1・モブ的主人公、多田 直子の独白。
ツンデレについて熱く語りたかっただけで始めてみました。
──好きな人がいる。
好きな人には好きな人がいる。
通常これは、大変に不毛な構図だろう……しかし私は幸せだ。
片恋の彼を見ていること。それこそが私の至福の時間に他ならないからである。
私の好きな人は永石 章くん。
彼の好きな人は竹田 みどりさん。
ふたりは幼馴染みだ。
幼馴染みとか、既に超ポイント高い。しかしそれより重要な事実──彼……永石くんは!(声を大にして)
『 正 統 派 ツ ン デ レ 』なのである!!
──私、多田 直子は少女漫画が大好きだ。
特に90年代後半の漫画は性癖に合致している。
まず竹田さんと彼女の周囲だけでも、少女漫画好きとしてはときめかざるを得ない。
竹田さんは少女漫画の主人公よろしく、『地味目の美少女』だ。
実は美少女だけど、朗らかで温厚、誰にも親切故に『皆に馴染みやすく悪目立ちしない』あたりが美少女感をいい感じで緩和させており、男子に『俺でもいけんじゃね?』と思わせ、女子には嫌われることがないという……『美少女よりも実は、ハイスペックな美少女』なのである。
なんたるテンプレヒロイン…………これは推さざるを得ない。
だがここからがまた凄い。
彼女に目をつけたモテ男、京極 夏夜先輩が色々彼女に絡んでくるという、正に少女漫画テンプレ展開を繰り広げ、竹田さんはなんだか知らんうちに京極先輩にガチで惚れられている。
しかも京極先輩の幼馴染みで彼の素行を心配していたモテ男、南 冬治先輩(生徒会長)の心もGET。
白熱する恋愛模様。少し強引な京極先輩と、少し腹の黒そうな王子、南先輩……ふたりの間で揺れる、乙女心。
『俺様vs優等生』の構図!!
先輩達の名前の字面も華やか!!
──一方、幼馴染みキャラである永石くんの字面の地味さ。
だ が そ こ が い い。
そう、竹田さんの周囲は素晴らしく少女漫画展開を繰り広げている。私の様な少女漫画スキー(特にベタと言われる展開が好きな)において、『いつも成分御馳走様です』と感謝の祈りを捧げなければならないレベルだ。
そんな中でも最強最推し最萌えは、勿論幼馴染みキャラであり正統派ツンデレの永石くんである。
幼馴染みキャラな時点で既に萌えるが、地味系イケメン幼馴染みとか超ツボ。派手なふたりの先輩とは違う、安心感が堪らない。それになによりも、永石くんは私の大大大好きな『正統派ツンデレ』なのだ!!
永石くんも当然ながら竹田さんが好きな様子。……幼馴染み美少女だもの、そりゃ、そうだろう。
少女漫画の世界ならば、好きにならない方が稀な設定と言える。
だがふたりは所詮幼馴染み。男子として意識して貰えない、切ないポジションの永石くんだが……永石くんは永石くんで今の関係を崩したくないようだ。
そんな永石くんの想いに気付かない竹田さんは、彼に恋愛相談をしているという。(これは永石くん本人が面倒臭そうに溢していたので、紛れもない事実である)
そんなこんなで、永石君は竹田さんに冷たい態度を取りながらも、結局いつも『……ちっ、しょうがねぇなぁ』と言いながら、何の見返りもない汚れ役を買って出るのである。
『ちっ、しょうがねぇなぁ』
これこそがツンデレ オブ ツンデレ。
ツンデレ金言であり、ツンデレの本質と言っても過言ではない。
面倒臭そうにしているのはポーズであり、そこに隠された複雑な気持ちに萌えるしかない私。
永 石 く ん 、 最 高 か よ。
昨今、『ツンデレ』に対する認識が怪しくなっていることに、ツンデレ好きとしては危機感を抱かずにはいられなかった。
──それは、『俺様』の台頭による。
『俺様』のせいで『ツンデレ』が『俺様』と混同されがちになっている現状……だが違う。断じて違う。(力説)
『俺様』はいわば、『ツンデレ亜種』……長いスパンを以てデレと化す。大きく違うのはその根底にある。
『正統派ツンデレ』
その主成分は『優しさと照れかくし』。
そもそも『ツンデレ』は『ツン』と『デレ』が同時に存在してこその『ツンデレ』なのであり、『好意や優しさを照れるあまり、素直になれない』という構図なのだ。
なので『正統派ツンデレ』は『俺様』のように、むやみやたらに本当に相手を傷付ける様な台詞などを吐いたりはしない。うっかり吐いてしまうときは感情が昂った時くらいである。それはツンデレであるかどうかなんて関係なく、至って普通のことだ。
しかしこの『至って普通』というのが『俺様』の台頭を許した理由でもある──要は『正統派ツンデレ』は、キャラの濃さが薄いのだった。
永石君も然り。
パーフェクトだ。パーフェクトツンデレだ。
ツンデレ好きとしてはもう、応援せざるを得ない。
いつの間にか私は、永石君の事を影ながら見守る様になっていた。
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