ、一緒に帰ろ」
放課後たまたま残っていたら、クラスのどんくさい女子が先生に仕事を押し付けられていた。自分でもお人好しだと思うが、そういうのを見て放っておける性質ではない。仕方なく手伝っていたら、その子が帰って一人になった途端にみどりと鉢合わせてしまった。
(……ついてねぇ)
せめてそいつが帰る前なら良かった。みどりはみんなの前では如才なく空気を読む女だから、彼女の方に話し掛けただろう。
「……先輩はいいのかよ」
「…………うん」
しくった。
うっかり嫌味を言ってしまったら、みどりに暗い顔をされてしまった。
折角謎の恋愛トルネードから脱出を果たしたと言うのに、そんな顔をされたら性格上、俺はまた悩みを聞く羽目になってしまう。
自ら聞く気などないが、そもそも『一緒に帰る』とみどりが言い出した時点で既に聞かなきゃいけないパターンであり、それをガチで拒める程にはみどりに情がない訳ではない。
なんせヤツとの付き合いは長く、家族とは違うがそれに近い繋がりはある。
だがこのままでは二次被害は必至。
もう巻き込まれるのは流石にゴメンだ。こっちの風評被害を考えろ。
みどりには悪いが突き放すことにする。
「いい加減にしろよ。 そうやっていつまでもフラフラしてるから奴等も勘違いするんだろ? もうどちらかに決めろよ……」
溜め息と共にそう言うと、ヤツはキッとこちらを睨み、食って掛かる。
「なんにも知らないくせに、そんなこと言わないでよ……!」
うわ、なんで泣きそうなんだ。
俺は大したことを言っちゃいない。勘弁しろ。
「いや、知りたくもないわ」
いよいよ今まで我慢していた本音を口にしてしまった。
みどりは悪い奴じゃないが、そういう話は別の……できれば女子とすべきだと思う。謎の恋愛トルネードやその余波に、これ以上俺を巻き込まないで欲しい。
事実、俺は何故かみどりが好きなことにされている。
それも、なんだか可哀想な感じで。(※風評被害)
「お前こそなんにも知らないくせに……俺の前でそういう顔、すんなよ」
また悩みを聞かなきゃならなくなるだろうが!
そうしたらまた俺は風評被害を被り恋愛から遠ざかる上に、先輩からも絡まれるわ……良いことなしなんだからな!!
そう言いたい気持ちを堪えつつ、なんとか突き放す。
正直突き放すのもあまり得意ではないので、結局いつも『ちっ、しょうがねぇなぁ』等と言って悩みを聞いてやっては周囲に誤解をうけてしまう。
──そんな俺も悪いとは思う。
(人がいいのに悪いとは、コレやいかに……!)
みどりは昔からええかっこしいなので、迂闊に人に悩みを言うことができないのを知っている。
だから幼馴染みの俺にお鉢が回ってくるのだ。
みどりのええかっこしいも、彼女なりの努力であるのがわかっている為、周囲に事情を説明するのは憚られる。
だからみどりに理解して、自重してもらうよりない。
「……どういう、意味?」
どうやらわからなかったようだ。
幼馴染みって恐ろしい。付き合いが長いせいで遠慮がねぇ。
「わからないなら、いいよ……もう」
もう説明するのも面倒なので、みどりを置いてその場を後にした。泣かれても更に面倒なことになるのは明白である。
──また、視線。
感じた方向を見回すと、動く、誰かの影。
咄嗟に追いかけた。女子生徒のようだ。
俺の足はそこそこ速く、逃げた子をアッサリ捕まえることができた。
「…………おい」
捕まえた女子生徒──
それはさっきまで仕事を手伝ってやったクラスメイト……多田だった。
意外な流れになった。
あれ、ツンデレじゃなくない?